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修了生論文

伝統産業は生き残れるのか?
西田惣染工場 中期経営計画のための考察

大阪校 (O-college)アドヴァンス 西田 明子株式会社 西田惣染工場 代表取締役 社長)

1動機

 

ベーシックコースでの学びと論文作成を経て、当社の長期経営戦略と自分なりの方針を決めることができた。しかし、いかに社員とともにその実現に向けて取り組んでいけばいいのか、まだあいまいな点や、実行に際し、まだまだ明確にされていないことが多く残っていた。今回の論文ではアドバンスのコースで学んだことを軸に、中期的視点で社員とともに結果を導く経営計画を作成し、実行に移すための考察をこの論文で表したいと思う。

 

 

2 当社を取り巻く環境

 

2-1 日本の社会と経済

2016年以降少しずつ緩やかに経済は回復基調となり2020年のオリンピック開催まではこの状態が続くと一般的に予測がなされている。来年10月予定の消費税10%へ増税される前には駆け込み需要が発生する可能性もあるが、その後一般消費は冷え込む懸念もあり楽観視は出来ない。しかし現在のところしばらくは堅調な状態が続くであろうと予想される。

また2008年ピークを迎えた日本の総人口は下がり続ける傾向で、特に団塊の世代(65歳以上)を抜いた労働人口減少は益々減っていくため、労働力確保のために企業は固定費増加を嫌いながらも、緩やかに給与を上げていく流れにある。これによって個人消費の増加、外国人観光客に対応する建設投資やインフラ投資、少ない労働力でも生産性をあげるための企業の設備投資などが後ろ盾になったぬるま湯景気となるだろう。

しかしながら、その後も労働力減少による経済の悪循環はとどまることはなく、予定通り行われれば消費税は2030年までに18%まで引き上げられることなど、もし株価暴落や円高などの外国からの要因が動けば不景気に見舞われる可能性もあり、オリンピック以降の経済状況は決して易しい状態が続くとは思えない。

 

2-2 市場の動向

上記日本の経済や政治文化動向から見える市場と顧客動向について下記のフレームを使って現在と将来(近い将来で3年~5年後に設定)の考察を試みた。そして市場(顧客)が求める価値の現在と将来についても考察してみようと思う。顧客とは当社における直接の取引先を通じてエンドユーザーをイメージし、大きな意味で市場のニーズという捉え方で検討してみている。

 

切り口 現在 将来
市場規模 全体的な商品の流通量は変わらないまたは増加傾向が2020年オリンピックまでは続く 2020年オリンピック以降縮小の可能性がある
市場構造変化 問屋の機能が弱いながらもまだ活きているが従来の仕事の流れに変化が見えてきている 問屋機能がさらに弱体化し将来さらにボーダレス化が進む
技術 ・ネット販売が一般的になるやり取りのスピード感と価格が重要視されている

・インクジェット染色技術が一般化する

・ネット販売の普及につれてデメリットも見え、品質に対する安心を重視する傾向が強まる

・インクジェット染色技術がさらに多様化、高度化する

法規制 消費税導入前の駆け込みが少ないながらある 消費税増税による消費マインドの低下による悪影響がある
顧客が求める価値 速さ

安さ

便利さ

やりとりのしやすさ

技術背景と製作ストーリー

納得感

安心感(作り手が見えるなど)

納得感と満足感

便利さ

速さ

親切さ

技術や品質の高さ

 

2-3 顧客の動向

当社の得意先の多くは「旗問屋」

当社の直接取引先は旗・幕・のれんを取り扱う「旗の問屋業」だ。昨今、インターネットの普及によって直接エンドユーザーから製作依頼を受けることも増えてきてはいるが、やはり取引の中心はB2Bで「旗問屋」からの注文が売上の半分を占めている。旗問屋はエンドユーザーまたは中間の問屋からは一番メーカーに近く、メーカーの立場に立って製作にいたるまでの情報整理をするサービス業だ。当社はその旗問屋の介入によって、事務的な手間を省き、より効率的に受注を受けるメリットがあった。先代から取引の続く息の長い旗問屋の得意先も多い。当社に製作依頼をされる商品以外の付属品を加え、ユーザーが使いやすい状態にして納品をする仕組みだ。旗問屋の多くは祭り関係の幟、神社、仏閣関係の幕、商店の暖簾、学校や企業の旗、選挙関連グッズ(腕章やタスキ)などに加え、戦後経済復興中の日本のスポーツブーム(ゴルフやボウリングなど)におけるカップやトロフィなども販売してきた。

