お問い合わせ・資料請求

修了生論文

『女性技術者活躍に向けて建設業に求められる受け皿と自社の雇用戦略』

沖縄校(美ら海ビジネススクール) 糸数 幸恵株式会社丸元建設 代表取締役社長)

第1章 はじめに(本論文の動機と目的)

2016年4月に女性活躍推進法が成立して数年が経過した。今、女性管理職の登用促進など、当初は大企業へ義務付けられた取組みという印象の強かった女性活躍推進政策も、徐々に中小企業へとその影響と広がりを見せ始めている。筆者は2017年11月に沖縄県内で公共工事を主体として営業している土木・建築の総合建設会社を先代である父から事業承継したが、建設業界においても、2017年度より沖縄県の公共工事入札における総合評価制度において現場への女性技術者配置による加点項目が追加されるなど、2016年以後の女性活躍推進の波が日に日に強くなってきていると感じている。それと同時に少子高齢化による人手不足も厳しさを増しつつあり、沖縄県の人口推計グラフを見ても生産労働人口(15~64歳)が2010年と比較し2030年には約92%、2040年には約85%となっていることから、今後更に人材確保が難しくなることが予想される。

 

(資料:立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年3月推計)

 

また、「労働力調査」(総務省)で日本の就業者数の男女別内訳をみてみると、男性が 56%、女性が44%となっており、やや男性が多い程度であるが、総労働投入量(就業者数×年間労働時間)の男女別内訳をみると、男性が約62%、女性が約38%となっていることから、企業において男性が長時間労働を担っている現状が伺える。他の業界に増して、こと建設業界の現状においては、長時間労働および工事現場という快適とは言えない環境での労働であることから、いまだ多くの企業で女性が技術者として積極的に登用されているとは言い難い。男性中心の業界である建設業が男性だけに頼らずに持続的な雇用を確保するために、どのような受け皿が必要なのだろうか。そして、自社は「女性活躍推進」に向けてどのような雇用戦略をとるべきなのだろうか。

本稿では、日本の雇用政策と企業の行動について分析すると共に、沖縄県内の「女性活躍」企業事例を踏まえながら、建設業に求められる雇用の受け皿を明らかにし、これからの自社の雇用戦略について考察することを目的とする。

 

 

第2章 日本の「女性活用」政策

日本における「女性活用」政策について、大きな転換点となったのは1986年4月に、女性労働者であることを理由に男性労働者と差別的に取り扱うことを禁止した「男女雇用機会均等法」および1992年の「育児休業法」(1995年には育児介護休業法に改正)が施行されたことである。こうした雇用政策の中で、仕事と家庭の「両立支援」のために制度の充実や職場環境の整備が進められた企業においては、育児休業制度や短時間勤務制度等の両立支援制度の利用者が増加し、女性社員の定着が進んできた。しかしその一方で、新たな課題として、女性社員ばかりが制度を利用することや、制度の利用期間が長期化することでキャリア形成が遅れるなど、せっかく女性社員の定着が進んだにもかかわらず、十分な活躍ができていないという「育成・登用」の面での課題が浮き彫りとなってきたという現状がある。

 

 

第3章 沖縄県内における「女性活躍」推進企業事例

これからの日本の「女性活躍」に向けては、企業の雇用管理における「機会均等の推進」や仕事と家庭の「両立支援(制度の導入・職場環境の整備)」に続き、女性のキャリア開発における「育成・登用」が課題となっていることを踏まえ、沖縄県内企業において「女性活躍」に取り組んでいる企業はどのような取り組みを行っているのか。その取組みにおける成果や課題を分析するため、県内企業へインタビュー調査を行うこととした。

 

3.1 建設業における「女性活躍」企業

筆者が各社を選定した理由および各社の女性活躍状況は、以下のとおりである。

 

