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修了生論文

現在の立ち位置と今後の販売戦略

大阪校(O-college) 浦川 文都阪和精密工業株式会社 代表取締役社長)

1. 研究の動機

業界の傾向として、景気の波や社会情勢の変化により需要の変動が大きく、減産時には他社との激しい価格競争により財務的な体力を削られ、増産時においても利益が出にくい体質になっている。

そこで、他社との差別化を行うことにより価格以外のもので勝負することができれば、財務体質の強化や、客先にとっての新たな価値の創造にもなる。

さらに、主要取引先であるN社含む日本のベアリングメーカーは世界的なシェアにおいての優位性があるため、競争力をつけることができれば、当社だけでなく業界全体の活性化や海外メーカーとの戦いにも勝てる体質が作られるのではないかと考えたためである。

 

 

2. 自社の概要

1964年の創業以来、大手ベアリングメーカーを主要顧客に、業界的にはニッチ製品である「複列ボールベアリング」をメインに受注活動を行っている。

複列ボールベアリングは一般的なベアリング(以下ラジアルベアリング)2個を組合わせて、内輪、外輪をそれぞれ一体化した構造で、高い荷重を支えることが可能である。

ラジアルベアリングに比べ、ロットが少ない、加工工数が1工程多い等の要因により、競合が少なく単価が下落しにくい、需要変動が少ないという特性がある。

ただ、昨今の需要の低迷によりラジアルベアリングと同様に、受注量は減少の傾向が大きくなってきた。そのため、約15年前より、ラジアルベアリングの受注量を増やし需要変動への対応が可能となるようにシフトしてきた。これにより、各個製品の受注量の変動はあるものの需要の平準化がされた結果、受注量の安定化や増量が可能となった。

2008年には過去最高売り上げを達成した。しかしその後リーマンショックや顧客の海外現地調達化の加速により受注量が減少し(2012年除く)、2年前より大きな赤字状態に陥った。

その中で、顧客自体も切望していた大手顧客からの受注が決定し、当該案件の発注先が当社に決定した。来年度(2018/6)に試作、再来年度(2019年秋)には量産開始が予定されている。

当該製品の加工には新規設備の導入が必要であり、同業他社は投資を見送る形で受注が決定したため、以降の類似案件の引き合い時には当社が優位的な立場で受注交渉を行うことができると考えられる。

当社の製品はすべて企業向けであり、ほぼすべてリピート品である。

顧客数は7社あり、大手企業3社(N社、NK社、S社)、中小企業4社(O社、K社、I社、NS社)である。

しかし、販売数量は大手企業(N社)が過半数を占めており、S社、O社への販売品も最終的な納入先は上記のN社およびNK社であり、実質的にはそれら2社への売上げ比率は80%超である。

 

 

3. 研究課題

マーケティング分析により当社の今後の販売戦略を策定する。

当社の状況、顧客のニーズ、競合との関係性を調査し中長期的な視点での販売戦略を策定する。

 

 

4. 手法

当社の販売戦略を策定するにあたり、調査(a.当社の現状分析、b.顧客ニーズ、c.競合のポジション)、分析、販売戦略の策定の3ステップで行う。

 

① 調査

a. ファイブフォース分析を行い当社の置かれている状況を把握する。

ファイブフォース分析、SWOT分析を行い、当社の強みを見つけることにより、強みを強化し、顧客のニーズを満たすことのできる範囲の特定を行う。

また放置すると起こりうる問題により、優位性が薄まるまたは無くなる可能性のある弱みがないか調査する。

 

b. 顧客へのインタビューを行い、当社から購入の動機中心に聞き出す。

顧客へのインタビューはメインの客先である大手企業2社(N社、N社K製作所)の購買担当及び、販売窓口のS社営業部門マネージャーの計3名とする。

 

c. 競合の製品特性、販売戦略等のリサーチを行う。

競合他社の得意とする製品を顧客からの聞き取りを主に情報収集する。

また可能であれば競合他社のトップマネジメント層とコンタクトを取り直接聞き取る。

 

② 分析

上記調査結果より、他社との差はどこにあるのか、顧客の求める製品サービスのうちで、当社にて提供可能かつ競合の不得意とする分野を見つけ出す。

その中には可能な限り現在だけでなく将来的な期待も含めて、中長期的な視点で潜在的なニーズを見つけ出す。

 

③ 販売戦略の策定

分析結果をもとに、今後の販売戦略の策定を行う。

ただし、販売戦略は自社のみの優位となるように策定するのではなく、業界全体(日本国内)の協調路線が保てるものとする。

 

