お問い合わせ・資料請求

修了生論文

ラピッドプロトタイピング実践報告書

大阪校 (O-college)アドヴァンス 福島 利昭株式会社ランドコンピュータ 代表取締役)

チェックシート:

 

ロジカルか?(科学的な根拠、論理の飛躍がない)
事実と解釈は分けられているか?区別が付く書き方か?
専門用語には解説があるか?(下線)
5,000字以上あるか?
結論はあるのか?

 

 

目次

 

1.テーマの選定について – 1 –

2.プロトタイピング導入前のデータ – 1 –

3.プロトタイピングへの期待 – 2 –

4.ラピッドプロトタイピングの実践 – 3 –

5.プロトタイピング<デザイン思考 – 6 –

6.デザイン思考の可能性 – 6 –

7.今後の取組みと監査方法 – 7 –

8.まとめ – 8 –

9.専門用語解説 – 9 –

 

 

1.テーマの選定について

 

当社は2002年にISO9001を認証取得し、以後製品・サービスの品質向上に尽力してきた。

しかし、当社のマネージメントシステムは品質重視となっており、スピード感に疑問を抱いていた。そんな折、2016年当ビジネススクールBasicに参加中、推薦図書「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である」(中島聡氏著)を読み、プロトタイプの重要性に気づいた。更に、同年MIXカレッジにて「デザイン思考」というキーワードをもらい、興味を持ちつつもそれ以上の勉強はしなかった。

しかし、2017年の夏に再びデザイン思考について調べたくなり、「デザイン思考が世界を変える」(ティム・ブラウン氏著)を読み、プロトタイプの重要性を再確認し、更にデザイン思考について理解が進んだ。

この論文ではデザイン思考の重要なエッセンスであるプロトタイピングを実際に仕事に取り入れてみて、その結果報告とプロトタイピングを取り入れる前の会社の状況の分析、そこから今後プロトタイピングを会社でどう実践していくかについて考察した。

 

 

2.プロトタイピング導入前のデータ

 

プロトタイピングという概念を知るまでは次のようなプロセスで製品開発を行っていた。ポイントとなるのは「製品レビュー」である。製品レビュー後の手直しがプロトタイピングにより削減できるのではないか考察した。

 

1.ISO9001認証取得後の製品開発のプロセス

0. 「顧客の声」の確認、販売会社様のヒアリング、製品トレンド・競合他社調査

1. 企画書作成・・製品の概要、大まかなスケジュール

2. 外部仕様書・・製品の技術構成の確定、スケジュール確定

3. 内部仕様書・・回路設計、プログラムロジック、ファイル構成、フローチャートなど

4. 製品開発・・回路入力、パターン、コーディング、デバッグ、マニュアル作成

5. 製品レビュー・・・営業部、サポート部に確認してもらう

6. 開発完了チェック・・・外部仕様書を満たすか確認

7. 品質検査・・・企画書の内容を満たすか確認

 

 

2.製品レビューの分析(事実)

※ 現在のグループウェアで記録するようになった2010年以降の新製品レビューを分析対象とした。製品改善のレビューについては外観に変化がない場合が殆どで、要望も非常に細かいものが出る傾向にあり、プロトタイピングの題材には不適当と考えた。

 

 

3.製品レビューの考察

要望9件のうち、4件についてはプロトタイピングで開発着手前に改善できた可能性がある(a)。例えば、利用履歴管理システムの「年輩の先生が使うので、ウィンドウのサイズやフォントを大きくしてほしい」という要望であるが、このあと開発対応している。すでにコーディングが完了したソフトウェアの画面スタイルを変更すると、様々な調整が発生して、1画面1時間以上の工数を要する。画面数が10画面となると10時間以上かかる可能性がある。これは画面のイメージを手書き等でレビューすると、その際に「年輩の先生が使うからフォント大きめで開発してね」とアドバイスが出た可能性が十二分に考えられる。すると、開発着手の段階で適切なフォント設定で画面を設計できる。

 

 

3.プロトタイピングへの期待

 

当社はハードウェアメーカーでもあり、ソフトウェアメーカーでもある。前項で述べた5の製品レビュー以降で手直しが発生する場合の余剰コストとプロセスについて考察した。

 