①有限会社M建設

【選定理由】:道路舗装の専門工事会社で、重機オペレーターとして女性技能者を雇用している。建設業振興基金主催セミナーにて、女性技能者としての立場から意見を発信していたことや、那覇空港第2滑走路建設現場にて活躍している女性技能者としてメディアに取り上げられていたことから選定した。

【女性活躍状況】:創業者の娘が現在役員を務めていることもあり、女性技能者をまだ雇用していなかった10年ほど前から社内事務職を含む女性による現場パトロールを行って女性視点での指摘を行っている。技能職として女性を雇用したきっかけは、重機オペレーターのベテラン男性社員が当時高校生の娘に職場見学をさせたところ、父親の働く姿に感動し入社したことである。企業として当初は、舗装の工事は高温なアスファルト材料を扱う等、厳しい環境下での作業であることや重機作業において危険が伴うことから、技能職として女性を登用することに消極的であったが、技能職の採用が難しくなってきている状況も踏まえ、やる気や入職意欲のある人に対しては男女を問わず受け入れたいという姿勢のもと、若手技能者をベテラン技能者との1対1のOJTによって育成するペア就労の制度を導入し技能者の育成を図っている。また現場での女性がまだまだ少ないことから精神的なフォローを目的として、建設業で働く女性同士が繋がれるよう社外でのネットワークづくりに努めている。

【今後の課題】:重機オペレーターは妊産婦の就業が制限されているため、妊娠・出産期には現場勤務を離れ、内勤業務しか対応できなくなる。その対策として、内勤の女性も重機運転の免許を取得する等、多能で柔軟な働き方ができる社員の育成をめざしている。ただし、この企業はあくまで女性社員を増やすこと自体を目的としているわけではなく、男女共に活躍しやすい労働環境をつくることを目的としている。

 

②有限会社S

【選定理由】:民間建築内装工事の設計・施工会社で、女性社員比率が高く、2018年2月に、沖縄県内の建設企業で初めて厚生労働省の女性活躍推進マーク「えるぼし」認定(星3つ)を受けた企業であることから選定した。

【女性活躍状況】:設計・施工の業務において、施工部門での時間外労働が多かったことから施工部門は男性中心、設計部門は女性中心、という構造になっている。元々女性比率の高い会社であったことから、経営者の決断により、女性の産休育休取得制度および時短勤務制度の導入、社員の時間外労働の削減に取り組んでいる。取組み以前は施工部門では夜間勤務もあったが、時間外労働の削減を目標としてからは顧客へも理解を求めながら、仕事のやり方を変更し、夜間勤務時間の削減にも成功している。そのような取組みを進めていたところ、女性活躍推進マーク「えるぼし」認定の存在を知り、「採用における自社PRに繋げたい」との目的で認定を受けた。尚、「えるぼし」認定は取組み内容に応じて、星1つ~3つの三段階の認定となっているが、同社はその要件である①男女別の採用における競争倍率が同程度であること、②平均勤続年数が男女間で同程度であること、③法定時間外労働および法定休日労働時間の合計時間数の平均が月ごとに全て45時間未満であること、④管理職に占める女性割合が産業ごとの平均値以上であること、⑤女性の非正社員から正社員への転換実績があるなど多様なキャリアコースが整備されていること、の5つすべてをクリアし、初めての申請で星3つ(最高ランク)の認定となっている。2018年2月の認定であったが、その後さっそく採用面で女性(1級建築士)からの応募があった等の反響があり、成果を感じているとのことである。

【今後の課題】:「えるぼし」認定では、取組み目標に対する3ヶ年計画を提出し、1年ごとにその進捗を報告しなければならない。同社では、認証当初より女性活躍のための環境整備事項がある程度満足していたことから、これからは男性の育休取得率の向上、および女性のキャリア開発促進(資格取得)を目標としている。1年ごとの認証審査となっているため、今後はその認証維持も課題となる。

 

③株式会社M工務店

【選定理由】:土木・建築総合建設会社で女性経営者の会社である。施工管理における技術職および、道路工事における重機オペレーター等の技能職の両方の社員がおり、現状ベテラン技能者として女性を一人雇用している。これからの建設業における女性活用に積極的な姿勢を持つ企業であることから選定した。