 

5. 結果と考察

 

① 調査結果

a. 当社の置かれている状況

【シート1.ファイブフォース分析、シート2.SWOT分析より】

自動車メーカーは海外現地調達が進んでおりベアリングの国内からの輸出品が減少している。

10年前では国内生産:海外生産比率は7:3程度だったが、現状では5:5程度にまで国内生産が落ち込んでいる。

特に大ロット製品は中国、東欧等へのシフトが進んでおり、日本国内では小ロットまたは高難易度の製品が残ることが予測される。

瞬間的には海外国内含め需要が旺盛で受注量は増加しているが、今後需要減少時には国内生産の減少にて調整されると考えられる。

工作機械向けは、iPhone本体が削り出しであったため、それに伴う工作機械の需要が旺盛だったが、ガラス化、プレス化により減少傾向に向かうとの情報がある。さらに、現在は堅調に推移しているが中国などでの工作機械(NC,MC)の設備投資はひと段落し、今後の減少が予測される。

一方、最近の自動車の安全装置等の電子部品の増加に伴い、半導体関連装置の投資が増えるとの情報もあるため、需要予測は困難である。

 

新規参入のリスクは全般的には低く、国内ベアリングメーカーの内製による旋削加工はほぼ外注へとシフトしたため、今後外注化の影響による受注量は増えることはないが、逆行することは当面は心配がない。

従来は顧客が材料、鍛造加工、旋削加工を個別に手配をしており、鍛造加工メーカー、材料メーカーは付加価値の低い旋削加工にはこれまではあまり参入してこなかった。

しかし、材料メーカーは、顧客の資産圧縮を営業戦略として、材料から旋削加工までの一貫加工を手掛けつつあるため、今後の動向に注意する必要がある。

 

価格に関しては、自動車メーカーからの年次の生産性向上による価格低減要求が厳しく、年間2%程度の価格低減要求がある。

毎年の価格低減により古い世代の商品は価格が下がりきっており需要が増えても利益が出にくい。また、需要増の折には価格低減が求められるが、モデルチェンジ等により数量が減り、補修用になった場合でも価格は戻らない。

新規品についても、上記の理由により同業他社での価格競争が以前よりも過熱しており低価格になりがちであるうえに、現行類似品との価格比較を顧客が行いそれに合わせた価格でないと受注が難しい。

ただし、現状では受注量が多く、当社含め同業他社も能力がフルに近い状態のため顧客の価格低減要求は瞬間的には弱まっている。

 

設備は現在ほぼ1社から購入している。

交換部品や補修部品に関しても専用化されているため価格交渉の余地が少ない。

 

治工具(刃物関係)はすべて外注しており、ほとんどが1社に集中している。

納期や価格についても交渉が難しく、性能比較もあまり行われていない。

 

社内での年齢構成は65歳以上、50代、20~30代に山があり、技術レベルの高い65歳以上の退職が控えている中で技術の伝承が十分になされているとは言えない。20代~30代はまだ経験不足のためやむを得ないが、50代は上の年代に比べて技術レベルは大幅に低い。

 

b. 顧客へのインタビュー

S社S事業部営業マネージャー

N社K製作所 生産管理課 発注窓口担当者

N社BB工場 生産管理課長

【顧客インタビュー①、②、③】

 

c. 競合の製品特性、企業特徴

所有する加工設備により、製品サイズ、形状がある程度絞られ、その範囲内での受注活動が行われている。

現在、顧客・製品サイズが似通っているため競合する可能性があり、かつ分析可能で有意なデータが収集可能な競合はSY社、U社の2社である。

【競合調査①、②】

 

② 分析結果

調査の結果、当社にとっての一番の問題はコスト競争力の低さ及び生産性の低さである。

ただし、当社の納期対応、品質レベルが顧客から高く評価されており、過度に価格で勝負する必要はなく、細やかな納期対応、および品質管理に重点を置いた販売戦略を策定する。

そのため、技術の伝承やコミュニケーションの充実等、社内体制の強化が必須である。

コスト競争力はこれまで受注してきた製品の特性によるもでもあるため、高付加価値製品を受注すること必要がある。

 

③ 販売戦略の策定

現状N社への販売比率が高いが、リスク分散のためにも他社への営業活動を行う必要がある。複列ボールベアリングは各社少量ながらもラインナップしており、集めることが可能であればロットの大型化が狙える。ただし、月間の生産能力的にはクリアできても、材料納入から出荷までのリードタイムがかかる。そのため、複数顧客の納期がバッティングする可能性があるので受注時には納期の優先順位に留意する必要がある。

