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修了生論文

当社の現状把握と中長期経営戦略

名古屋校(N-college) 小坂 悦郎株式会社パワー・ケー 代表取締役)

1. <テーマを選んだ動機>

当社は、長野県でビルメンテナンス業を中心としたビル管理サービスを行っている。平成2年私は、創業者である父から事業を継承した。ところが、継承と同時に、大きな売上げを占める顧客2社を立て続けに失い存亡の危機に立たされた。それ以降、地道に営業開拓していくことが1番だと考え現在に至っているが、成熟した業界においては、もはやそれだけでは通用しない。Nカレッジに入学した目的は「経営者として何が分かっていないかを あぶり出す」である。その中で、「経営戦略とは何か」という授業で自社を考えたときに、今まで自分が目の前の課題にしか対処していないことに気づいた。そこで、今回は「当社の現状把握と中長期的経営戦略」を研究テーマに選んだ。

 

 

2.  <当社の企業概要と経営理念>

 

2.1 企業概要

当社は小坂宗利がビルメンテナンス業を創業し、以来今年で38年を迎える。平成2年までは、地元の大型スーパーマーケットチェーンなどが主な顧客であったが、それ以降は顧客のウェイトを分散化し、商品の内容も「建築引き渡し清掃」「大型施設の営業中清掃」「アパート・マンションの共用部清掃」「官公庁物件の清掃」「リゾートホテルの客室清掃」「大型空調設備の点検」を追加した。2000年頃から無借金経営となり、経営の内容が大きく改善した。

 

 

現在約80名の従業員の大半は現場直行・直帰するパートタイマーが占めている。1日2時間の就業者もいるので、実質的には当社は35人規模の会社と認識している。現場は本社にて一括管理しているので、パートタイマーの人数が増えると、途端に本社が忙しくなってしまうという側面を持つ。この点は、将来現場で管理できるよう改善しなくてはならない。

 

2.2 当社の経営ビジョン

(当社のあるべき姿)

・「社会にとって必要とされる会社」

・「人から信頼される会社」

・「地域から愛される会社」

 

この経営ビジョンは2018年1月スタッフを交えて制定されたものである。以前のものに比べ多くの人によって議論されたものであり、「自分たち自身のものと感じる」と社内では評判が良い。

 

2.3 過去10年間の売上げと利益の推移

下の棒グラフは売上高と税引き前純利益、折れ線グラフはパートタイマーを含む従業員人数を示している。

 

図1

 

2013年から3年連続で、比較的売上金額の大きな物件が契約できたため、増収となっている。また 従業員数は、折れ線グラフに示されるように売上げに対して正比例して増加している。なお、今年度の売上目標は1.8億円であり、目標に向け営業努力している。

 

2.4 当社従業員の年齢構成

当社の従業員の年齢構成をグラフであらわしてた。

 

図5

今まで感覚的に理解していたつもりだったが、こうしてグラフ化すると高齢の従業員が多く、彼らに業務の多くを支えてもらっているのだと実感するのと同時に、年齢が上がることで働けなくなることを予想して、従業員の補充を考えなくてはならない。

 

 

3. <ビル管理業界の概要と当社>

 

3.1 ビルメンテナンスとは

建物管理業の構造

ビル管理業は、建物のオーナーあるいは経営者から業務を委託され、建物の管理業務を行う。大型の物件になると直接業務を行わない管理会社がビルメンテナンスや建物点検・修理等を請け負う会社を統括することになる。

 

図2.

 

ビルメンテナンスは①清掃・衛生②設備管理③警備保守が主な仕事となる。しかし、建物のオーナーあるいは経営者との関係が強い場合、建物全ての業務を任されることもある。

 

3.2 業界の特徴(他業界と比べた場合)

ビルメンテナンス業は以下の特徴を持つ事業とされている。

 

3.3 日本のビルメンテナンス業

①ストック型・・・構築した仕組みにより、継続的に売り上げを得られる事業 (例 ビルオーナーと定期契約する仕事など) 5に営業品目を記述

②プロダクトベース型・・・顧客への提供価値がルーティーンで生み出され、提供される事業 (例 毎日行う 日常清掃など)

③労働集約型・・・事業活動における労働力への依存度が高く、人件費が多額となる事業(例 定期清掃など)

 

