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修了生論文

当社初の経営戦略策定~現状分析と2028年の上山製作所

大阪校(O-college) 上山 哲生株式会社 上山製作所 代表取締役 社長)

第1章 研究動機

当社は創業65年の社歴を持ちながら、社是「プラスチックによる社業の発展を通じて、社会人・産業人として自覚と資質の向上をはかり、豊かな社会の実現に貢献する事により、相互の繁栄を築こう。」に基づいた経営戦略らしいものが社内に残存しておりません。今後の業績改善や事業継続を想定した場合、当社社員へ明確に示すことができる経営目標を持つ必要があります。そこで現状から鑑みて新たに目標を設定し、多面的に整合性の取れた経営戦略を社員へ示したいと考えます。私個人の見解ではありますが、経営目標が「あるべき姿」ならば経営戦略は「違う売りを創って繋げる手順」と認識しました。

 

 

第2章 企業概要

商 号                  株式会社 上山製作所

事業内容             各種プラスチック製品の製造加工と販売及びこれに付帯する一切の業務

資本金                 1,000万円  年商約3億円  従業員18名(2017年6月期)

役 員                  代表取締役会長 上山 欣秀   代表取締役社長 上山 哲生

主要製品             名札・番号札・リクライニングカード立・絵画パレット・ハンガー・

剃刀部品・医療刃物部品・金属製品等の小物容器・イス脚キャップ

外注加工対応      成型金型製作 / プラスチック板加工 / 樹脂面印刷 / 真空蒸着メッキ

 

戦前、創業者である上山良一は家業修行のため呉服屋で働いておりました。戦中は徴兵より逃れるため大阪天満の中西金属工業で金属部品の営業職を勤めました。その際に取り扱っていた自転車のガラス製風防や反射板が輸送中に割れるのを防ぐため、当時の新素材であるプラスチックで代替しようと1953年3月大阪市生野区猪飼野で創業しました。当初は輸入材を用いて外注工場で生産し、1957年頃ようやく国産材料を使って事業が安定し始め、1960年には株式会社化を果たし業界創生期を中小ながら牽引する存在となりました。1964年東大阪市友井の借地に自社工場を建てて生産を開始しましたが、その時期の実状は創業者自身の営業手腕に寄りかかった面があったものと考えられ、射出成型製造のノウハウ蓄積については同業他社からヘッドハンティングした工員頼みであり、製法の実用新案を矢継ぎ早に届け出て他社の追随を防ごうとした履歴が残っております。また、近隣で射出成型業を起業しようと尋ねてきた個人事業者を短期工として雇い入れて製造ノウハウを伝授し、独立後には自社の中古成型機を払い下げて下請企業とし、プラスチック製品需要の増加に応えていく事業スタイルを採ったと考えられます。

創業者上山良一より2代目上山欣秀が社長を継承する1988年頃には、射出成形機の自社保有は8台に増え生産現場が手狭になっていました。しかし同業他社との価格競争の激化やバブル景気崩壊後の需要低迷と中国企業の台頭により2003年頃には売上が半減し、さらにその後のリーマンショック期の樹脂材料高騰で営業利益率が大幅低下しました。また社員の経路依存性が強いため業務手順の更新ノウハウが定着せず、2000年以降は社員が定年退職するたび製造や管理の業務手順が業界標準から一層立ち遅れていきました。

 

2014年3代目上山哲生が社長を継承し、本社工場倉庫の老朽化が目立つようになり移転計画を進め用地購入し、2016年5月東大阪市菱江へ竣工移転致しました。新工場は下請協力会社3社が5年後を目途に高齢化廃業するのに備え、射出成型機を移転当時の8台から最大12台設置できる生産スペースを確保するだけでなく、夜間稼働などで稼働時間を延長して本業の射出成型を効率よく内製化できるよう予算の範囲で設計しました。

現状の財務状態については当社移転中であった第56期2016年6月20日決算実績と第57期2017年6月20日決算実績を以下の項目について比較しました。

 

・収益性

売上高売上総利益率・売上高営業利益率

・安全性

流動比率・当座比率・固定長期適合率・自己資本比率

・生産性

従業員1人当り売上総利益・売上債権回転日数・仕入債権回転日数・棚卸資産回転日数

・経営効率

インタレストガバレッジレシオ・ROA(総資産経常利益率)

 