業界的には縄張り意識が強いため他社への営業は信頼できる同業他社経由で行う必要があり、非常に困難である。

そこで、S社およびO社へ調整を依頼し、競合SY社、U社との棲み分けを依頼する。さらに、他社への営業の窓口となる同業者であるY社を紹介していただき、同業4社で協力体制を作る。

信頼できる競合他社と協業をし、今後の日本国内での販売活動を強化することを実現させ、世界と戦っていくための販売戦略を策定する。

 

 

6. 今後の課題、監査方法

主要顧客の一つであるN社K製作所が移転する情報があり、その際に物流の兼ね合いで取引先再編の可能性がある。そのため、現状の加工系列のみでの調査ではなく地理的な条件も含めての調査が必要となる可能性がある。N社K製作所のトップマネジメントにコンタクトを取り情報収集を行い、必要であれば販売戦略を練り直す。

協力体制の確立は、狭く自社のみの利益にとらわれず、競合4社での将来ビジョンを統一する必要がある。その際には各社得意分野を持ち寄り、信義に基づいて販売活動を行うことが一番の課題となると考えられる。

4社会談を実施し、情報共有し、方向性を定めて販売戦略の作成を行う。

日程調整、仕組みの作成を行うことにより、定期的な会談実現をもって今後の監査事項とする。年間3回程度の実施を目標とする。

 

 

7. まとめ

創業以来の得意分野である複列ボールベアリングの将来性に不安を感じ、ラジアルベアリングの比率を高めるべく営業活動を行ってきたが、大ロット、低価格路線は競合他社と比較して強みがあるとは言えず苦戦を強いられている。

大きな変化を目指して実施してきた策のほうが印象に残っているため、頭の中にある現状と、実際にフレームワークや顧客へのインタビュー等を行い分析した実情にはギャップがあることが分かった。

また、近視眼的なビジョンではなく業界全体、少なくとも信頼できる競合他社、取引先との協力体制を作ることが必要であることに気づいた。

 

シート1.ファイブフォース分析

 

シート2.SWOT分析

 

顧客インタビュー① S社営業部門マネージャー

【当社の特徴】

複列ボールベアリングの旋削加工が他社に比べて強いが、競合がないわけではない。

複列ボールベアリングを加工している同業他社が、移転し、経営形態が変わる情報があるため、今のうちに営業活動をかけ、系列にかかわらずに集める必要があるのではないか。

 

【今後の課題】

顧客要求にこたえるために、生産性を向上する必要がある。

また、現在社長が行っている業務をもっと部下にさせ、強い組織力を作る必要がある。

指示をする際に、すぐに実行させること、ダメならいつまでに、を報告させることを怠らないこととの指摘を受けた。

(現状当社の窓口担当は上記が実施されてないということの指摘と考えられる)

定期的な同業他社とのミーティングを行い、市場調査、生産性分析、技術交流を積極的に行い、過当競争を避けつつ顧客の満足度を上げるべく取り組む必要がる。

仕事が非常に繁忙である現在、最も求められるのは安定供給である。

他社に負けない独自性のある強みを3分間でプレゼンできるか?と問われた。

 

強みのある他社を利用するぐらいのつもりで、同業他社との協調路線を模索するべきである。

 

顧客インタビュー② N社K製作所 発注担当者、資材担当者

【当社の特徴】

他社に比べ、品質・納期対応で優っている。

特に、納期対応では発注後、納期の調整が必要なものについては担当者が綿密に打ち合わせをし、調整内容から遅れることがない。

N社K製作所として、自動車メーカーとの取引においては供給責任を果たすこと、品質問題を起こさないことの二点を重視して発注先を選定することが多い。

その中で当社に発注すれば一番安心ができる、問題を起こさないと思われる、など信頼感が非常に高い。

 

【今後の課題】

競合も含め、人員不足がある中で今後どのようにしていくのかビジョンが分からない。

外国人実習生の使い方、自動化への取り組みなどの姿勢をもっと明確に示して、今後の供給責任を果たせることがアピールできれば営業的にもアドバンテージがあるのではないかと考えられる。

価格的には他社と比べて大幅に高いとも言えないが、戦略的価格を提示する競合には負けるものもある。しかし、価格に戦略性がないのであれば戦うべきでなく、品質・納期対応を強化すべきである。

 

顧客インタビュー③ N社 生産管理課課長

【当社の特徴】

他社に比べ、品質・納期対応で優っている。

生産管理課として最も重視するのは納期対応であり、これまで納期トラブルが0件であることが高評価となっている。生産管理課課員の中でも当社は納期対応に優れているとの共通認識になっている。

