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修了生論文

ダイビング業界の構造を分解しビジネスチャンスを探る

沖縄校(美ら海ビジネススクール) 秋元 智道ビットノット株式会社 代表取締役)

現在、当社ではウェブの制作とマーケティングの事業を行っている。顧客はダイビング関連が7割、その他企業が3割である。しかし、売上比率はダイビング関連のほうが下回っている。つまり、ダイビング関連の案件は単価が低いということである。ダイビング関連の案件単価が低いことは、企業規模を考慮すれば妥当だと言える。果たして小規模な企業が集まる「ダイビング業界に特化することで会社を成長させることができるのか?」、また「業界に特化するタイミングは今なのか?それとも会社を育ててからが先か?」という問いについて追求していきたい。

 

 

1. 全業種の案件を請け負う立場から、専門分野に特化していく必要性を探る

 

1-1 ウェブ制作・マーケティング業界のファイブフォース分析

まず自社の現状を把握するために、ウェブ制作・マーケティング業界をファイブフォース分析にて構造を明らかにする。

 

上記ファイブフォース分析により、次のことが明らかになった。

 

■業界内の脅威(強い)

県内での起業や県外からの進出が続いており、競合他社が多いため業界内の脅威は強い。

■新規参入者(強い)

PCと個人の技術のみで起業が可能であるため、新規参入障壁は限りなく低く圧力は強い。

■買い手の交渉力(中程度)

クライアント企業の選択肢が多すぎる。ユーザーからの閲覧環境の成熟とデバイス規格が安定してきた等の理由により、ウェブサイトの利用可能な期間が伸び、リニューアルの必然性が低下し、圧力は強まっている。

その反面、沖縄県内の景気上昇により制作需要が増加傾向にある点や、県外のウェブ制作会社では人手不足や働き方改革の影響で、制作リソースが不足しており、同業他社への外注需要が増加し、圧力は弱まっている。

■売り手の交渉力(弱い)

AdobeやOffice等の月額利用化によりソフトウェア関連費が上がっているが、大きな負担ではない。

■代替サービス(強い)

ウェブ制作においては、代替サービスが多くあり、無料にてウェブサイト制作を可能とするサービスや、情報拡散にはSNS,インターネット販売にはショッピングカートやオンラインショッピングモールを利用するなど、目的に特化したサービスが揃っており、今後ウェブサイト制作のニーズそのものが減少する可能性がある。本分析において、業界への影響力が最も強い。

■ファイブフォース総論

数年前と比較すると需要が増加している。しかし、競合の乱立、リニューアル機会の減少、代替サービスが増加していることを考慮すると、中長期的には、需要は低下し競争が激化していくことが推測できる。その際にクライアントに選んでもらえる企業になるための仕組み作りが必要だと考える。

 

1-2 SWOT分析で自社を把握する

SWOT分析を用いて自社の強みと弱みを把握し、適切で実行可能な施策を練る。

 

上記SWOT分析により、次のことが明らかになった。

 

■強みから機会を捉える

A:知見のあるダイビング業界に特化したサービスの開発

B:制作スピードを活かし、他社と提携し制作部分のみを請け負う

■弱みの克服策

ア’:制作リソース不足は外部パートナーと連携する

イ’:低単価業務の人件費コストを下げるため、簡易業務は短時間アルバイトを雇用する

ウ’:コンペ参加の無駄を省くため、参加基準条件を設ける

■脅威の回避策

あ’:受託拒否が続き、依頼相談が停止しても困窮しないように、他の方法での新規獲得方法を作る(機会Aへ)

い’:低単価案件に偏り売上総利益率が低下しビジネス崩壊しないために、未経験者を採用し、人材教育としての価値をつけ活用していく。

う’:新規案件の減少を回避するため、コンペ以外の顧客獲得方法を作る(機会Aへ)

■SWOT総論

自社の強みであるダイビング業界への知見と制作とマーケティング運用の活かすために、ダイビング業界特化サービスを開発する。業界に特化することで脅威である新規顧客獲得の回避策となる。

ただし、制作リソースの不足や教育のために安定した売上獲得が必要であるため、他社と提携し制作のみを請け負い、業務時間を効率的に売上に変換する。

 