もはや量的質的に競争優位を発揮している製品点数が限られており、商品自体の独創性に欠けているので上位企業の模倣により収益向上を目指す段階です。社屋移転費用の計上は57期で終了しましたので、特に売上総利益を製品見積想定平均である売上額の20%へ到達させるべく生産効率と内製加工率を上げる必要があります。社内不良率が上昇する事象が顕著にあって売上総利益が低下しており大きな問題といえます。

現状まずは社屋移転という投資を最大限に活かす必要があります。これには社員教育の仕組みを作って中間管理職を育成することで業務を発展させていく手法を想定しています。当社は労働世代の交代にも順応した国産プラスチック加工会社として製品を送り出すことで社会に貢献し、人口減高齢社会を生き残りたいと考えます。そのための新たな経営目標と、ビジネススクール入学以前は根拠ある予測が難しかった10年後を見据えた経営戦略を渇望しているのです。

 

 

第3章 研究課題

第2章で述べた事業経緯の延長線上ならば、当社の新たな経営目標として

「国内中小企業の大廃業時代に、プラスチック小物雑貨製造業として技術伝承先になる」

を掲げようと一旦仮定しました。そこで経営戦略がなかった今まで当社はどうだったか、また今後も経営戦略がなければどのようになってしまうのかを次のように考えてみました。

 

≪これまで経営戦略がなくて困ったこと≫

①会社方針や時々の戦術を社員へ理解を促さなかったため、相反する行動を取る社員が出現し、経営資源を集中させる社内状況になかったと見受けられます。

②確かに革新的な新商品を作り上げたのですが単に競合他社の標的となり、他社製品の追随を許して継続的な利益拡大に至りませんでした。

③単発的な商品開発に先行投資を重ねたために、利益剰余金が枯渇してしまいました。

④ありきたりな経営目標の掲示だけを行ない、その浅い意味を伝える機会もまばらで、結果的に社員のモチベーション低下を招きました。

 

≪今後もし経営戦略がなければ困るであろうこと≫

⑤研究費や先行投資が新商品の販売結果となって利益に還元される確率が低下すると考えられます。

⑥戦略実現に向けて社員が必要とする個々のスキルや生産技術の教育計画が的外れに終わる確率が高くなります。

⑦商品の廃盤淘汰が判断しかねる状況で、無作為な商品ラインナップや商品群を構成してしまい、営業活動にターゲットがない状態になってしまうと考えられます。

⑧工場内の生産設備に対し設備投資に順序立てや方向性がなく、多額の投資倒れを招く危険性が避けられません。

 

これら①~④の項目については反省と克服を目指し、⑤~⑧の項目については避けられるべき将来の課題として、経営戦略を見出したいと考えます。

 

 

第4章 自社分析の手法

次の順で手法を用い、経営戦略を練り上げようと考えます。

1) PEST分析

近い将来の社会環境から自社事業への影響を考慮することで、2028年の当社に求められる企業的価値を考え、先に述べた経営目標の整合性を高める効果があります。

2) ファイブフォース分析

業界環境から現行商品の優劣と生産現場のムダを見出し、改善すればどのような効果を持つか見極めます。さらに当社が業界内でどのような位置付けにいるのか、どのようなポジションを今後狙えるのかを推量します。

3) SWOT分析

新たな経営目標に対してまずは当社本来の強みを再考し、社内慣習や内外環境の変えるべき点を見出した上で経営戦略を策定します。

4) 競合分析

これまでの営業活動で把握している競合企業について、また業界内1,300社の中で当社はどのようなポジションに位置するのかについて把握し戦略の参考とします。

 

 

第5章 自社分析結果

 

1) この先10年のPEST分析

視 点 内 容
政治(Politics) FTA自由化によりASEAN諸国からのプラスチック製品輸入増加

地方自治体の弱体化や税収不足による助成金の縮小

就業者数減少と社会保障費増加に伴う税金・保険料の高額化

経済(Economics) 新興国発展と為替変動よる汎用プラスチック材料価格の世界的上昇

地方の小売店・飲食店が縮小し国内向け店舗用品業界が衰退

業種を問わない高齢者向けサービスの増加や葬祭ビジネスの簡素化

インバウンド観光業向け土産物品の需要増加

社会(Society) 首都圏一極集中による企業間物流コストの偏在化

少子化による教育・学校分野ビジネスのターゲット高齢化

生産人口減少による労働世代の高齢化・外国人労働者の国内流入

介護休暇取得の増加または介護業界の労働力不足

技術(Technology) IoT(インターネット・オブ・シングス)を始めとした生産業務の自動化とノウハウのデータ保存が進む

インフラ再生技術やリノベーション技術の発展

(参考文献:藻谷浩介「デフレの正体」2010年・河合雅司「未来の年表」2017年)