【女性活躍状況】:今はまだ、女性技能職としての雇用は少ない(1名)が、会社の制度として、時短勤務、週休2日制を導入している。また、所有している重機についてICT化を進めており、マシンガイダンス等によるプログラミング操縦となることから男女問わず経験の浅い人でも効率的に作業できるよう取り組んでいる。

【今後の課題】:技能職(重機作業)において女性チームを立ち上げ、自社アピールに繋げることが目標。そのために、これから経営者(女性)自ら、重機運転免許を取得し、女性(特に、ひとり親家庭の母親)を積極的に採用し育成していきたいとしている。技術職(現場監督)についても、男女問わず採用する姿勢である。

各社のインタビュー結果を以下の表にまとめた。

①  M建設 ②  S ③  M工務店
業態 道路舗装工

重機オペレーター

(技能職)

建築内装

設計・施工

(技術職)

土木・建築総合

重機オペレーター

(技術職・技能職)

売上規模 3億円 4億円 20億円
社員数 30名 17名 75名
女性比率

(役員含む)

13% 58% 7%
女性活用のきっかけ ベテラン社員の娘が重機オペレーターとして入社したこと 元々女性比率の高い会社であったことから、社員の定着率を高めるために女性の働き方改革を行った 技能職の人手不足と採用難により、女性の積極的採用を決めた
取組み内容 女性現場パトロール、ベテラン技能者とのペア就労 時短勤務、残業規制 時短勤務、週休2日制、福利厚生、フィットネスジムの設置
雇用政策活用の有無 国交省による女性活躍セミナーへ女性技能者モデルとして参加(メディア出演) 厚生労働省の女性活躍推進マーク「えるぼし」認定 なし
女性活用目標 男女問わず、活躍できる職場をめざす

技能職や事務等、状況に応じて柔軟に働ける人材の育成

男性社員の産休育休取得、女性社員のキャリア形成(資格取得等) 男女問わず、健康で働きやすい職場をめざす

女性技能職チーム作り(ひとり親家庭の母親の採用)

 

3.2 沖縄県内のその他の業界における「女性活躍」推進企業

建設業と同じく、元々男性中心の業界において「女性活躍」を推進している企業についてもインタビューを行い、その取組み内容を調査した。

筆者が各社を選定した理由および各社の女性活躍状況は、以下のとおりである。

 

①株式会社T (IT業界) 

【選定理由】:ITシステム導入支援を行っており、企業の業務の効率化に取り組む中で、自社においても働くママを応援する柔軟な働き方(WAA =work from anywhere and anytime)を導入し、優秀な女性社員の正社員登用や、女性だけでなく男性も柔軟な働き方ができることで社内全体の働き方改革に成功していることから選定した。

【女性活躍状況】:社員8名中3名が子育て世代の女性社員であるが、この企業への入職を決めた理由が「柔軟な働き方ができること」をあげている。上司に事前申請を行うことで勤務時間のうち希望する時間を自宅勤務等に調整することができ、子供の世話や家事をこなしながら業務を行えることや、急な子供の病気等による業務調整等も可能となっていることで、子育て世代の女性が働きやすい環境となっている。

 

②Oグループ (タクシー業界)

【選定理由】:タクシー業界において、沖縄県内で初となる企業主導型保育園を設置し、国土交通省から「女性ドライバー応援企業」として認定を受けた企業であったことから選定した。

【女性活躍状況】:沖縄県内初の企業主導型保育園を事業所内に設置し、子育て中の従業員への福利厚生の充実を図っている。また、柔軟な勤務時間調整を可能としていることから、働きやすい職場としてアピールし女性ドライバーの積極採用を行っている。

