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修了生論文

自社分析と経営戦略

東京校 (T-college) 平子 恵俊 (株式会社 永山建築設計事務所 代表取締役)

Ⅰ. 動機

スクールへ入校し、ベーシックコース全12回の授業を受講した。統計学、会計学、経営理念、経営戦略、リーダーシップ論、マーケティング等々多くの分野にわたり勉強することが出来た。私は会社を継承して12年を継過するが、代表取締役就任当時の社会経済状況は「コンクリートからひとへ」のスローガンを掲げた、民主党政権の時代でありバブル崩壊後の景気不況に加え、公共事業投資縮小は地方経済に大きな影響を与えていた。我々の建築設計業界を含め、建設業全体を取り巻く経済は、右肩下がりのどん底の状況に置かれていた。

 

2011年3月に東日本大震災が発生し、甚大な被害に加え我が福島県においては東京電力福島第一原子力発電所の爆発による複合災害となった。以降復旧、復興事業施策により震災バブル景気とも言われる程、業界の経済状況は好景気を呈している。

しかしながらこの震災復興バブル期も終わろうとする今、震災前の競争激化時代の再来を予測し、現在のおかれている自社を分析し5年、10年後を見据え、今とるべき対策は何かをしっかり検証し、目標と戦略を明確にしてゆくべきと考える。

 

 

Ⅱ. 企業概要

会社名:株式会社 永山建築設計事務所 1級建築設計事務所(専門サービス業)

創 業:福島県いわき市に昭和35年創業 昭和50年法人化

所員数:取締役3名 従業員10名 計13名

年 商:約 2憶円(10年間平均)

建築設計業務を大別すると意匠設計・構造設計・設備設計に分類され、当社は意匠設計を主とする会社である。

 

 

Ⅲ. 問い

 

1. 会社の財務状況について

当社の売上高の推移をみると、直前3カ年平均は約2憶9000万となっているが、震災前2011年以前の年商は、1憶4000万程度であった。震災復興景気の影響が、顕著に表れているのが分かる。今後急激な受注減少が予想でき、財務状況の悪化は必ず来ると考え、経営分析と適切な財務、管理会計の観点から経営管理に必要な情報を持つことではないか。

 

2. 目標と経営戦略について

バブル崩壊後、建設業界は景気低迷の中、建設関連技術者の極端な建築業界離れが続いていた。しかし、東日本大震災の発生と原発事故により一変した。多方面では減縮予算の中、我が福島県においては、復旧・復興期10年の国策のもと、巨額の復興予算が投入されている。特に原発立地地域とその周辺地域に投入された巨額の予算は、廃炉完了まで続くといわれている。

大型プロジェクト事業は言うまでもなく、大手企業のみが受注しており地元中小企業が、生き延びるためには、今どうすることが迫られているのか、自社の置かれている環境や、状況を分析し、将来を見据えた会社の目標と戦略を捉えなければならいと考える。

 

 

Ⅳ. リサーチ1 財務分析

1. 過去3年間の財務会計を分析してみる。

・売上高、外注費、人件費、販売費・一般管理費、純利益

2. 過去3年間の経営分析をしてみる。

・収益性:売上高営業利益率・売上高経常利益率

・安全性:自己資本比率・固定長期適合率

・生産性:労働生産性(売上総利益/従業員数)

・成長性:前々年対比・前年対比(売上高・経常利益)

・規模 :売上高・総資本

 

 

Ⅴ. リサーチ2 経営戦略

1. 同業者、新規参入企業との敵対の脅威が激しくなるだろう。

・ファイブフォース分析を使って自社の収益をもたらすための課題と戦略を立てる。

2. 内部環境にみる現在の強み・弱みをとらえ、外部環境における機会と脅威、対策を練る。

・SWOT分析を使って将来自社の収益をもたらすための課題と戦略を立てる。

 

(企業の属する業界の構造)

当社は、福島県内を営業拠点として活動しており福島県、いわき市、及び太平洋沿岸地域の市町村(東京電力原子力発電所立地地域)から発注される公共工事と、民間企業や個人からの受注である。建築設計を業とする事務所を分類すると、1級建築士事務所、2級建築士事務所がある。建築設計の業務は、総合的に取りまとめをする意匠設計、構造を担当する構造設計、電気設備や給排水、空調設備などを担う設備設計に分類される。