1.各工程の内容とコスト概算

ハードウェア 内容 コスト概算
外観の変更 板金ケースの場合は板金設計のプロセスが発生し、追加の板金コストがかかる。

樹脂ケースの場合、ケース設計のプロセスと金型変更のコストがかかる。最悪の場合、金型の作り直しになる。

板金ケース1台 2~3万円

金型変更 30~100万円

金型作り直し 300~1,000万円

回路変更 回路設計のやり直し、パターンの引き直しのプロセス。基板の初期コスト(メタルマスク、シルク版)が追加となる。また、基板を作り直すと部品を載せ直すプロセスがかかる。 基板初期コスト10~20万円
部品変更 部品の購入。入れ替え前の部品と互換性がない場合は回路変更が伴う。 部品 1円~1万円
軽微なパターン変更 社内の製造要員で修正できるレベルのパッチ作業。 初期コストはかからないが、製造するごとにパッチ材料(1~50円)と製造コスト。
その他 ファームウェアの修正。 見た目にコストは掛からないが、プログラマーの工数がかかる。

 

ソフトウェア 内容 コスト概算
画面変更 開発ツール上でコンポーネントと呼ばれるソフトウェアの部品のプロパティを変更する。 変更の規模によっては1画面1時間以上かかるものもある。
ロジックの変更 開発ツール上でコーディング、デバッグ。 1時間で終わるものから10日以上かかるものもある。

 

共通する事項 内容
マニュアル変更 Wordでマニュアルを変更。PDF出力して、Webサーバーに乗せる。印刷する場合もある。
カタログ変更 Illustratorで修正できるものは社内で実施し、PDF出力して、Webサーバーに乗せる。100部単位で印刷する。変更が大きい場合は外注する(5,000円~)。
Webサイト変更 DreamWeaverで修正、アップロード。見た目にコストは掛からないが、Web技術者の工数がかかる。

 

前項のプロセス0と1の間にプロトタイピングを数時間挿入したとしても十分に工数短縮、コストダウンにつながる。

 

 

4.ラピッドプロトタイピングの実践

 

1. プロセスの変更

0. 「顧客の声」の確認、販売会社様のヒアリング、製品トレンド・競合他社調査

1. プロトタイプ作成

2. 企画書作成・・・製品の概要、大まかなスケジュール

3. 外部仕様書・・・製品の技術構成の確定、スケジュール確定

4. 内部仕様書・・・回路設計、プログラムロジック、ファイル構成など

5. 製品開発・・・回路入力、パターン、コーディング、デバッグ、マニュアル作成

6. 製品レビュー・・・営業部、サポート部に確認してもらう

7. 開発完了チェック・・・外部仕様書を満たすか確認

8. 品質検査・・・企画書の内容を満たすか確認

 

2.実際に開発した製品について

製品名:「PJLinkアダプタ」

<システム構成図>

 

3.プロトタイプした箇所

当社にとって、マイコンを使ってTCP/IP通信を行うのは初めてであった。

この部分の技術的課題をクリアしてから、次の「2. 企画書」に進むことにした。

 

4.プロトタイプの方法

マイコンメーカーが販売している評価基板を購入し、TCP/IP通信の実験を行った。

 

5.最初の評価基板

マイクロチップ社の32ビットマイコンが実装された評価基板。

LANは100Mbpsの通信速度。Amazonのクラウドサービスに接続することができる、高付加価値の製品。

→この基板を動かすためのライブラリ群「Microchip Harmony」が動作不安定。Javaで動作する開発ツールで、デバッグ中に動作停止が多発するため、開発効率が悪いと判断し、中止。

 

6.2回目の評価基板

マイクロチップ社の8ビットマイコンが実装された、電子部品を販売する「共立電子」のオリジナル評価基板。

LANは10Mbpsの通信速度だが、製品仕様としては十分。

→普段マイクロチップ社の8ビットマイコンを使ってハードウェアを制御しているため、スムーズに開発が進み、PJLinkに準拠したTCP/IPを行い、プロジェクターを制御することに成功。

 

7. 開発担当者へのヒアリング

福島:「今回はテスト的に、企画書より先にプロトタイピングを行いましたが、なにか変化はありましたか?」

担当:「やりやすかったです。今後もこのやり方がよいと思います。」

福島:「どの点がやりやすかったですか?」

担当:「普段なら、企画書と外部仕様書でスケジュールが決まっているため、基板を変更するという余裕が生まれないような気がします。今回の場合、最初に購入した32ビットマイコンの評価基板でなんとか実現しようと頑張ってしまい、結果的に納期に遅れるということが考えられます。その点、今回は企画書が出てない段階だったので、スケジュールも具体的に聞かされていないので、すぐに32ビットマイコンはハードルが高すぎると思い、諦めることができました。」