各社のインタビュー結果を以下の表にまとめた。

①  企業T ②  企業O
業態 ITシステム導入支援(SE) タクシー
社員数 8名 約400名
女性比率 37% 約15%
女性活用のきっかけ 女性社員の正社員登用 ドライバー人材の確保
取組み内容 WAA*の導入

⇒事前申請による在宅勤務制度

県内初の企業主導型保育園の設置(従業員福利厚生)、

柔軟な勤務時間調整

雇用政策活用の有無 なし 助成金活用、

国交省より「女性ドライバー応援企業」認定

女性活用目標 男女問わずライフワークバランスの向上(生産性向上)、

人材育成(能力開発)

本社における従業員のための保育施設の拡充

 

以上、県内企業における「女性活躍」推進への取組み状況のインタビュー調査を行った結果、全社に共通していることは、これからの雇用および人材採用において「女性活用」への対応は避けて通れない必須事項であると認識していることである。また、「女性活躍」推進に向けての各社の取り組みは様々であるが、まず男女の「雇用機会の均等」の観点からは、採用時点において男女の性別による職務責任範囲の差別はなく、仕事と家庭の「両立支援」という観点からは、産休育休の取得促進や時短勤務の制度導入はもちろんのこと、特に建設業界においては大きな問題となっている長時間労働に対して、時間外労働時間の削減や、週休2日制の導入を他社に先駆けて行っていることから、「両立支援」への取組み意識の高さが感じられる。また制度面だけでなく、職場環境面による「両立支援」についても、女性だけでなく男性の育児休暇や介護休暇等の取得を促進することで、職場全体がワーク・ライフバランス向上への意識が高まり、仕事と家庭が両立しやすい職場環境がつくれるのではないかと考えられる。

一方で、今後の課題として多くあげられているのは、女性の「育成・登用」に関することであり、1986年の男女雇用機会均等法施行からのこの30年間の中で、男女の「雇用機会の均等」および仕事と家庭の「両立支援」が進み、企業の女性の定着率は高まってはきているものの、企業として業績向上や生産性向上を達成するためのキャリア開発といった「育成・登用」については、まだこれからの課題として残されていることがわかった。

 

 

第4章 「女性活躍」に向けて建設業に求められる受け皿とはなにか

前章での沖縄県内の企業事例を踏まえた上で、改めて「女性活躍」に向けて、今建設業に求められている受け皿とはなにかを分析したい。まず、筆者の感じているところとして、前章にあげた企業を除き県内建設企業における「女性活躍」推進の意識は、まだまだ低い。政府の雇用政策によって半ば強引に価値観の転換を求められている、というような状況の中で、表面的には女性技術者、女性技能者の活躍できる建設現場を作っていかなければならないという価値転換の姿勢は取りつつも、しかし現場の環境整備や柔軟な勤務の在り方を導入することは企業独自の努力によって出来るものではないという受け身の姿勢や、応募さえあれば採用を考えてもいい、といった消極的なスタンスで、発注官庁の施策(入札時における加点評価等)の今後の動向や同業他社の状況を伺っている企業が多いように思われる。

県内における中~大規模公共工事に関わる建設企業約400社が会員企業として所属している一般社団法人沖縄県建設業協会においてH26年に実施された「会員企業における女性技術職員に関するアンケート調査」によると、会員企業に雇用されている女性職員のうち施工管理技士や建築士等の建設関連技術資格所持者は263名いるが、そのうち現場勤務経験のある技術者は68名で全体の26%のみに止まっている。また、会員企業が雇用している現場経験のある女性技術者(無資格者を含む)85名のうち、現場での経験年数について1番多かったものが「5年未満」で53%、2番目が「5年~10年未満」で32%となっており、両方で全体の85%を占めていることからも、女性が積極的に現場技術者として登用されていない現状および、概ね10年以上の現場経験が技術者として評価される建設現場において今現在はまだ女性技術者の現場経験年数は男性と比較して短く、「女性技術者は未熟」というイメージになりやすい現状があるということが推測される。