 

当社はBtoBの取引先として、剃刀でBOPビジネスを展開し医療用刃物を積極販売する製造会社や画鋲国内シェアトップの金属文具製造工場、観光土産置物の製造卸会社を擁しています。今後は相手先と協力関係を強めて製品企画段階から以上の分析内容に対応していく必要があります。

一方でBtoBtoCの取引先へ主に店舗用品をこれまで供給してきましたので、店舗用品業界の衰退は当社業績に直接的打撃となりうると考えられます。製品を日用雑貨品や店舗用品という捉え方だけでなく、インフラ整備や建築リノベーション分野と医療や介護分野へ新たに製品供給できる販売企画が当社に求められます。

また、生産現場の自動化が急務なのは将来も変わりありませんでした。但し新たな生産設備のオペレーションを製造現場の社員へ教育していく仕組みを確立する必要があります。

 

2)ファイブフォース分析

あくまで当社の業界地位は低く、狭い特定領域に独自の地位を確保している状況が明確です。当社を取り巻く外部環境は現在「競争均衡」の状態ではあるものの近い将来「競争劣位」に陥る危険性が高いと見受けられます。買い手と関係や新規参入者の傾向、代替品の中には、逆に経営戦略策定のヒントとなる要素を見出すことが出来ます。

 

3) SWOT分析

 

 

現在の自社・内部環境

強み(Strength) +要因 弱み(Weakness) -要因
① 新たに準工業地域に立地したことで、夜間操業の実施など生産余力を残している。

② ランナーなど不要部分の樹脂を社内リサイクルして、環境意識とともに価格競争力を高めている。

③ 複数社のロングラン商品部品に携わることで、製品品質の向上策や外注先での金型補修策を蓄積している。

④ サプライチェーンで二次加工し、自社内で組立て検査した高付加価値品を販売する。

Ⓐ 業界内では自動省力化に後れを取っているため、生産現場で多品種少量生産に手間取って稼働率が低下している。

Ⓑ 不具合発生の際、担当者を責めて社内手順改定を進めなかったため、不良品廃棄総額が粗利の3%に達している。

Ⓒ 成型機の成型条件以外に製品データの紐付けがなされておらず、営業活動が活発でないので死に在庫も存在する。

Ⓓ 作業手順の後継指導が先輩社員の個人的教授に偏っていてニッパ―など備品更新も体制化出来ていない。

 

 

将来の自社・外部環境

捉えるべき 機会(Opportunity) 放置すると 脅威(Threat)
① 交代制の導入や生産設備の自動化により稼働時間を延長させて生産性を向上させる。

② 検査基準の厳格化によって高まった社内不良率に注目して対策を打ち、原価管理によって競争力を高める。

③ 既存販売先に信頼を得て医療用製品など新規分野や未経験材料の成型を行ないノウハウ蓄積。一方、金型補修費の低減で新規営業力を改善。

④ 生産期間短縮とパッケージ内製化といった手法で販売単価向上を図る。

Ⓐ 製造知識取得や人材育成を従業員個人の裁量に委ねていたため、労働人口減によって保有技術知識の劣化を招く。

Ⓑ 為替や原油相場による材料価格変動が業績に影響しやすく、安価な海外製品を理由に営業面で製品売価とコストの乖離を放置する。

Ⓒ 営業履歴が存在しておらず取扱製品が陳腐化していく。

Ⓓ プラスチック輸入品や海外技術の動向など設備や原価情報など業界知識習得に消極的である。

 

当社はBtoB顧客とBtoBtoC顧客どちらに対してもロングラン製品を金型保有し、むしろ供給責任を果たすのを重要視すべき存在であると認識します。しかし、BtoBtoCでは希少性や模倣困難性を持つ商品点数が減少しており、放置すれば脅威となりかねません。経営資源を活かすためには、製品仕様書や作業手順書といった製造に不可欠な手続きや書類を個々の従業員に委ねている点を企業として改善する必要があります。

当社の強みを見つめ直すと、生産余力の利用を原資に日本の製造業特有の品質管理を行なう体制を整え、二次加工のサプライチェーンを利用し付加価値の高い完成品を販売していくことが最善策であると考えられます。また、本来は営業活動によって収集されるべき競合企業の情報が保有されておらず、分析内容の確実性を低下させる要因になっています。