ここまでのウェブ制作・マーケティング業界の構造分析により、過当競争化する予測からクライアントに選んでもらう仕組み作りの必要性が明らかになった。また、選んでもらう差別化のために、自社の現状に即しているのはダイビング業界に特化することに可能性があるとの仮説に至った。

 

 

2. ダイビング業界の市場規模と構造を分解し、ビジネスチャンスを探る

差別化は必要であるが、特化する業界はダイビング業界が適しているのか、また自社を成長させる可能性がある業界なのかを探ることとする。

 

2-1 ダイビング業界の概要

■市場規模

経済産業省によると市場規模は600億円と発表されている。

市場規模600億円というと、規模の近いものではボウリング660億円、ダーツ640億円、スキー場580億円などがある。同じレジャー・旅行産業と軸で見てみると旅行6.1兆円、ホテル・旅館2.7兆円、ゴルフ場8,780億円、ゴルフ練習場1,350億円、遊園地・テーマパーク5,928億円となっている。(visualizing調べ)

■消費者動向

ダイバー人口は120万人(レジャー白書調べ)となっているが、活動しているダイバーは約半数の60万人程度と言われている。Google トレンドによる検索回数は、2004年から2018年にかけて世界でも日本でも減少している。

検索トレンド推移(Google トレンド参照)

■ダイビングショップ

経済産業省によるとダイビングショップ数は全国で1,600件ある。そのうち、沖縄県は962件(一般財団法人沖縄マリンセイフティービューロー調べ)が集まっている。沖縄県内のダイビングショップのうち69%が個人事業主(琉球朝日放送調べ)である。

 

2-2 ダイビング業界の構造

ダイビング業界とは、主にスクーバダイビングをする人を中心に成り立っており、ダイバーという消費者に対して、大きく分類して「教育」「器材販売」「ダイビング予約」「メディア」の4つの接点がある。まず、ビジネスチャンスを探るために、それぞれの役割と金銭の流れを示し、業界の構造を明らかにしていくこととする。

 

■教育

ダイビングを行うには、一般的にライセンスと呼ばれるCカードという認定証を取得する必要がある。Cカード取得の講習を行うのがダイビングショップに所属またはフリーのインストラクターである。Cカード講習の認定基準を決め、発行するのは指導団体と呼ばれる組織であり、所属インストラクターにカリキュラムやマニュアルを提供している。指導団体は、民間企業であるため世界中に存在しており、日本国内でも正確な数は把握できていない。その中でもPADIという指導団体が世界で60%のシェアを占めている。

◯教育の収益構造

消費者がダイビングを始める際には、ダイビングショップまたはインストラクターに講習料を、指導団体にCカード申請料支払う。ダイビングショップ及びインストラクターは、指導団体に加盟料を、保険会社に傷害賠償保険料を支払う。

また、ダイバーとなったあともランクアップのための講習が提供され、その度にショップと指導団体は講習料と申請料を得ることができる。講習を行えるインストラクターにさせるまでには、個人差もあるが5〜10回程度の収益機会がある。

つまり、教育は再販が可能ではあるが、半永久的に継続させることが不可能な構造になっている。

■器材販売

ダイビングは専用用具を必要とするスポーツであるため、ダイビング器材を販売またはレンタル提供する収益機会がある。販売を担うのが前述の講習を行うダイビングショップと器材量販店の小売店であり、器材メーカーが卸している。20年以上前は、講習時に器材も購入する消費者が多く定価販売が可能でダイビングショップにとって利益率が高い収益源であったが、ダイビング器材を専門に扱う薄利多売の量販店が出現し価格競争に晒されるようになった。さらにインターネット販売よって競争は激化している。

◯器材販売の収益構造

ダイビングショップの教育で集客し、器材販売で高利益を得る構造は崩壊している。量販店はインターネット通販への売上比重が高まり、差別化を明確に打ち出せず価格競争の中にある。インターネット通販では、チャネルを拡大のため自社ECサイトのみならず、amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどへの出店が目立ち、出店手数料と運営する人件費コストが負担になっている。