当社は1級建築事務所であり、意匠設計を主とする事務所分類に属す企業である。

 

福島県における県内業界同業者の調査状況は次のとおりである。

➢ 福島県における建築設計事務所登録数

福島県全体登録数 備  考
1級建築士事務所 944 社 内いわき市は170社
2級建築士事務所 665 社    〃   95社
合  計 1,609 社 内いわき市は265社

 

➢ 1級建築士事務所における社員数による分類

社員数 1~4名 5~9名 10名以上
事務所数 42 社 28 社 29 社

※当社は10名以上の29社に属する。

 

➢ 保有技術者数による分類

技術者数 1~4名 5~9名 10名以上
事務所数 63 社 29 社 8 社

※当社は10名以上8社に属する。

 

➢ 年間売上高による分類

売上高 5千万円以下 5千万~1憶円 1憶~2憶円 2憶円以上
事務所数 50 社 25 社 21 社 4 社

※当社は2憶円以上4社に属する。

※上記結果による1級建築士事務所登録数のうち当社は、約10社が競合企業とみる。

 

(ファイブフォース分析)

1.     既存競争業者

a. 検証の結果から競合企業数は何社と判断できるか。

 

b. コスト競争が激しく差別化がしにくい業種であり、小規模事務所に負ける。

2.     新規参入業者

c. 建物の種類、規模、特殊性により県外大手企業・大学教授やアトリエ系建築家の参入。

3.     代替品

d. 震災復興需要による大手建設企業の設計施工が急増。

4.     売り手(供給業者)の交渉力

e. 業界での協力業者(構造・設備設計)の震災復興需要による業務量増加。

5.     買い手(顧客)の交渉力

f. 同業者との組織力、技術力、価格競争などの要因により取引が決まる。

 

 

 

a′技術者数、売上高から上位10社以内に属す。競争要因は、組織力、技術力、価格競争力。

b′コスト競争による勝ち・負けは、受注高0か100の業界であり経営判断が難しい場合多い。

c′大型受注に負けることは経営で最も脅威である。技術力やプレゼン力で勝てない。

 

d′工場、アパート、公営住宅・個人住宅

においては工期、金額で負ける。

 

e′外注業者(構造、設備)の競争力や企業数が少ない為、外注業務費の増加になる。

f′顧客からみる、組織力、提案力、技術力

で交渉し、価格競争はしないようにする。

価格競争は業界成長に繋がらない。

 

(SWOT分析と対策)

S 強み 現在当社において強みと感じること(内部環境) W 弱み 現在当社において弱みと感じること(内部環境)
a. 営業圏(県内)において所員(技術者)数が多い。業務多忙期において処理能力がある。

b. 勤続年数、経験年数の永い社員が多く

問題解決力に優れている。

c. 業務担当者がそれぞれ営業活動につなげている。

d. 設計、積算、工事監理まで一連の業務

を多くの社員がこなせる。

e. 社員の平均年齢が高い、若手社員が少なく育ってきていない。

f. 学習意欲が乏しくなっている(新しい技術、情報を取り入れようとする意欲)

g. 外注業務(構造設計、設備設計)を統括する知識(総合力)が落ちている。

 現在の弱みと思う部分の改善対策

 

e′会社のPRが足りないので求人募集に力を入れ有能な社員を求める。

f′社員の学習意欲や業務貢献など、能力評価基準を作成し目標を共有。

g′統括する能力は、日々の学習によること、自助努力を促す。

O 機会 将来強みの部分をどう伸ばすか、発展させるか(外部環境) T 脅威 将来弱みの部分の改善対策

(外部環境)

1. 経験豊富な社員の定年延長や経験豊富な技術者の再雇用を取り入れる。  (a・b)

2. 3次元CADによるプレゼン力強化を進め、コンペやプロポーザルに勝つ知識の習得。(e′・f′・g′)

3. 組織力の構築と、営業分野の新しい開

拓をする。(a・b・c)

 

4. 大手企業や建築系大学教授の受注が目立つ。(自ら競争を避けている。)

5. 大手企業しか受注できない業務の急増

将来弱み部分の改善対策

 

6. 地域の持つ優位性をPRし特定の部分  で業務を見つけ出し営業する。

7. 新規事業を視野に入れ、組織的な方針を立てて実行する。

 