また皇太子のご成婚時の日の丸、昭和天皇崩御時の黒紋章等、その時代時代に応じた商品を販売、当社のような下請け業者を介し高い利益率でよき時代を過ごしてきた会社が多く、ほとんどの会社が無借金経営で安定した財務体質である。

 


当社に至るまでの注文の流れ

 

 

 

旗 幕 のれんの問屋 53%
同業者 24%
デザイン系/印刷関連 3%
繊維産業 刺繍/縫製 10%
ネット問屋 3%
その他 6%

当社の顧客(業種別)

 

 

 

「旗問屋」に今何が起こっているのか

~~旗問屋弱体化背景の考察~~

当社の売上の53%はその「旗問屋」からだが、事業継承のタイミングを迎えている会社が殆どになってきている。安定・優良企業のはずの旗の問屋がここ1年程で廃業していく会社が増えている。そして経営の継続が中・長期的には疑わしい会社が増えているように思う。なぜそうなってしまっているのか?大きな原因は三つあるようだ。

 

①電子入札による価格破壊と品質破壊

2007年以降、学校、官公庁などの旗等の入札が電子入札に変わった。それまでの信頼関係に関係なく、価格のみが評価される電子入札は異業種の参入を許し、品質やサービスの良し悪しは二の次になってしまった結果、粗悪品の流入はとめられず入札商品の旨みは全くなくなってしまった。

 

②インターネット販売に出遅れ

過去において旗問屋の販売ツールはカタログだったが、好調な時代が長く、インターネットでの販売に遅れを取ってしまった旗の問屋はメーカーである染工場や異業種(特に染色業よりも早くに疲弊した看板業界からのインターネット販売やメーカーECサイト等)による直販により豊かな市場を奪われていった。

 

③「旗問屋」の体質的な問題

豊満経営が存続するかに見えた時代が長く、価格競争に対応することに終始したため、新商品の開発や染色に関する専門知識の蓄積は営業担当の高齢化に伴い鈍化していった。積極的に若い人材を投入してこなかった会社も多い。若い世代に商品知識の継承がなされていない傾向も強く、右から左に商品を流すだけの営業マンも多い。また狭い世界特有の情報量の少なさもあり、小さい個人事業主では従来の商品の陳腐化がおきているのに気付きにくいようだ。

 

以上のことなどを踏まえると、当社の顧客はまだしばらく旗問屋が主であるが、今後進んでいくインターネット販売の増加や、異業種からの参入等によるボーダレスな流動的動向には十分気をつけて営業活動をし続けなければならないことがわかる。そして将来のことを考えると今から新しい顧客の層を開発しなければジリ貧になってしまうことは目に見えている。私が目で見て情報をあわせて分析したところ、旗問屋の中でも10年以内に廃業の可能性があると思われる会社が53%のうちの3割を占めている。これは当社にとって由々しき局面だ。

以下は旗問屋の顧客分析とそれに対応する自社戦略を考察する。

 

2-4 顧客分析と対応戦略

顧客情勢(強み) (弱み) 自社の対応戦略と課題
事業領域 地方の小売店や呉服店などとの古参のネットワーク

信頼関係

新規顧客開拓に消極的 インターネット攻略の出遅れ 信頼関係継続のための高品質な対応力

対等な立場の交渉力

商品力 祭り関連商品やノベルティ

付属品対応などの幅広さ

伝統的な商品

商品の陳腐化

時代に応じることへの遅れ

情報不足

・デジタル分野での強みと古参技術の融合で課題解決

・サンプル提供や校正など細やかなサービス

・スピード対応

技術力

ノウハウ

伝統的な商品に対するノウハウ 染色加工に関する知識 縫製加工等の外注加工先を多くもつ 商品知識 デジタルに弱い

デザイン力・IT力が弱い 縫製加工に難色

・丁寧な聞き込みによるシーンに応じた提案力・課題解決力で貢献

・縫製加工付で加工できる

販売力 京都ブランドの活用 若手育成や後継世代にノウハウの移植が進んでいない 顧客のノウハウ向上のための積極的工場見学誘致と勉強会や交流会実施
経営力 後継者と先代の方向性 価値観の違い 長年の殿様商売による弊害と後継者難

結果的に傲慢経営と

流通変化の対応に遅れがある

当社の企業努力による長期的技術支援が出来る

 