 

8. 開発部責任者のコメント

「評価機については、既製品の購入や評価ボードの購入を行い評価することで、効率化が図れると考えています。外観に関してはメリット、デメリットが考えられます。」

 

■メリット

  • 早い段階で製品のイメージが確認出来、製品設計の手戻りによるロスが回避できる。
  • 平面図では分かりづらい全体の位置関係が把握できる。
  • 実機を使った開発が早い段階で出来る。
  • 色んな意見を取り入れた良い製品が出来る。

 

■デメリット

  • イメージで製品を作った場合に、実現するに当たり困難な構造や機構になる可能性がある。
  • 色々な意見が出た場合に、収拾が困難になる。

 

■イメージの掴みやすさ

  • プロトタイプを作製することでイメージが掴みやすくなると思います。

創造・空想<平面(二次元)<仮想現実(三次元)<現実(実機)

 

■実際の運用手順について

  • 製品を、誰が、何処で、どの様に使用するかを明確化(分析)してから開始する。
  • デザインは企画の段階で、案を明示しておくか、レビュー時に検討する。
  • 2D CADでプロトタイプの外観図(実寸の展開図)を作成したものをプリンタで印刷し、外観イメージの確認を行う。
  • モック製作 → レビュー →修正

 

9.開発部責任者コメントの補足

唯一デメリットとして考えられる点は外観を優先するあまり、内部構造において制約が出てしまい、機能面で後戻りが発生しないか?という点である。ここについては、省スペース化や複雑な構成の要望が出た際に、その必要性を十分に確認し、技術的にハードルが高くなるほどの外観設計になる場合は、外観の決定を先送りすることで回避出来ると考える。

 

 

5.プロトタイピング<デザイン思考>

 

プロトタイピングを実践してみて、好感触を得て「デザイン思考」を手に入れたような気分になっていたが、「デザイン思考が世界を変える」を読み返してみて、重要なことが抜け落ちていることに気がついた。それは次のキーワードに集約されている。

 

「プロトタイプ製作は簡素、ラフ、安上がりでなくてはならない」

「初日からプロトタイプを作る」

 

まず、上記のキーワードから外れたプロトタイピングをしていた。つまり、製品の外観をイメージできるプロトタイピングを行っていなかったのである。機能的な課題を潰すだけのプロトタイピングをしており、その製品がどこに置かれ、どの製品とつながり、コンセントはどこから取って・・・と言った製品を取り巻く環境をイメージする機会を持てていなかったのである。それは言葉を変えると製品を平面で捉えており、立体的に捉えられていなかったことになる。幸い、この製品はサイズもコンパクトで置き場所にも困らないので、ハードウェア的な変更があとから発生することはなかったが、機能面だけにフォーカスしているのは技術者の悪いクセである。

改めて、プロトタイピングはデザイン思考の重要な構成要素ではあるが、プロトタイピングが全てではないし、プロトタイピングにも様々な種類と深さがある。

プロトタイピングというのはデザイン思考において一つの手法として紹介されているだけであり、本来は当社で言うところの「0.「顧客の声」の確認、販売会社様のヒアリング、製品トレンド・競合他社調査」の段階でデザイン思考を取り入れることにより、イノベーションへとつながる可能性がある。

このままプロトタイピングを中心に、社内改善を進めるだけでも当社としては進歩ではあるが、デザイン思考をフル活用しているとは言い難い。

 

 

6.デザイン思考の可能性

 

デザイン思考で当社が大きく変わる可能性のある部分として、製品を個体で捉えるのではなく、製品を取り巻くサービスすべてをメーカーが意識して設計していくということにある。

量産の手前になって、いろいろな気づきを得ても、納期・コストの両面から変更することはほとんどない。次の製品開発に活かせる場合もあるが、しばらく開発期間が空いたり、担当者が変わったりすることで、また製品を個体として意識した作りに戻ってしまう。

 

プロトタイピングは低コストで製品を立体的に捉える素晴らしい手法であると、実践して分かった。今後、製品開発に関わる全ての人間がデザイン思考について学び、製品を立体的に捉え仕様・機能だけでなく、付属品やマニュアル、外観に関して改善案がプロトタイピングの段階で出ることが期待できる。

 

社内にデザイン思考の考え方が浸透してきたら、製品開発着手前の段階でニーズの観察等行い、全く新しい方向性の製品・サービスの開発を行い、イノベーションを巻き起こす企業となりたい。

 

 