そして、そういった企業行動の背景としてあるのはやはり、①現場環境における体力的な観点からの「建設現場業務は女性にはきつい」という根強い認識、②長時間労働・休日労働の多い状況において「女性は家庭との両立が難しい」という家庭における固定的役割意識、③企業の利益追求の観点からは「女性は技術力において未熟(継続的な現場勤務が難しい)」というイメージ、の3つによるところが大きいのではないかと考える。そのため、現場における女性活用に前向きな姿勢を持っている企業においても、女性活用の目的が企業の利益創出に直接結びつくものではなく、「建設現場および企業のイメージアップ」や、「女性の気遣いや感性を現場へ活かす」といった成果測定の難しい曖昧なものになってしまいやすいのではないか。

本稿第3章で述べたとおり、女性活用政策は段階として、①「雇用機会の均等」⇒②「仕事と家庭の両立支援(制度面・環境面の整備)」⇒③「職業能力等のキャリア開発(育成・登用)」という変遷を経て今に至っているが、現在の県内建設業における女性活躍の議論は主に、①の雇用機会の均等と②の仕事と家庭の両立支援のみに終始してしまっているのではないか。そこで今、建設業に求められる受け皿として必要条件となるのは、両立支援のための勤務制度導入と現場における労働環境の整備に加えて、男女を問わず技術者・技能者として継続的にキャリア開発をしていくためにサポートする仕組みがあることではないかと考える。企業として、人材を確保し育成していくためには、男女を問わず技術的能力開発を継続し、その能力を発揮してもらえる仕組みづくりが必須となる。キャリア開発をサポートする仕組みとして、建設技術キャリア開発計画モデルの作成や産休育休期間中等の技術修得の遅れを補完するウェブを使った技術講習プログラム、また現場においては少数派となりやすい女性技術者は特に企業間を越えた技術者同士のネットワークによる情報交換の場をつくることなどが有効ではないか。

 

 

第5章 「女性活躍」推進企業に向けて、自社がとるべき雇用戦略を考察する

最後章では、これからの人材確保・育成において、自社がとるべき雇用戦略を考察していきたい。自社のSWOT分析を行った結果、強みとして「ベテランの社員(技術職)が多く、現場の施工管理における技術力が高いことで収益性を確保している」ことがあるが、それに対して弱みとしては、「業界全体が技術者不足であるため、発注機関である役所をはじめ同業他社からの引き抜きが多く、処遇・待遇面での競争が厳しくなっている」現状がある。また将来的な脅威として、「技術者の高齢化や採用難による人材不足」があり、それに対する対応が課題となっている。そこで、自社の技術者の確保・育成にあたり、「女性活躍」企業をめざすことは、これからの自社の人材確保における雇用戦略とすることができるのか、またそのためにはどのような取り組みが必要なのだろうか。

 

【自社SWOT分析】

『迷走する両立支援』(荻原久美子 著)によると、「女性活躍」推進および「ワーク・ライフ・バランス」の取組みにおいて、日本企業が政府主導の雇用政策のもとで制度導入等の取組みを進めていることに対し、米国においては、国が企業に対して法律で網をかけ従業員への仕事と家庭との両立支援の取組みや特定の制度導入を方向づけるようなことはしておらず、企業側が従業員のワーク・ライフ・バランスに配慮した「ファミリー・フレンドリー企業」として、合理的で工夫をこらした企業独自の両立支援の取組みを実施することで、それが企業間競争を勝ち抜くための人事戦略となっているのだという。その背景として、米国では日本のような国民皆保険制度がなく、医療制度や保育施策など国による公的な支援制度が整備されていないことがあり、企業側が従業員への福利厚生サービスとして民間の医療保険(従業員の家族も含む)の導入や、従業員の家族に配慮した支援制度を備えているケースが多く、そのことが従業員の満足度を高め、離職を抑える役割を果たしているという。    柔軟な働き方についても同様で、フレックスタイム、パートタイムはもちろん、自宅で仕事を行うテレワーク、週の労働時間を何日かにまとめて働くプレストワーク、2人で1人の仕事を分担しながら働くジョブシェアリング等があるが、多様な働き方を提供することで企業価値を高め優秀な人材を確保することを目的とした戦略となっている。米国企業における柔軟な勤務制度は、「女性活躍」推進の観点においても先進的な事例として日本でも受け止められているが、そこで注目すべきはその取組みにおける徹底した「合理性」である。