上記分析から、とりうる姿勢は顧客の弱みを強みにするということである。顧客支援により当社の課題解決力が高まり、顧客からエンドユーザーに対応するためのノウハウを真似たり研究することで、その蓄積や吸収が当社のサービス向上に繋がっている。現在顧客の旗問屋の立場に立った商品開発や研究が必ず将来一階層上の顧客やエンドユーザー対応に活きてくる可能性が高いので、根気よく対応してくことが肝要であることがわかってくる。

 

2-4 競合分析

当社の競合に関して下記3社を上げて検討する。

各社それぞれエリアも違うが、共通しているのは

  1. 東京に営業拠点を置いていること
  2. 特にM社B社のECサイトは非常に良く出来ていること
  3. 生産拠点は僻地だが売上は相当高い
  4. 経営理念がしっかりしている
  5. 経営者以外に活躍する中間層がしっかり稼いでいる印象がある
  6. どの会社も最終加工(ミシン縫製)に強い
  7. 経営者が若い(40~50代)

 

100年以上の社歴を誇るO社M社は古くからの工法も捨てていないことが当社と似ているが、B社は元々看板業でIJ染色(昇華転写)に踏み込んできた会社だが、素人目線で丁寧に説明されたECサイトは見事なほどにわかりやすい。デザインサービスが特徴的で無料で何度も校正してくれるなど、一般ユーザーが発注しやすい仕掛けが随所にある。これは見習うべき対応力だ。

 

O社 M社 B社
創業年数 1●●年 1●●年 ●●年
生産拠点 ●●に5拠点 ●●● ●●
総売上 ●●.●億(2017年) ●.●億(2017年) ●.●億(2016年)
純利益 ●●●万(2017年) ●●●万
従業員数 約1●●名 約●●名 ●●名
販売エリア 東京中心全国 東京中心全国 東京中心全国
特徴 東京に営業支店あり

引染からIJ染色まで

自社ブランドで小物販売

圧倒的な縫製力で主力は

祭り半纏等 営業も積極的に活動している

業界老舗のECサイト有

引染からIJ染色まで

自社ブランドで小物販売

手ぬぐいや半纏・大漁旗

東北の染色工場とのネットワークがある

ECサイト販売しかない

インクジェット染色や

インクジェットプリンター使用の小物製作等

B2C

もともと看板業

HPが超わかりやすい

デザイン部隊が充実

 

O社もB社も自社を染物屋と思っていない節もある。(過去の面会時の話より)売上規模から考えても狙いやすく、営業品目も近い先輩工場のM社を当社の競合モデルとしてM社のシェアを奪えるか、M社以上の売上を達成できるのかに注目し、自社分析を行ってみることにする。

 

 

3自社分析と戦略

 

 

3-1 経営理念

当社において、もっとも大切にするべき価値は間違いなく当社の経営理念である。

この理念を現実の行動理念として全員が実践を目指すことが私の使命である。

この経営理念こそが当社の根幹となる存在意義、企業価値である。

私たちは質の高い商品とサービスを持って社会の信頼に応え

色彩文化の創造を通して社会の発展に貢献します

一、お客様を第一と考えて常に革新を進め 未来への限りない挑戦をします

一、人間性を尊重して社員一人、一人の個性を大切にし、その成長と自由闊達な会社をめざします 

一、科学性を重視し合理性、先進性、独自性をもって常に進取の経営を行います

 

この理念のポイントになるのは「色彩文化」という造語である。

文化とは社会の営みの中で育まれた人間らしい活動であり、コミュニティの成果ともいえる。その文化に当社の製品が色彩を添えるということは誇らしく、そのことで社会貢献するということはおのずと高品質でなければならないという強い自負心を喚起する。

従って当社の社員はその自覚を持って製品作りをしなければならない。

またその質の高い品質をよりよく感じていただけるためのサービスもおのずと高品質なサービスでなければならないのだ。では当社における高品質とは何か?それは顧客第一の心構えで挑む革新的な付加価値の創造だ。そのためには社員一人一人の個性(強み)が尊重され、自由で風通しのよい環境(会社)にしなければならない。

また社員全員が自己成長をすることにより非合理の合理化(先進化)、独自性の追求により、将来に渡って安定的かつ進取の経営をめざしていくことが実現すべき理想である。売上や給与はその対価である。私たち社員は常に自問自答しなければならない。その行動は当社の理念に合致しているのかと。

 

 

3-2 売上と売上構成

 