7.今後の取組みと監査方法

 

1.プロトタイピングを複数の段階に分ける

ハードウェア外観:

ステップ 手法 期待する効果
第1ステップ:モック ダンボール等を使って1時間で仕上げる。 製品の大きさが分かり、設置場所のイメージが湧く。周辺に置かれる関連機器のイメージも湧く。ロゴの位置やスイッチの位置の議論ができる。
第2ステップ:高精度モック 実寸通りに印刷したものをダンボール等で補強し、組み上げる。これも1時間以内。 第1ステップでの意見が反映されているか確認
第3ステップ:試作品 塗装を省いて、製品と同じ大きさ、重さのものを作る。 第1ステップ、第2ステップの確認。
製品レビュー

 

ハードウェア機能:

ステップ 手法 期待する効果
第1ステップ:評価基板、既存製品の組み合わせ メーカーが評価用に販売している基板を使って実験する。また類似の製品があれば利用する。 技術的に問題がないか確認する。
第2ステップ:自社基板 実動作するファームウェアを書き込み、評価する。 回路ミス、パターンの引き回し問題がないか確認する。
製品レビュー

 

ソフトウェア外観:

ステップ 手法 期待する効果
第1ステップ:スケッチ 方眼紙に定規とシャーペンを使ってラフ案を描く 画面イメージが湧く。ボタンやラベルといったインターフェースに関して意見が出やすくなる。
製品レビュー

 

ソフトウェアロジック:

ステップ 手法 期待する効果
第1ステップ:サンプルプログラム 最小限のインターフェースに課題となるソフトウェアロジックを実装して実験する。 膨大なコーディングの実装を待たずに技術的な問題点が明確になる。
製品レビュー

 

2.監査方法

2018年以降4月以降に開発する製品については上記の各プロトタイピングを実践し、プロジェクト完了の際にプロトタイピングの効果性について記録する。

 

 

8.まとめ

 

ISO9001導入から16年が経過し、確実に品質は向上してきたというデータも実感もあるが、「イノベーティブか?」と問われると「NO」と言わざるを得ない状況である。長年の悩みを解消する可能性を秘めた「デザイン思考」というものに出会い、会社として新しいステージに進めるのではないかと期待している。

プロトタイピングという考えを導入するまでは、製品の品質とは仕様通りに適切に動作するか?故障しないこと、すばやく動作することなどが念頭にあった。しかも、真面目にレビューを実施し、そこで出た意見をきっちり反映するにはコストと時間がかかっていた。プロトタイピングの発想を導入することで、

1.早く失敗することで、別の手法にすばやく切り替えることができる

2.製品単体ではなく、使い手・売り手・導入業者の目線で様々なアイデアが出やすくなる

と考えられる。

繰り返しになるが、プロトタイピングだけではなく、デザイン思考を製品開発の上流で発揮させ、イノベーションを巻き起こす企業を目指していきたい。

 

<最後に>

 

このような考察の機会を提供していただいたF&Mビジネススクール原田校長と大西校長に感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

 

9.専門用語解説

 

顧客の声・・・NIコンサルティング社のグループウェアにあるデータベース機能。お客様からの要望を記録しておき、それに対するアクションも指示できる。

 

ファームウェア・・・ハードウェアに直接指示を出すプログラムのこと。ソフトウェアに比べて更新の難易度が高いので、firm(固い)wareと言われるが、hard(もっと固い)wareよりは柔軟に対応できる。

 

CALLシステム・・・Computer Assisted Language Learning。コンピュータの助けを借りて、語学学習をするシステム。

 

ランダムペア・・・LLやCALLシステムで使われる機能。教室内の学生とランダムにペアを作り、会話の練習をする。この機能を実現するには電話交換機のようなマルチチャンネルの音声回路が必要(ただし、ソフトウェアで実現する場合は当てはまらない)。

 

EDID・・・Extended Display Identification Dataの略。ディスプレイやプロジェクターに内蔵しているデータで、映像を出力する側(PCやBlu-ray)がどういうフォーマットで出力すればよいか定義した指示書のようなもの。

 

 

メタルマスク・・・基板上のどの部分にハンダを塗布すればよいか、適切な部分に穴をあけた鉄板。


太陽誘電ケミカルテクノロジー社より

 

PJLink・・・一般社団法人 ビジネス機械・情報システム産業協会が規格・制定した、同じ命令で異なるメーカーのプロジェクターを制御できるようにルール化した、TCP/IP通信を使った上位プロトコル。

pagetop