 

Ⅵ. 検 証

(財務分析)

 

1. 過去3年間の財務会計を分析。

P/L (千円)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
売上高 255,884 222,694 404,861
人件費 101,266 105,029  80,651
外注費  73,870  55,485 168,316
販売・一般管理費 251,004 215,933 378,340
純利益   2,054  10,166  21,199

 

 

B/S (千円)/(%)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
流動資産合計 151,081 42.8 191,115 48.4 221,659 50.7
固定資産合計 202,115 57.2 204,028 51.6 215,782 49.3
資産合計 353,196 100.0 395,143 100.0 437,441 100.0
流動負債合計 56,187 15.9 105,176 26.6 144,283 33.0
固定負債合計 63,664 18.0 47,656 12.1 31,648 7.2
純資産合計 233,345 66.1 242,311 61.3 261,510 59.8
負債・純資産合計 353,196 100.0 395,143 100.0 437,441 100.0

 

2. 過去3年間の経営分析

上記データより、収益性、安全性、生産性、成長性、規模の分析結果は以降の通り。
➢収益性 (%)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
売上高営業利益率 1.91(5.3) 3.04(5.3) 6.55(5.3)
売上高経常利益率 2.94(5.9) 6.32(5.9) 7.03(5.9)

➢安全性 (%)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
自己資本比率 66.07(28.0) 61.32(28.0) 59.78(28.0)
固定長期適合率 68.05(83.5) 70.36(83.5) 73.6(83.5)

➢生産性 (千円)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
労働生産性 21,000(7,019) 21,000(7,019) 32,000(7,019)

(  )数字は業界(専門サービス業)平均参考
➢成長性 (%)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
売上高前々年対比 158.22
売上高前年対比 87.03 181.80
経常利益前々年対比 378.27
経常利益前年対比 187.1 202.17

➢規模 (千円)

平成27年2月 平成28年2月 平成29年2月
売上高 255,884(1.00) 222,694(0.87) 404,861(1.58)
総資本 233,345(1.00) 242,311(1.04) 261,510(1.12)

(  )数字は平成27年2月を1.0とした

 

 

Ⅶ. 結果・考察

(財務分析)

※当社、過去3年間における財務会計、経営分析の結果を判断する。

➢ 収益性においては、平成26年、27年は売上高営業利益率が低い数値となっている。 平成28年は業界平均を上回っているが、目標利益率は10%台を目指す。

人件費、外注費の占める割合が大きな要因となっている。

➢ 安全性においては、自己資本比率は高水準であるが、固定長期適合率は長期借入金によるものであり、長期借入金0を目指す。

➢ 生産性は、売上高に対する1人当たりの生産性の額であるが、平成29年度は特に高い数字となっている。

➢ 成長性、規模は過去3年間を通して順調に伸ばしている。

平成17年からの推移を下図に示す。グラフでわかるように、東日本大震災以降の復興需要による売上の増加が鮮明であり、今後の売上確保が最大の課題となる。

 

 

(経営戦略)

➢ ファイブフォース分析から見えた脅威

※既存競争業者と新規参入業者との競争が、当社において最も脅威と考える。

時に既存競争業者の敵対関係は、公共工事における競争入札で、価格ダンピングによる小規模事務所との競争が多くなった。当社の価格競争で受注している割合は、6、7割を占めているのも実情であるが、過度の価格競争は業界の目指すところではないと考える。

 

大型公共工事発注による、大手企業や大学教授の参入が多い市場でのプロポーザル競技等においては、組織力、提案力、技術力で中小企業が競争に勝つことは、なかなか困難である。

一方、震災復興市場における建築工事において、大手ハウスメーカーとの競争激化も脅威の一つである。特に工場、民間アパートや個人住宅における価格や工期短縮で負けてしまう場面が非常に多い。

当地域は国、県が主導し、廃炉関連の事業はもとより、新しいまちつくり施策として、イノベーションコースト構想による新規事業計画が目白押しである。

今、置かれている脅威を捉え、地元企業である事の優位性と自社の持つ経済価値、組織力により戦略を立て実践することである。会社創立後、半世紀以上の歴史を持つ地元での信用や、技術者の人数も強みの部分である。

 