左記は当社の過去5年の売上構成と工法別の売上分布である。まず売上全体は過去の5年間で少しずつ成長している。直近の31期の売上構成では昇華転写捺染が全体の42%となっているが、機械捺染は軒並みの売上減少傾向だ。昇華転写捺染などのフルカラーのインクジェット染部門が堅調に伸びている理由は、昇華転写捺染は無水染色と言われ、製版・蒸し・水洗工程が不要で格段に短納期対 応が可能で品質も安定している。一方機械捺染は工数が多く、納期がかかる。ポリエステルしか加工が出来ない昇華転写捺染では染められない木綿やアクリルなどの捺染ができる旧工法 だが、工数と作業員が多いため、不良率も高く、5年前に比べると7%も売上比率を落としている。

2020年の東京オリンピックでは旗の素材がポリエステルに決定されたと聞くが、このような大きなイベントの旗の仕様が今後の旗業界の素材を変えていくだろう。そうなると益々、昇華転写捺染が有利になる。現状この機械捺染のコストダウンと品質向上や商品開発は急務となっている。

 

 

 

3-3 自社の商品が与える真の価値と効果とは?

当社の製品がもたらす顧客にとっての価値に対する考察は下記のとおりだ。

 

製作とサービス内容 それがもたらす真の価値
コミュニティの象徴を染め上げる 空間を豊かに演出でき共感力を高める
両面染めをする どこから見ても美しく違和感がない
布で環境演出をする 構造物にやわらかい曲線を与える
フルカラーを使いこなせる デザイン的幅と自由度が高まる
色に対するこだわり 美しい色 予想以上の仕上がりが期待できる
一点ものを作れる コストパフォーマンスが高い
試作を重ねる 校正が出来る 安心して製作リードタイムを待てる
使用環境の聞き込みによりそれに合った製品工法の提案が出来る 特別感や満足感を高める

持続的な製品価値の提供が可能となる

布の特性を活かせる 持ち運べる軽さ 洗える 布は風を受けて空間を泳ぐ 纏える 包める 縫える
多様な生地と素材対応力がある 素材を活かしたこだわりの染色を実現
多様な染色工法と外注加工先をもつ 当社一社ですべて完結できる便利さ

 

布と染色という取り合わせのもつ面白さや利便性に加えて特別なマークを扱うニッチな染色工場としていかに広報宣伝するかが今後の課題となる。

 

3-4 SWOT分析

ここで改めて当社の強みと弱みを検証する

 

機会(O)

  1. 同業他社の廃業による受注拡大チャンスがある
  2. IJ染色の拡張性がある
  3. 安定経営で有利な融資が受けやすい
  4. 大量生産から小ロット加工へ(ニーズの変容)
  5. ネット活用で集客拡大のチャンスがある
  6. 既存顧客の弱体化
脅威(T)

  1. 既存顧客の経営不振で受注減の可能性がある
  2. 人材育成が不足している→将来の伸びがなく組織力低下となる
  3. 新工法に着手しなければ革新的ものづくりの素地が損なわれる
  4. 異業種からの参入による市場剥奪
  5. 場所的な問題で拡張性を失う
強み(S)

  1. 各種染色工法で多様なデザインに対応できる
  2. 両面染めの精度が高く美しい
  3. 高い画像処理能力を持つ職人がいる
  4. 京都のブランドイメージがある
  5. 一貫生産で最終加工まで可能
  6. 京都は同業や関連工場が豊富
  7. 小ロット対応が可能
  8. 高い利益率による安定経営の実現
  9. 新人採用が出来ている
  10. 工場の5Sが出来ている
  11. 優良顧客がある
強みを最大化/機会の活用

  1. 売上拡大と利益率の維持拡大
  2. IT活用と画像処理力の更なる向上のための社員学習会
  3. 京都で染工場を営業している強みをフル活用する(染工場のネットワーク、ブラント力、水資源等)
  4. 若手リーダー育成で社員の技術力を向上させる
  5. HPとSNSで集客力を高める
  6. 積極的工場見学誘致
強みに基づき脅威に対処する

  1. 転写の設備を増強し生産性を高める
  2. 既存顧客の営業支援として学習や見学会を実施し可能性を高める
  3. 東京営業所開設を検討する
弱み(W)

  1. 宣伝と営業活動が出来ていない
  2. ひとつひとつに手間隙がかかる
  3. 設備投資と修繕に経費がかなりかかる
  4. 技術の伝承に時間がかかる
  5. 手狭になってきた
  6. 社員のコミュニケーション能力が弱い
  7. 大型捺染機工法の不良率が高い
弱みを補完して機会を活かす