■ダイビング及び旅行手配

初めてのエリアでダイビングを手配する場合、自分でダイビングショップを調べて現地ダイビングショップに予約する方法と、ダイビング手配を行う旅行会社を通して予約する方法に分類される。

◯ダイビング及び旅行手配の収益構造

ダイビングショップが旅行会社や予約サイトを通して予約を受け付けた場合、7〜20%程度の手数料を支払う仕組みになっている。

■メディア

メディアとしては、ダイビング専門誌で「月刊マリンダイビング」と「月刊ダイバー」の2誌がある。発行部数は、月刊マリンダイビングが14万部、月刊ダイバーが10万部と公表されている。両誌ともに、紙媒体のみではなく、ウェブメディアも展開している。

◯メディアの収益構造

消費者からの書籍購入費と、ダイビングショップ、旅行代理店からの広告収入が主な収入源となっている。

 

以上のことから、業界動向推移と各分野の収益構造が明らかになった。ダイビング業界は衰退しており、事業者のほとんどは零細な個人経営である。業界内を各分野にわけてみると、ダイビングショップも指導団体からは加盟店として、器材メーカーからは販売代理店として、旅行会社からは登録店として、メディアからは広告主として顧客であるということがわかる。各分野にとって一般消費者がメインの顧客であり、獲得競争は熾烈である。その点、ダイビングショップ向けの競争は少ない。1社当たりの取扱額が大きいのは、指導団体、器材メーカー、旅行代理店、メディアであるが、分野ごとに数社程度しかない。しかし、ダイビングショップは県内に926件。国内に約1,600件と数において圧倒し、専用サービスを開発し、集中して営業をかければ、多くのクライアントを獲得することができる。

他分野よりもダイビングショップを優先して顧客とした場合、指導団体、器材メーカー、旅行代理店、メディアに対してBtoBプルマーケティングを活用させていくことも可能だ。また、ダイビングショップとのネットワークを作ることで、一般消費者向けの予約サイトへと拡張させていくなど、発展が見込めるため、順序としても適切と考える。つまり、競合が少ないダイビングショップをターゲットとするニッチ戦略を採るということだ。

 

 

3. ダイビングショップ向けニッチ戦略

ダイビングショップにターゲットを絞るならば、何を提供することで収益を得るのかを見つける必要がある。先に述べたように、ダイビングショップは約7割が個人事業主である。ダイビングショップと類似している業態から、手法を探ることとする。

 

3-1 類似している業態を探す条件として以下を設定する。

個人事業および法人が混在している
業界として認知されている
BtoCをメインとしている

 

3-2 類似している業態

コンビニエンスストア
飲食店
美容院
エステサロン
整体マッサージ
医院(歯科、内科、小児科等)
フォトスタジオ

 

上記のなかからコンビニエンスストアも個人経営ではあるが、フランチャイズとして集客、仕入、経営等のサポートが徹底しているため、類似業態から排除する。医院も医師免許や病気の際に行かざるを得ないということで背景や動機面での相違が強いため排除する。

「飲食店」「美容院」「エステサロン」「整体マッサージ」「フォトスタジオ」などの業態が、ダイビングショップと類似性が高いと考えられる。これらの業界に特化したウェブ系のサービスを探ってみることとする。

 

3-3 予約・売上・顧客管理クラウドサービス

リサーチの結果、業界に特化したあるサービスを見つけることができた。予約、売上、顧客管理、集客までウェブで行えるクラウドサービスが美容・エステサロン向けに多数存在している。

このサービスをダイビングショップ向けにカスタマイズして提供することができれば、予約の確認や売上・顧客管理に費やす事業者の負担を軽減することができるため需要が高いと考えられる。顧客にとって、本サービスでは継続利用が前提となるため月額費用は安価で提供することができる。当社としても、1度の開発で多数の顧客に展開できるため顧客当たりの開発費を抑えることもでき、毎月のストック収益となるため経営の安定にも繋がる利点がある。またウェブサイトの集客から予約管理システムへの導線も確保しやすく、現状で提供しているウェブサイト制作との相乗効果も高いと考えられる。

 