3.3 日本のビルメンテナンス業

ビルメンテナンス業自体はそれほど古い業種ではなく、戦後GHQが占領下で接収した日本のビルを組織的に清掃させたのが始まりといわれている。当社の創業者も1960年代サラリーマンで企業の総務課に在籍していたが、あるときに「建物の清掃を請け負うが検討してほしい、という業者が来たが、世の中には ずいぶん変わった人がいるものだ、と思った。」と言っていた。その時は、まさか自分たちがその変わった人の仲間入りをするとは思っていなかっただろうが、それくらい当時は、建物は自分たちで清掃するのが当たり前であり、また清掃に求める美観や品質はそれほど高くなかったのである。

 

図3

出所:全国ビルメンテナンス協会【実態調査報告データ】

 

図3は日本のビルメンテナンス業の売上げと2010年を100とした時のビル管理費の推移をあらわしている。売上げは1998年頃から頭打ちとなり、2006年ころから再びゆるやかに上昇をはじめたが、市場は成熟期に入っていると考えられる。また市場規模は、現在約3.6兆円である。ビル管理業界は中小企業が多い構造をしており(2013年時点で事業所数22,099社 従業員数1,065,695人) 売上高100億円以上の企業は数十社にとどまる。

 

3.4 ビルメンテナンス企業の抱える問題

図4

出所:全国ビルメンテナンス協会【実態調査報告データ】

 

図4は、ビルメンテナンス協会が企業にアンケートを取り社内で抱える主な問題をまとめ、その推移を示した。近年の人手不足は顕著である。それと反比例して収益率が低下している。

 

 

4. <問い>

これまで当社を取り巻く市場の環境を述べてきた。成熟して、しかも競争相手の多い業界のなかで、当社はどのような中長期的戦略を取っていくべきか、そして優良な競合企業の戦略的な特徴は何か、それに対して当社はどのようなイノベーションを行っていくべきかなど各種フレームワークを使用して考察する。

 

 

5. <研究と考察>

 

5.1 当社の事業ドメインに対する考察

当社の事業領域が顧客に対してどのような価値があるのか考察する。

次に顧客との関係と競合各社について分析する

 

表2.3から分かることは

①建物が賃貸等により収益を生む場合、入居率やリピート率につながる清潔さが求められる。

②ビルメンテナンスにより建物としての機能や効率が上がるという価値を当社で伝えていない。

③顧客は、トラブル時は困っており、すぐにでも対応してほしいと思っている。

④当社の業務が顧客のニーズやウォンツの延長線上にあるかが、ポイントである。

⑤ビルオーナーが当社と良いパートナーシップを築くことによって、オーナーに対してもメリットがあると考えられる。

⑥作業のスピードアップをはかるために、早急に対策をとらなくてはいけない。

⑦インターネットを利用して広域に営業する同業者が増えている。

 

5.2 ビルメンテナンス業を取り巻く社会情勢の考察

下記のPEST分析を用いて社会情勢と我々を取り巻く環境について考察する。

表4の分析により、当社を取り巻くさまざまな環境から現状を把握することが、可能となった。

 

①洗剤や剥離したワックスの廃液の規制はまだ弱い。政府や自治体あるいは発注者が本気で規制に乗り出す日は近いと考える。廃液の処理には莫大な費用がかかるため、処理をすることを前提に発注者と費用負担について契約前に話し合うことが必要である。

②当社はもともと高齢者や女性従業員が多い。他業界も含め人手不足により彼らの争奪戦になっている。反面、AI化の加速後やオリンピック景気後余剰人員が発生する可能性もある。そのような状況下で、外国人従業員の活躍の場はさらに広がるはずである。

③今まで以上にインターネットが企業の窓口となっていく。会社のWEBサイトを顧客や求職者は閲覧するであろうし、求人サイトの利用や、さらには仕事の受注など枚挙にいとまがない。

④市場は成熟しているといえ需要は微増している業界である。しかし、契約改定時の金額は下がる傾向である。

⑤企業・官公庁ともに、所有する不動産について、その本業でない建物管理業務を外注化する傾向は今後も強くなると考えられる。

⑥建築設計事務所や建物オーナーと建物を竣工するときに話合いを持つことが出来たら、もっと効率のよい ビル管理やビルメンテナンスができるはずである。

 

5.3 ファイブフォース分析による業界の脅威について

ビルメンテナンス業界をファイブフォース分析して競争を激化させる構造要因について考察する。

(表5) 

それぞれの脅威に対する対策を講じる

①新規参入者の脅威(大)

