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組織改善
経営フィロソフィー ~シリコンバレーの風土~
O-college 邨井 康祐 (株式会社住機トータルサービス 代表取締役)
【動機】
1997年、全世界時価総額上位10企業の本社所在地は、10社中4社がアメリカの東海岸であった。20年後である2017年、その様相は一変し、西海岸の企業が6社となり、上位3社を西海岸の企業が占めている。(図①)
特に、シリコンバレーには、世界をリードするIT企業が集中している。
今回、シリコンバレーの研究を通して歴史を知り、世界に大きな影響を与える企業の発展の源泉となるシリコンバレーの風土、企業の精神、哲学を学びたいと考える。
【背景、歴史】
1. ゴールドラッシュ
1848年マーシャルとサッターが砂金を発見しゴールドラッシュが始まる。この時リーランド・スタンフォードがサンフランシスコに来て雑貨商で巨万の富を得る。後にカルフォルニア州知事に就任し大陸横断鉄道の一つセントラル・パシフィック鉄道を設立した。
2. スタンフォード大学設立
1885年リーランド・スタンフォードにより設立。初代総長デビット・スター・ジョーダンが「産学共同」を志す。しかしながら、卒業生は東部へ流出してしまう。そこでパロアルト生まれでMITの教授となっていたフレッド・ターマンを招聘する(1930年) ターマンはMITに負けないよう学生の育成に力を注いだ。当時の学生としてビル・ヒューレット、デイブ・パッカードが在籍していた。
3. HP設立
1939年パロアルトのガレージでヒューレットとパッカード(大学卒業後2年間GEに就職)がHPを創設。4年後には100万ドルの売上となる。(1971年には高校生でインターンシップとして働いていたスティーブ・ジョブズがHPでスティーブ・ウォズニアックと出会っている)
4. ショックレー半導体研究所設立
1955年ベル研究所でトランジスタを発明したウイリアム・ショックレーが研究所を設立。その後8人の技術者が離脱し、フェアチャイルドセミコンダクターを1957年創立する。後のインテル創設(1968)へと繋がっていく。
5. シリコンバレーの成り立ち
当時、スタンフォード大学が4000haの敷地を長期賃貸し多くの企業が移転、設立するスタンフォード・インダストリアルパークを形成した。
以上より、シリコンバレーの発展において、スタンフォード大学の「産学共同」の志、HPの成功、ショックレー研究所の設立が重要な要因となっていることがわかった。また、現在においても、近郊にスタンフォード大学のみならず、カルフォルニア大学バークレー校、サンノゼ大学もあり優秀な人材の供給源となっている。
【問い】
背景、歴史を学ぶことで半導体という新しい技術からの発展であったことがわかった。
しかし、現在でも次々と新しいアイデア、ビジネスモデルを生み出し、急成長する企業が現れるのは何故なのであろうか。今回の研究ではシリコンバレーに存在する技術だけではなく、生み出す人に焦点をあて考えてみたい。
【仮説】検証事項
シリコンバレー発展の歴史を学ぶ中で強く感じたのは、登場する人物が当時を熱く語りイキイキとして、楽しそうだということだ。
「世界を驚かせたい」「世界を変えてやりたい」「人類の進歩に貢献したい」という思いが感じられ、一人一人が組織に所属していても自立し、主体性に溢れていると感じられた。IT技術は思いを達成するための道具であることを認識できた。
人と人の出会いが発想を拡大し新しい事業モデルの構想に発展していくのではないかと考える。
・・・街中のカフェやBarの様子、社内の様子(Apple社食など)
働く環境も重要になってくる。気候が温暖で、雨も少ないのも、前向きに挑戦できる風土を作っているのではないだろうか。
・・・気温、湿度、天気、空の様子、空気感
多人種が暮らし、ともに働く環境が自由の国アメリカのなかでも自由といわれる風土を作り、さまざまな視点の発想を受け入れる風土があるのであろう。
・・・街中(バス、電車)の様子、観光客、人種
社員が自立し主体性を発揮できているのではないか。