 

4) 競合分析

プラスチック製品製造業界で当社の競合企業は従業員数30~50名の企業が殆どで、比較すれば当社は従業員18名と小さな事業規模といえます。競合先に見られる傾向は、成型金型部門を自社で保有すること、印刷加工・押出成型・熱硬化性樹脂成型・切削加工といった加工の組合せを推進していることが挙げられます。射出成型のみでは競争劣位に陥るものと考えられます。

現在、当社はリクライニングカード立と番号札について市場で独自地位が存在しますが、PEST分析の結果から成長率が低いこの分野への集中投資は現状避けるべきです。

BtoB販売については、競合他社に比べて量・質ともに競争優位に立てる経営資源を持ち合わせないため、業界フォロワーとして射出成型試作を積極的に引き受け競合先技術の模倣に努めることが先決です。次に事務用品・日用雑貨分野で取扱製品のバラエティー性が高い自社の特徴を利用し、プラスチック成型零細企業の高齢化による廃業機会を捉え、類似商品を引き継ぐことで生産効率を高めつつ経営資源蓄積に繋げたいと考えます。なぜなら当社競合先にとって零細企業事業の継承は売上規模が小さ過ぎ利益が確保できないか、新たに必要な設備投資に対して収益が見合わないため、商材が継続するケースが稀だからです。その上で当社は新たに建材や医療介護分野向けのニッチ製品開発を進め、収益の柱にすることが望ましいと考えます。

 

 

第6章 考察とまとめ

創業者の勘であるマーケティングが長年に渡って効果を発揮したと思い知らされる結果になりました。商品の競争優位性は大半が失われましたが、業界内老舗企業の1社として最低限度の信頼維持と顧客の継承を行なってきた結果が現状だと認識します。

「国内中小企業の大廃業時代に、プラスチック小物雑貨製造業として技術伝承先になる」

と第3章冒頭で経営目標を掲げましたが、それには社員の成長を促す教育と訓練によってモラール向上と経営基盤整備を進めなければなりません。その効果として自社の新商品が開発でき、さらに若年層の採用と定着によって継続的事業になるのだと考えます。

したがって、2028年に到達しようとする経営戦略は以上の分析結果を踏まえて

「技能検定合格者全員のランクアップと事業所のISO取得により国内零細プラスチック製造業の継承を担う」と変容しました。

その戦術としましては自社の弱みを克服することも踏まえ、下記の順に進めます。

①外部・内部での社員教育・技術訓練の継続的実施を狙う計画作成と実施(本年より)

②製品仕様書と作業手順書の作成を全社員で役割分担し行ないます(1年)

③3名の技能検定ランクアップによって操業環境の改善を開始し、ムダ排除によるコスト削減を進めます(期間3年)

④管理会計ができる製造体制と営業体制の再構築をします(1年)

⑤製造と営業管理への国際規格ISO導入計画を立ち上げ、設備更新を進めます(2年)

⑥2025年までに廃業継承後の商材継続が難しい案件20件、廃業継承の見積案件10件の取得と売上目標4億円を目指します。2025年の時勢を考慮し、ステップアップした次の経営戦略を策定します。

 

 

第7章 監査方法と今後の課題について

目に見える達成目標として、社員の成長を図るものは公認のプラスチック射出成型技能検定と管理技士検定を用い、企業の成長を図るものとしてはISO国際規格認証を用いることにしました。監査方法については2月と8月の半年毎に銀行と会計士、F&Mへ財務面から監視をお願いします。戦術内容については事務室壁に個人技能習得情報などの記載を貼り足していく進捗表を工場長と私で作成し、常に社員から見えるようにします。その進捗表の監査は毎年2月と8月に当社監査役に依頼することにします。

10年後の経営目標を達成するため、まずは7年後までの経営戦略を策定しました。早急に当社社員に理解を広げようと朝礼スピーチ、昨日のMVP発表、年1~2回の全体会議実施を始めましたが、社長意見の域を脱したとは言い難いのが現実です。常に私自身が社外の情報に触れ、社員に向けて経営目標と戦略の緊急性と成果をアピールし、戦略の進捗状況を把握するだけでなく細かな戦術の相談に乗れる能力を維持する必要があります。当社の成長のためには私が率先して学ぶ必要があるのは明白です。また戦略の早い段階で社員を「単なるオペレーション仕事をコピーする人員」から脱却させ、私が当社参謀の担い手を見出すことはこの先10年で最大の課題だと痛感しました。

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