  1. 京都出行われる公開工房やイベントなどの協賛等に参加する
  2. 工場見学の積極的誘致を続け丁な仕事ぶりをアピールする
  3. 積極的OJT・勉強会・社外研修で社員のレベルアップをめざす
弱みと脅威を最小化しリスクを回避

  1. 現有社員の強みの発掘と個性の尊重で暖かい社風を大切にする
  2. 営業力向上育成プログラムの実施
  3. 工法間の品質勉強会をする
  4. ロスのカウントと工法別原価計算で意識改革
  5. 工場改築の前に社内のリニューアル工事で有効面積を拡大する

 

分析の結果、当社における社員のレベルアップが課題としてあることを改めて認識した。当社は毎年新卒の採用をしているが、入社3年以内の若い社員の成長のために全社的に教え、教えられる「共育」をテーマにしている。しかし計画に落とし込めていない(または計画倒れになっている実態)、またこれまで強固な得意先との関係に守られていた結果、営業が弱い点が今後の成長に対しての課題であると考えられる。つまりその点に力を入れることが出来れば会社はもっと大きく成長できる余地があるということだ。

 

3-5 クロス分析

左記のSWOTから戦略抽出のためにクロス分析を行った。

 

SWOT分析 戦略・対策等 財務 顧客 内部 学習
内部環境 外部環境
大型捺染機工法の不良率が高い スピード対応が求められる 昇華転写で売上を上げる
京都のブランド力 ネット利用者増大 HPやWEBで情報発信し集客に繋げる
宣伝・営業力弱い 京都の観光客が多い 公開工房やイベント協賛等で顧客開発する
最終加工まで可能 顧客の経営不振 営業先のチャネルを広げ受注拡大
社内コミュニケーションに問題 雇用難の時代 福利厚生と勉強会を掛け合わせたイベントを年4回

実施する

新人採用が出来ている 高齢化で労働力減少 5年後に会社の核になる人材育成をする
手狭になってきた オリンピックまで京都の土地価格が高騰 工場のリニューアルで有効面積を拡大し転写機を増設する
画像処理能力が高い ITの普及と進化 インクジェット染色の生産性向上
両面染めが出来る 京都の染色・印刷等関連工場が多い 京都のネットワークを活かした技術革新と独自の商品開発に挑む
立地の優位性が高い 便利さが求められる 小ロット多品種を活かした商品構成で売上を向上させる

 

上記のクロス分析においては強みを使った当社の中期経営計画の柱を組み立ててみている。中心になるのは顧客の視点と内部の視点、特に販路開拓や営業活動と社員のレベルアップだ。旗問屋からの受注がさらに弱まるまえに、積極的な広報活動や営業活動に取り組むことで新しい顧客創造を目指していかなければならないことが明確になった。

 

 

4 当社の経営目標と中期経営戦略

 

4-1当社の長期経営指針と経営目的

長期経営指針は経営目標を達成するための柱となる目指すべき指標である。

この長期的視点に立って、この先5年の中期経営をどのようになすべきかを数値とともに定め、社員と実践していく行動計画を検討していく。

 

経営目標 経営理念の実現 顧客と全関係者の幸福増大 事業の継承と安定成長
長期経営指針 人材育成 技術革新 顧客満足の追求

 

まず、中期経営5年間を前に、最も大きく変えなければならないことは全社員の仕事に対する意識と姿勢である。

今までの既存顧客(旗問屋等)に守られた仕事の待ちうけ姿勢から仕事を取りに行く姿勢に大きくシフトし、製造現場も営業もその意識で仕事にかかわらなければならない。

 

4-2 当社の中期経営指針

全体的な中期経営指針は下記のとおりとなる。これをもとにバランススコアカードを作成し、具体的な数値目標とスケジュールを持ってPDCAを廻していくことにする。

 

 

4-3当社の人事方針と組織分析

中期経営指針の中で最も大切なことは人材育成である。

当社の組織を分析し、どのような成長プログラムをどんな指針で行うかが非常に重要な鍵となるだろう。その骨子を下記にまとめた。

 