「ファミリー・フレンドリー企業」として自社の取組みを打ち出している米国企業では、欠勤や離職などによる経営上の損失を試算したうえで、従業員の生活の満足度と仕事の生産性をともに上げることで絶えず投資効率からその制度導入の効果確認を行っているのである。そこにおける基本的な考え方は「どういう働き方をしても成果が出せればいい」ということであり、前提条件として一人ひとりに明確な職務があってその成果が評価される米国の労働の在り方がある。その成果主義的な考えから、同じ企業内においても成果の出せる優秀な人ほど生活の満足度が得られる柔軟な働き方が認められやすいといった事例や、例え企業内の従業員向け託児施設に子供を預けている従業員でも解雇が決まった途端に次の託児施設を探す時間も与えられずに出なければならない、といった事例があるそうだ。

日本においてはその前提条件が異なる以上、米国における「ファミリー・フレンドリー企業」の取組み内容だけを安易に取り入れてしまうことは非常に危険なことであるが、政府主導による雇用政策により制度導入それ自体やその利用率を上げることが目標になってしまいやすい日本企業の現状があることから見ても、米国企業の事例から学べることは多いと感じた。

これからの人材確保における雇用戦略において、画一的なやり方ではなく社員それぞれのライフイベントごとのニーズに合わせた自社独自の柔軟な働き方を提供することや労働環境の整備により、男性が中心の業界であった建設業界において他社に先んじて男女を問わず優秀な人材を採用し定着率を高めることは有効な戦略であると考える。と同時に、社員の生活における満足度と職務における生産性および収益性を同時に上げていくことを目標とする中で、その取組みによる成果の検証を絶えず実施していくこと、そして成果が思わしくないものは変更・改善を加えていくことを徹底することが重要である。また、成果をきちんと出していくためには、前章でも述べたとおり「キャリア開発」の取組みが不可欠であると考える。ライフイベントの時期による働き方のニーズの違いと同様に、職業能力レベルや状況に応じた能力開発のプログラムを実施していくことで継続的な技術修得と向上に努め、産休育休後の復帰をしやすくする等、より能力を発揮して成果を出しやすい環境をつくっていくことが、今後の自社の戦略にとって重要なのではないか。

最後に、今回の研究においては企業の事例調査を中心に行ったが、新たな制度導入や環境整備を進めるにあたっては、女性技術者を含む社員一人ひとりの働き方に対するニーズを聞くことが非常に重要であると考える。雇用戦略の立案にあたり、引き続き働く側のニーズ分析を実施していくことを課題としたい。

 

【参考文献・URL】

●内閣府男女共同参画局 女性活躍推進法

http://www.gender.go.jp/policy/suishin_law/horitsu_kihon/index.html

●沖縄県HP 沖縄県土木建築部の公共工事の品質確保(総合評価方式)

http://www.pref.okinawa.jp/site/doboku/gijiken/kanri/jigyou/documents/sougouhyouka.pdf

●国土交通省HP もっと女性が活躍できる建設業へ向けた取組について

http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000088.html

●国土交通省HP 建設業における女性活躍推進に関する取組実態調査

http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo13_hh_000381.html

●助成金ドットコム 女性活躍加速化コースについて

https://jyoseikin.so-labo.com/grant-basics/563/

●独立行政法人経済産業研究所 女性活躍推進に関する研究

https://www.rieti.go.jp/jp/data/

●『企業における女性活用の変遷と今後の課題』(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員 松浦民恵 著)

●『迷走する両立支援』(荻原久美子 著)

pagetop