3-4 運営・経営サポート

美容サロン向けに開業から資金調達、店舗設計、集客、採用、教育、商品仕入までをワンストップで提供している企業がある。美容の現場経験を積み独立起業する人をターゲットにして、現場仕事以外の運営体制を作るサポートを行うということだ。

ダイビングショップも現場で5-10年ほどの経験を積み独立起業し、現場業務以外のバックオフィス業務は知識や経験が少なく不得手としているケースが多くあるという点でターゲット像に共通項が多く、ダイビングショップにもニーズがあるものと考えられる。

現在、当社から提供しているサービスはウェブ集客であるが、採用や、IT・ウェブマーケティングのスタッフ教育、前述の「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」を導入していれば、売上構成も把握できるので、レポーティングや経営支援まで行えるようになる。さらに、資金が必要だが銀行借入ができない、またはやり方が分からない事業者には、借入に必要な事業計画などの提出書類作成まで支援できれば、運営・経営サポートに必要な資金の確保できる。

 

 

4. 事業計画

ダイビング業界に特化し会社を成長させるために、何をするべきかを明確にすることができた。ここからは、どのように進めていくのかの計画を立てていきたい。

 

4.1 サービス開発から利用者獲得まで

(1)見込み客獲得

「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」を始めるにあたって、営業ルートの開発が必要だと考える。沖縄県内に962件のダイビングショップが存在するが、沖縄本島内には463件であり、それ以外の499件は離島にあるため、訪問による営業は距離的に考えても効率が悪い。

そこで、BtoBプルマーケティングを活用していきたい。ダイビングショップにとって顧客はダイバーである。ダイバーがみるウェブサイトを作成し、無料で利用できる仕組みをつくる。具体的にはダイビングショップを紹介するポータルサイトを制作し、掲載店を集め「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」の見込み客とする。

現在、当社で運営しているポータルサイトをリニューアルすることで、開発期間を3ヵ月程度に短縮できる。

(2)予約・売上・顧客管理クラウドサービスの開発

予約・売上・顧客管理システムを制作した実績があるので、それをベースに複数ユーザーで利用できる仕様に構築しなおすことで、最短4ヵ月で制作ができる。

(3)「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」の営業活動

先のポータルサイトで得た見込み客に対して営業する。また、並行しダイビングショップ向けのセミナーを開催し、「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」の利用者とポータルサイトへの掲載を獲得していく。

(4)「運営・経営サポート」の営業活動

「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」の利用者に営業を行っていく。

 

4.2 売上予測

沖縄県内のダイビングショップを対象にした売上予測を立てる。沖縄県内の事業者数962に対して約70%をポータルサイトに掲載する。その50%に予約・売上・顧客管理クラウドサービスを利用者していただく。料金設定は、5,000円から30,000円で利用内容を分類し、平均単価を15,000円とする。またその利用者の10%に運営・経営サポートを利用していただき、平均単価を100,000円とする。

店舗数 単価(月間) 売上(月間) 売上(年間)
ダイビングショップ 962
ポータルサイト掲載店 673 ¥0 ¥0 ¥0
クラウドサービス利用者 336 ¥15,000 ¥5,040,000 ¥60,480,000
運営・経営サポート利用者 33 ¥100,000 ¥3,300,000 ¥39,600,000
合計 ¥8,340,000 ¥100,080,000

 

 

5. 総論

以上の考察から、私の問いであった「ダイビング業界に特化することで会社を成長させることができるのか?」には、「予約・売上・顧客管理クラウドサービス」と「運営・経営サポート」の2つを収益の柱とし事業の収益化は可能であると導き出すことができた。

もう一つの問い「そのタイミングは今なのか?それとも会社を育ててからが先か?」への結論は次の通りになる。制作期間が最低7ヵ月かかることから、開始を早く行わなければならない、しかしその期間中に会社を維持させるには別収益が必要であることは明らかだ。つまり、現状の収益を確保したまま、いますぐに事業を開始させるべきだと結論付けられる。

最後に、本研究において、あらためてウェブ制作・マーケティング業界における当社の立ち位置と、ダイビング業界の可能性を理解することができた。分析と計画はできたので、あとはスクールで繰り返し教わった行動にコミットするだけだ。

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