人材育成指針
1 採用に関して 2017年以降大卒高学歴者を毎年2名以上採用する

特に責任感とコミュニケーション能力、達成意欲を

最重要視する

2 共育 5Sと経営理念啓蒙の徹底
3 デザイン系ソフトの学習支援
4 商品知識の勉強会実施(特に営業と製造現場間の相互学習)
5 新入社員のマナー研修(OFJT)の継続
6 新入社員の1~2ヶ月各工法への配属研修
7 リーダー研修と意識改革を行う
人事方針
男女比のバランスを保つ
女性のリーダーを発掘し育てる
明るく風通しのよい社風作り(コミュニケーション)
適材適所の配属方針 相性を踏まえた仕事重視の人材配置
成長の可能性を感じる社員(謙虚・学習能力・向上意欲・チーム意識等)の重用
顧客第一とポリシーをもった責任感のある人材の重用
人格(自分より他人のことを思いやれる、協調性がある、責任感が高い等)・成長性の高さを感じる社員は尊重し、幹部、役員などへの登用も行う
物理的にもメンタル的にも働きやすい環境の整備を行う
ベクトルのそろった幹部育成に成功し、評価制度を導入する

 

単に若手の育成だけではなく、女性のリーダーの育成と活躍をめざしていくことは、中期経営計画においても鍵になるだろう。

 

   →入社6年以上の社員の意識改革も必要だが
特に20代社員の社員育成重視を する 30代以降は人格と能力に応じて
自発性を最重要視する。

 


   ・・・この層に注力する

 

       5年後には20代後半~30代後半の社員層が厚みをなしている結果を得ることになるはずだ。

(*5年後までに新卒採用の合計人数を6名とし、20代前半と後半に男女2名ずつカウントしている)

 

4-4 効果の確認方法

これまで検討してきた内容を当社の幹部と精査し、バランススコアカードにもれなく落とし込むことで共通の目標と認識をもってPDCAをまわしていく。

毎月の幹部会議と定例全体会議において各々の成果や工法別原価計算で計画に沿って全員で確認しあう。

 

 

5 結びに

 

当社は今年創業86年目を迎えている。86年目の会社社歴は京都では珍しいことではなく、当印染業界でも100年を優に超える企業は散見できる。特に手仕事の分野において、この社歴はここ京都という土地柄、「伝統産業」と呼ばれてもなんら不思議ではない。しかし、私自身「伝統産業」を継承する立場なのかと思うと、現実当社の中を歩いていてもピンとこない。大きな機械類、多くのパソコンがゴロゴロしている会社ではおそらく、当社の社員も同じくピンと来ないであろう。

むしろ、「伝統産業」=「衰退産業」の悪いイメージの方が先行し、昔と変わらぬ(変えられぬ)守りの技術職人の集まりというと聞こえが悪すぎるだろうか。過日、当社において公開工房を実施し、一般の人々に当社の中をゆっくり歩いて説明をさせていただく機会を得た。一週間の期間中、見学をされた方は約50名。

いわゆる手仕事や技の「伝統産業」を期待して当染工場を訪れた方は、当初、戸惑いを隠せなかった。そして見終わった最後には、ほぼどの見学者も納得と興奮を覚えてお帰りいただいた。それは何故か?それは手仕事の生き残り方の1パターンを発見したからだ。そもそも、「伝統産業」は同じことを繰り返すだけでは長きに渡り、顧客を満足させることは出来ない。「伝統産業」がその長い命をつなぐためには、変えるべきは変え、残すべきは残し、いくつもの困難を乗り越え、勇気を振り絞って殻を破り、新しい価値の創造を続けて、初めて真の「伝統産業」になるのだ。

つまり、「伝統産業」≠「衰退産業」
「伝統産業」=「成長産業」(成長と革新の連続)

でなければならない。

当社は曲がりなりにも今、その「伝統産業」の入口に立っている。

今までは会長の残してくれた遺産や余韻で何とか幸運にも順調に成長を遂げてきた。

しかし時代はどんどんと変わっていく。すぐ脇に大きなクレバスが口を開けているかもしれない。

孫子の兵法に優れたリーダーには5つの必須資質があると書かれている。

「智(智略はあるか)・信(信頼を得ているか)・仁(仁慈に富んでいるか)・勇(率先して行動しているか)・厳(自他に厳格であるか)」

私は当社の経営者として、この5つの資質を目指して自己研鑽し、社員とともに切磋琢磨しながら成長していきたい。まだまだ足りない資質ばかりだ。

ベーシック・アドバンスを通して、原田校長には厳しく、暖かく導いていただいた。

そして仲間との楽しい学びの時間を持てたことが本当に掛け替えのない貴重な体験であった。この感謝の気持ちをもって、必ず真の伝統産業として理念を実践し、社員とともに幸せで楽しい会社を築いていきたいと思う。

 

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