➢ SWOT分析からの戦略

※これらの分析から見えてきたのは、県内に於いて規模、売上高は県内業界上位であること、ベテラン社員が多く問題解決力に優れている強みと、反面若手社員が少ない等、将来に向けての組織構造、年齢構造に疑問がある。「これで満足だ」という事業領域が固定化していること、経路依存性が常態化している事に危機感がある。

◇強みを活かして機会を勝ち取る対策(新規市場への経営資源投入)

・社員の高齢化が進む中、ベテラン社員ならではの交渉力、業務統括力の強みを活かし分業化、部門化を組織して新たな市場(業務分野)への参入を目指す。

・中期的構想に子会社等の設立を目指す。(業務分業化)

◇強みを活かして脅威を機会に変える戦略

・大手企業しか参入できない業務に対し、自社の持つ経営資源やケイパビリティの優位性をPRし、大手企業との共同体等を視野に、特定分野での受注機会を開拓する。

◇弱みを補強して、機会をつかむ施策

・管理職の統括する能力は、リーダーシップ教育訓練や社員の能力評価や業務貢献など定量、定性評価基準を作成し、常に勤労意欲を持つように仕掛ける。

◇弱みである人材育成対策(タマゴが先か、ニワトリが先か)

・新規採用による優秀な人材、経験豊富で有能な中途社員の両方の確保が重要である。

会社のPRが足りないのでHPやITを活用し、求人募集に力を入れる。

人材を成長させること、業績を伸ばすこと、どちらも大事である。

 

 

Ⅷ. まとめ(今後の取組と監査)

※分析の結果より自社の現状から将来への対策すべき部分は何かが見えてきた。

「まずは、現状維持」という思考から、「常に一歩でも上を目指す」挑戦する思考に変え、スクールで学んだことをもとに、将来にむけ地域のトップ企業を目指してゆく。

企業のリーダーとフォロワーが目的、目標を共有し役割・機能を分担し一定のルールに沿った組織運営をすることである。

 

1. 財務会計について

・今まで明確にしていなかった、目標となる月次試算表の作成、年次予算計画書を作成し、月、年次の対比を行い改善部分の検証、営業目標を明確にしてゆく。

会計事務所と経営コンサルタントのアドバイス、評価を受け確認してゆく。

・適正な販売費、一般管理費を細かく検証し経費削減をする。

 

2.経営戦略・マーケティング

・リーダーは目的と目標(企業理念・ビジョン・戦略)を掲げ、中期的な経営計画と行動指針を立て浸透させる。ビジョン・戦略を明確に解りやすく伝え、情報共有の場と相互のコミュニケーションの場をつくることであり、的確な判断、意思決定により組織の強化をはかる。

・3C ⇒ STP ⇒ 4Pの基本フローから、自社の経営環境や、経済価値に沿って顧客に優位な価値の提供と、そこにある競合業者と差別化できる強みにより、競争優位性に従い一貫性のある施策を立て実践することである。

※今後の経営戦略計画を下記の通り行動する。

 

(財務関係)

1. 財務月次試算表

月初めに会計事務所からの残高試算表を基に当月のB/S予定立てる。⇒ 経理が作成し社長が確認。

2. 年次予算計画

社長が決算報告書をもとに、税務申告後に予算作成し、株主総会、役員会に報告。

 

(経営戦略)

1. 企業理念・ビジョン・戦略

社長が企業理念・ビジョンをつくり、役員、所員と戦略を練る。⇒ 4月以降、3カ月を目標に策定する。

2. 組織構造構築

社長が現在の業務状況から分業、部門化し上下間の意思決定の精度を上げる。 ⇒  4月以降、3カ月を目標に策定する。

3. 所員教育研修実施

社長が専門知識向上のための研修、社員教育に必要な研修を年間通して行う。

4. 人材確保

年間を通して、新規採用、再雇用の職員を求める。⇒ HPを今年度中に再開設しITを活用しながら進める。

5. 新規市場への参入

社長が今までの、営業により築き上げてきた人脈を利用し、B2Bの構築。 ⇒ 新年度に入ってから、発注の状況により時間をかけ取り組む。

6. 子会社の設立

社長が 会社の組織上優位性を考え特異性ある業務分野を切り離し独立させる。1年先を目途に設立を進める。

 

 

 

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