新規参入者が不慣れなうちに安定した高い品質のサービスを提供する。いち早く情報を仕入れ、協力業者としての立場を確立する。また、指定管理業務(官公庁の建物管理)を当社でできないかを検討する。

②売り手(供給者)の交渉力(小)

より安価な仕入先を開拓し、一定の金額以上は相見積りをとる。金額の高い機械、定番で仕入れる資材については、根気よく価格交渉する。

③買い手(顧客)の交渉力(中)

競合の情報を早く仕入れ有利な商談をする。担当者と腹を割って話せる人間関係を構築する。人件費や燃料代の仕入の値上げが、サービスの金額に影響していることを論理的に説明する。必要があれば、値上げも検討してもらう。

④代替品・サービス(小)

ロボットの導入に向け研究する。外国人研修生の雇用を検討する。

⑤業界内の脅威(大)

従業員が時間も含めコスト意識を持って、仕事ができる仕組みをつくる。現在、在籍中の従業員を大切に育てるために、働きやすい環境や、よい人間関係がつくれるよう工夫する。得意な定期清掃に集中するために、売上下位の業務はやめる方向で検討する。

 

5.4 SWOT分析による当社の現状の問題とその対策

長野県を市場とし、SWOT分析により現状の問題をあぶりだし、同時に対策も考える(表6)

表6の分析により、現在当社には3つの課題があることが浮き彫りになった。①まず、ヒトの問題である、仕事の受注機会はあるのだが、それを受注し、顧客として管理ができる従業員の育成が追い付いていない。この点は十分に時間をかけ、従業員を教育していく。②次に営業力についてであるが、今は私あるいは常務のマンパワーによるものになっていることである。ライバルをみると優れた企業は組織的な営業力が強い、ただし人間の元来持っている才能というよりも、優れたシステムの力であると推察する。その点、当社も営業のためにあらゆる資源を使っていく。③最後に、長く延びがちな労働時間を工夫して作業効率を上げる。それによって、休日の確保ができれば、労働生産性は上がり、同時に労働環境はもっと良くなるはずだ。このことは、社長や常務だけでなく、社員と問題の共有をして改善していく。

 

5.5 当社の営業品目からの戦略の考察

①定期清掃(契約により 顧客の休館日や営業時間外におこなわれる清掃)

主に商業施設の建物の主要部分を清掃する。ガラス清掃から床洗浄まで対象は幅広い、最近の建物の床は用途によって、セラミック床という新設のコンビニエンスストアなどにみられるものやグラニット床という病院で広まりつつあるノーワックス床が増えてきているが、全体からするとまだ少数である。当社の顧客の建物は、ロビーであれば御影石や磁器タイルの床、内部はワックスで床を仕上げるタイプの床が多くこれらの床は油断しているとすぐに汚れてしまうので、当社の現場責任者の判断力が大切と考える。市場が大きく競争も激しいが、品質とあわせて顧客の声を吸い上げることが肝要である。

 

また、カーペットクリーニングは、企業によってやり方がさまざまである。当社の創業時からの営業品目であり、従業員もカーペットの「しみ抜き」や「目立て」など必要に応じてこだわりをもって作業を行っている。ただし、こだわりが金額に反映される割合が低く、この点はきちんとカーペットの手入れをすることによって床材が長寿命化するというコストメリットを十分顧客に伝えなくてはならない。

 

②日常清掃(営業時間中清掃)

営業時間外に行われるのが、①の「定期清掃」に対し、同じ建物の営業時間中はパートタイマーによる「日常清掃」となる。顧客や建物の利用者と接する機会が多いため、マナー教育を一層強化しなくてはならない。また、自宅から本社へ寄らず現場へ直行・直帰するスタイルなので、当社への求心力を落とさないために、現場へまめに通いお互いにコミュニケーションを取る。幸い他社から転職してきたパートタイマーによると、当社のフォローは良好である、との評価を得ている。

 

③建築引渡し清掃(建築会社の工事の中で最終工程となる)

ビルや住宅が施主に引き渡される直前に得意先の建設会社から単発で受注するもので、年間の売上目標が立てにくい。新築建物の建築棟数によって売り上げが大きく変動する。現場の工程が、前工程の遅れにほんろうされ従業員の休日を奪うことが時折、見受けられるため、一時は撤退も考えたが、新築の建材を新築の品質でクリーニングする技術は他のクリーニングの基礎的な教育にも役立つと考え引き続き取り組んでいる。