・・・会社訪問、話し手の雰囲気や表情
仕事に対する意識、哲学(経営哲学)
・・・CBS寺田氏を訪問salesforceの話を聞く(23日予定:江坂)、
現地会社訪問、現地技術者とランチ
【仮説検証結果】
1. 気候
滞在した五日間曇りの日はあったが雨になることはなかった。
湿度は低く過ごしやすいが日中と夜間の温度差が大きい。
晴天時は雲一つなく、抜けるような青空で日本と比較し青が濃く感じた。
2. 生活環境
道路が広く、歩道も広いが、舗装の完成度が低いのか、道の凹凸が多く車の乗り心地が悪い。
街中の匂いが強く、臭いと感じた。立小便しているホームレスを多数見かけた。
多人種の人々が行き交っていたが、ホームレスに関しては、ほぼ黒人であった。
レジ打ちや、掃除業に従事している人はアジア・スペイン・ブラジル系が多かった。
3. 交通環境
公共交通(路面電車、バス、地下鉄、鉄道等)は整備されていた。
UBARが多数走っており、需要の高さを感じた。
道路案内標識や、駅の案内板等の表記は英語のみであり、日本のように他国の言語の表記はなく、シンプルな案内表示であった。また、アナウンスも必要最低限しかなく日本のように繰り返し多言語で案内されることはなかった。
4. Apple青木氏とのランチ
Apple本社にて青木氏からお話を伺った。
(シリコンバレー近隣の教育について)
Show&Tellスタイルで幼稚園からプレゼン等自分をアピールすることを目的とした授業が行われている。個人主義、多様性(倫理観の違い)という前提があるため日本の教育とは大きく異なる。レベル差がうまれ、学力差も広がる。現状、地元の小学校では、インド、中国人が成績上位を占めてしまいアメリカ含め他国人は流出している。また、地価も急上昇しクパチーノ市においては高所得者しか住めなくなり、中国人が多数移ってきている。何故か、インドと中国人はお金を持っている。
(Appleについて)
Appleの成長を支えているのはハードとソフトを両方できるというオリジナリティー
でありそれにサービスが加わることで独自性がうまれている。囲い込み戦略に近いが、ファンがうまれ自ら喜んで囲われているのが強み。
本社にきて11年になる。現状感じていることは、11年前はAppleが好きで働いている社員ばかりであったが、巨大な組織になり組織が細分化されているため現状の社員がどう思っているかはわからない。規律や禁止事項は全くなかったが最近は少しずつ出てきている。組織が大きくなってきたのでいたし方ないとも思うが、少しつまらないとも感じる。
トップについて ジョブズはイノベーターでありデザインの人。ティムはオペレーションの人であると認識している。巨大な企業を成長させ続けている手腕は素晴らしいと思う。打ち手が保守的にならざるを得ない点も理解できる。成熟期でこけたときには失うものが多すぎるので。しかし、本音は少しつまらない。ジョブズのDNAは引き継がれているが、10年前とは全然違う会社になったと感じる。
(組織の風土、環境)
徹底した秘密主義。守秘義務は厳しい。そのため各部署での情報共有が少なく非効率が起きることはある。以前より社員が歯車となり動いている感は強い。
ミスはしたほうがいい。ミスの許容度が著しく高い。チャレンジすることを評価する社風である。
給料は年俸制で、年末に各社員が来季の目標を上司とすり合わせ決める。目標は全て自分で決める。業務において怒られることは一切ないし、怒られるのを見たこともない。終業時間も決まっておらずチェック機能もない。各自の主体性に任されており、自らの目標を達成できたかどうかだけで評価される。2週間に1回程度上司との面談があり目標の進捗確認、悩みごとなど話す機会はある。
オフィス環境は、何年か前まで個室であったが現在はオープンスペースに衝立があるキューブスタイルになっている。新社屋(Appleパーク)へは順次引っ越し中である。オフィス内にはシャワールームがある。
IT企業だからといってハイテク最前線というわけではなくビデオチャットもほとんど使用しないし、重要な話は集まって話している。世界中から本社に呼んでくる仕組みになっている。サンフランシスコへのシャトルバスがあり、通勤にはバスを使っている人も多い。