製品品質に関しても、常に上位であり今のところ大きな問題は起こっていない。

複列ボールベアリングを主な製品として発注しているが、今後は製品展開を広げることも検討している。

現在、新規取引先である自動車メーカーへの第一弾として決定した製品についても上記アドバンテージをもって当社に発注が決定した。

同業他社に比べて、問題解決に対してのフットワークが軽く小回りが利く。

 

【今後の課題】

現在、同業含め製造業では人員不足による生産能力問題が多発している。

これまで競合の中でN社向けのシェアの非常に高かったKT社が近年能力を落としている。これまでKT社の戦略としては鍛造・旋削一貫加工による低価格路線であったが、最近では財務体質の問題、社員の退職や在庫管理の問題などから急激にシェアを落としている。N社としても、価格のみを見るのではなく総合力を勘案したうえでの発注に切り替わりつつある。

その中で、強みである納期管理・製品品質を強化しつつ、コスト競争力をつけていくことが必要となる。

 

競合調査① SY社

【製品ラインナップ】

当社取り扱いサイズの中径から大径サイズが最小サイズで、ラジアルベアリングの量産品、Hub外輪、内輪の旋削加工を手掛けており当社とのサイズ的な競合も起こりやすい。

そのほか、大型のNC旋盤を導入しテーパーベアリングの旋削加工を行っている。

 

【企業特徴】

加工は量産品加工に特化した設備レイアウトであり、当社の1ラインでの一貫加工のみでなく、ネック工程設備を集約し生産性の向上を狙うなど価格低減への取り組みが非常に強い。

また、他社では一般的にはNC旋盤の組み合わせで加工されているHub外輪の旋削加工を単能旋盤で行うなどコスト競争力が高い。

単能旋盤は主にD精機にて購入しており、当社の購入しているNS社より価格的に優位である。かつては性能差があるとの話であったが、現在は解消されつつある。

D精機とのコンタクトをとってみたところ、これまでは機械に強い社長がリーダーシップをとっていたのが、電気制御に強い専務の意向が反映されるようになり性能が向上したように感じられた。

NC旋盤は当社と同じM機械のものである。

製品の品質は顧客での品質報告会での情報から、中程度であり、極端によくなったり悪くなったりすることもあるようである。

 

【営業の方向性】

サイズ的に中程度の大ロット品にターゲットを絞り、生産性を向上させることによりコスト競争力を武器に受注活動を行っている。

近年、有力であった同業他社が生産性、品質的問題により縮小していることから、材料メーカー、鍛造加工メーカー経由で受注量を集めている。

現在は、需要が旺盛なこともあり納期問題が発生しかねない状況が続いている。

 

競合調査② U社

【製品ラインナップ】

製品サイズは当社とほぼ同じサイズから、超大型サイズまで範囲は広い。

特に、薄肉ボールベアリングを得意としている。

近年では鉄道用のダブルテーパーベアリングの加工を手掛けている。

 

【企業特徴】

加工工程は薄肉ボールベアリング加工時にはパイプ切断品では外径研磨工程を全数入れるなど、薄肉品特有の問題点である真円度問題解消のための工程を導入している。

製造ラインにおいてもチャック関連での変形防止のノウハウがあるものと考えられる。

コスト優位性は、ラジアルベアリングに関しては当社と比べて圧倒的に高いとはいえないが、薄肉品に関しては専用ラインを用意し業界内でも高いレベルであると考えられる。

製品の品質では顧客での品質報告会での情報から、上位であり安定した品質であると考えられる。

 

【営業の方向性】

薄肉ボールベアリングを専業に、客先の系列にかかわらず受注が可能である。ただし、材料精度の低いものは完成品精度に影響するため受注自体を断ることもある。

薄肉ボールベアリングは精度的に加工難易度が高いため、他社が手を出しにくく、価格も安定している。

納期的に、近い将来に問題が発生する可能性がある。

 

【トップインタビュー】U常務

現在受注量としては非常に好調だが利益が出にくい状態になっている。

理由として、製造設備はあるものの人員不足のためにラインが効率的に稼働できないことが主因である。

高齢化が進み、これまで12時間2交代の勤務体制で稼働していたライン作業者が時間短縮を求めていること、定年退職者に対して新入社員が少ないことなどが理由である。

3月より外国人技能実習生を採用し、外観目視検査などをメインに作業させている。ライン作業が可能な技能レベルになるのはまだ時間がかかると思われる。

製品の小ロット化が進み、治工具費用、特に刃物費用が掛かっている。

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