 

④共同住宅清掃

不動産会社あるいはマンション管理組合からの注文で入居者の住居部分以外の清掃をする、蛍光灯の交換から清掃そして植栽の管理まで作業は多岐にわたる。物件数はなかなか増えないが毎月一定の収益はある。

 

⑤寝具乾燥

「寝具乾燥」という一般に馴染のない業務は、宿泊施設から依頼を受け、移動式の寝具乾燥車で施設のふとん乾燥をするというもので、対象はホテル、旅館、会社の福利厚生施設などである。業種としては、ビルメンテナンス範囲外の業務であるが、当社の創業時からの営業品目である。大変ニッチな市場であり、季節変動の大きい商品でもある。当社としては、この先どこまで需要を掘り起こせるかがカギとなる。

 

5.6 当社営業品目別にみた現状と課題  (図6)

 

 

6. <研究と考察から得た当社の経営戦略>

今後もビルメンテナンス市場は微成長するが契約金額は下がると考える。また人件費は上昇し続けるだろう。また、大手企業による市場への介入などはますます強くなっていくと思われる。その様な中で顧客に選ばれ続け、発展し続ける企業であるために以下の戦略で勝ち残っていく。

 

中長期の経営戦略

当社が得意としている、寝具乾燥を集中的に営業する。また、その延長でビルメンテナンスあるいは将来建物管理の受注をめざす。

 

人材について

①正社員の中で現場管理者を育成する。

②高齢に伴った離職を想定して、あらかじめパートタイマーの補充を考えておく。

③正社員とパートタイマー別に年間スケジュールをもとに教育を実施する。

④達成可能な目標設定を共有し、成長欲求をうながす。

⑤あらゆる情報源から人材を募集する。インターネットを活用する。

⑥従業員のマナーアップをさらに向上させる。

⑦当社は、「顧客の財産」である建物を美しく保全し価値を高めて、さらに顧客のビジネスの効率を上げ、快適な空間を作り出すパートナーとして存在するという意識を全従業員が持つ。

 

労働環境について

①女性がもっと働きやすい職場をつくる。

②計画性を持ち時間の余裕をもって業務に当たることができるようにする。

③個人面談を計画的に行う。相談ができるよう先輩・同僚とのパイプを太くする工夫をする。

④仕事の効率を上げることにより休日をふやす、理解しやすい仕事手順やマニュアルの整備をして魅力ある職場をつくる。

 

技術について

①労働生産性を上げるための工夫を総力あげて行う。

②正社員の作業方法の確認、マニュアル通りやっているか、あるいはマニュアル自体が実践的なものかどうかを見直す。

③技術の伝承の方法について、文面だけでなく積極的に動画も利用する。

④寝具乾燥とリゾートホテルの客室清掃の特徴を生かした新サービスについて、市場ニーズがあるのか調査する。

 

顧客開拓について

①当社の得意とする寝具乾燥で新規販路を開拓する。

②当社のビルメンテナンスにより建物としての機能や効率が上がるという価値を十分伝える。

③当社の業務が顧客のニーズを満たせるか意識して実行する。

④Webサイトの整備に注力する。顧客の目に留まるよう工夫する。

 

 

7. <監査方法>

上記6の考察で得た戦略をもとに中期経営計画書と本年度経営計画書を策定し、月次の具体的な行動に落とし込む。またその結果を検証する。

 

 

8. <まとめ>

今回縁があり、F&MマネジメントスクールのNカレッジで学ぶこと、そして真剣に学ぶ仲間を得ることができた。冒頭で述べたように、Nカレッジに入学した目的は「経営者として何が分かっていないかを あぶり出す。」ことであった。そして一定の成果を得て満足している。しかし、新しい課題が出るたび、未だに経営者としての力不足を痛感する。将来を考えた場合に、自分が経営者として精進し続けることや、人間性豊かな人物になること以外に当社の発展の道はないと考える。

 

この論文を執筆することで、業界における当社を俯瞰することができた。また、各種フレームワークを用いての客観性の高い分析は、当社の将来の方向性に確信を持つことができた。そして、今回のテーマである「当社の現状把握と中長期戦略」を考察する目的を達成することができた。

 

最後に、たいへんお世話になったスクールの校長、ともに学んだ仲間たち、F&Mスタッフの皆様そして何よりスクールに気持ちよく送り出してくれた当社の従業員に感謝を申し上げたい。

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