5.Salesforceの戦略
渡米前にSalesforce代理店である寺田氏に話を聞いた。
創業者であるマーク・ベニオフは、理念経営を掲げている。
創業時より信頼・成長・イノベーション・平等をコアバリューとし1-1-1活動など理念に基づいた経営を行い成長してきた。特徴的なのは、トップのマークが理念を実践しているのではなく、会社の戦略として理念経営を取り入れている。会社の成長には理念経営が必要で、マークが聖人である必要はないとの言葉が印象的であった。社会に貢献することを目標とすることで、社員のベクトルを合わせ、モチベーションを維持し結果的に社会から必要とされる会社に成長できている点に経営の手腕を感じた。それを知ったうえで本社に訪問することにより徹底した環境整備、場の提供を重視し社員の主体性を引き出していることが感じられた。
6.JETROサンフランシスコ訪問
中沢氏によるシリコンバレーに関する説明を拝聴した。
・商習慣が違う
・全米と比較しても外国生まれ人口が多く多人種で構成されている。
・世界中から優秀な人材が集結
・新しいアイデアを産む風土
・VC等による資金力と技術力
・成長率が高い(5%超)
・スタートアップ企業へのサポートできるシステムがある。
・独自のビジネススタイルがある。
個人能力・経験主義
おおらかな情報共有と高い雇用流動性
世界を変えたい、という強い意志・思い
失敗に対する高い許容性
徹底した「Time is Money」意識(先行利益の追求)
マーケットを意識したプロダクトの設定(破壊的イノベーションの定石)
【検証結果考察】
カルフォルニア発展の歴史から多人種を受け入れ価値観の違いを許容する風土が醸成されてきたと考える。その社会環境に適応するため個人主義教育が徹底され、各個人が自立して生きていく環境が確立されてきたと考察する。また、情報共有による発展の経験により現在のシェアリングビジネスの視点も発生したのではないかと考えられる。
徹底した個人責任主義ともいえる社会の中、自らの考えを他人とぶつけ合い高めていき成長につなげる風土が根付いていることがわかった。その風土の中でファウンダー(もしくはイノベーター)が卓越した技術、強い思いをもって失敗を恐れることなく挑戦し続け個の本来性を発揮させながら発展してきたのだとわかった。
【まとめ】
今回のシリコンバレー研修の前には、発展の要因はトップの卓越した能力、発想力と経営理念であると考えていた。もちろん技術力、思いは絶対的に必要であるが理念を体系的に浸透させるのではなく、自ら発露する強い思いを他者にぶつけ、様々な意見、価値観を許容し受け入れ更に発展させていくことが必要であると感じることができた。
また今回、平等という定義の新たな視点が発見できた。平等というのは、全員を同じ状態、同じ考えにすることではなく、等しく個人の考え決断に責任を持たせ各々の主体性を発揮させることだと感じた。
これからの経営とは全員を同じ考え、型にはめ円滑に運営していくことではなく、個人の価値観、責任を尊重し本来性を発揮できる場を作ることだと改めて実感した。
当社においては、私自身の最善を社員に押し付けているため責任感に乏しく建設的な発想ができていない。社員の成長を経営理念としている当社にとって逆行する行動を私自身がとってしまっていることに気づいた。仕事を任せきることなく楽にさせることとなっている現状が小善であり、会社の成長を阻害している原因となっていることがわかった。時には私の思いと社員の思いをぶつけあい、全社員の本来性が発揮できる場を大善をもって作っていかなければならないと感じた。
今回の研修で文化の違い、働き方の違いを肌で感じ、囚われのない自由な発想にも触れることができた。自分の存在している環境が普通ではなく、常に違った視点で物事を考える重要性を感じられた。一方、会社とは人と人とのつながりであり一番の財産である社員をどう活かしていき、活かされるかという普遍的な原則も確信することができた。
最後に、今回一番印象に残ったApple青木氏の言葉を記述する。
「失敗はしたほうがいい。その経験が成長につながる。チャレンジを評価する。」