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修了生論文

自社の事業分析と経営戦略(医療介護事業)

福岡校 (F-college) 笠木 英明ITヘルスケア株式会社 チーフコーディネーター)

1.動機

 

当社は大手IT機器保守会社(以下A社)の協力会社として2009年に設立したまだ若い会社である。当社の主たる事業はIT機器の保守と電気工事であり、47名の社員のおよそ6割の社員がA社の派遣社員として従事している。従って売り上げの大半はIT機器の保守と電気工事であるが、A社の事業状況によって、当社への発注規模が変動する状況が散見されるようになってきた。

当社では、IT機器の保守・電気工事事業とは別に医療介護事業として2名の社員が活動しており、今後、医療介護事業で安定的な売り上げを確保するため、現在の医療介護事業の主な3事業について分析し、その結果から注力すべき事業を見極め、医療介護事業を今後当社経営の柱のひとつとして成長させたいと考える。

 

 

2.企業概要

 

会社名:ITヘルスケア株式会社

所在地:福岡県福岡市博多区榎田2-3-27 STS第二ビル2F

資本金:1,000万円

設 立:2009年

業 種:電気工事業、電気通信工事・保守事業、医療介護事業者コンサルティング事業

売上高:32,700万円(2017年度)

従業員数:47名(2018年3月時点)

(上記のうち、医療介護事業に係わる従業員は2018年3月時点で2名。)

 

 

3. 福岡市の高齢化現状と当社の医療介護事業状況

 

図1で示す通り、福岡市では平成7年以降、高齢者の数が増加しており、高齢化率も右肩上がりで上昇し続けている。平成29年3月末時点で福岡市の総人口に占める65歳以上の高齢者割合は、20.9%(福岡市ホームページより)となり、5人に一人が後期高齢者である。

また高齢者夫婦のみ、あるいは高齢者単身の世帯数も年々増加傾向にある。このような状況から、高齢者夫婦世帯、高齢者単身世帯の住み替え(広く不便な自宅を引き払い、住みやすい地域の賃貸物件を借りる)による高齢者向け住宅の需要は今後増えていくと考えられている。高齢者が健康で自立した生活を送ることが理想的な社会であるが、当社の事業では、高齢者が健康なうちから安心して暮らせる転居先を紹介し、自立した生活を営めない状態となった際は、当社と連携している介護施設や病院を紹介できるため、先々の介護と医療の一括した対応を高齢者に提供する事が可能となっている。

 

 

図1 福岡市の高齢者数及び高齢化率の推移(福岡市ホームページより)

 

 

4.自社分析

 

4-1.ファイブフォースモデルによる業界分析

ファイブフォースモデルを使い医療介護業界の脅威について分析をおこなった。

 

 

業界内の脅威

  • 医療従事者、介護職員の人手不足
  • 異業種からの参入

 

新規参入者

  • 電力会社、ガス会社、鉄道会社などによる介護付き高齢者向け住宅事業への参入
  • 警備会社による見守り事業への参入
  • 日本郵政による見守り事業への参入
  • 大手不動産仲介業による高齢者向け賃貸事業への参入

 

代替品・サービス

  • 外国人労働者の雇用
  • センサー、対話式ロボットなどIT機器活用による見守り

 

売り手の交渉力

  • 人材紹介所による紹介手数料の高騰
  • 賃金の比較(人材の売り手市場化)

 

買い手の交渉力

  • 医療・介護施設の二極化
  • 高級シニア向け賃貸・分譲物件の増加

 

ファイブフォースモデルの業界分析からわかる通り、業界内の脅威としてすでに多くの異業種が高齢者の見守り事業などに参入しており、当社の事業規模では同じ土俵、同じサービスで戦うことが厳しいことは明らかである。

買い手側も設備の整った施設を選べる者と介護保険の範疇で選択できる者に二極化が進んでおり、大手と競合し難い後者に絞った戦略を進める必要がある。

そこで今後どこに注力し、かつ、独自のサービスで利益を産むためにはどうすべきか、当社の医療介護系3事業についてそれぞれ分析を行う。

 

4-2.介護事業者向けコンサルティング業務の状況

当社設立2年目より、担当者1名で介護事業者向けコンサルティング業務を行っており、社会福祉法人の繋がりから他の社会福祉法人をご紹介頂くかたちで、現在4件の社会福祉法人との間でコンサルティング契約を結んでいる。また、その繋がりから、関係する医療法人をご紹介頂き、現在福岡市内の社会医療法人、北九州市内の医療法人との間でコンサルティング契約を結んでいる。

主に北九州地域が活動の中心であり、現在契約頂いている社会福祉法人からの紹介による契約が主となっており、北九州地域以外など他の新規契約が取れていない状況にある。

またコンサルティング業務を行う要員が2名(2016年より2名体制)で対応しているため、契約法人の数を増やす事も難しくなってきており、今後コンサルティング業務を拡大するためにはどのように進めて行くか判断が必要となっている。

 

4-3.医療機器販売業務の状況

IT機器の保守事業で当社が提携しているA社が取り扱う商品について、当社が出入りしている一般法人、学校法人、社会福祉法人、医療法人への紹介ならびに販売を行っている。その中で医療機器については医療法人に対するA社の販売網が弱く、以前から医療法人とのお付き合いが深い当社を通じて医療機器の紹介ならびに販売を行ってきた経緯がある。

医療機器の中でも、高齢者など慢性期病棟で長期入院している患者の使用済みオムツを密閉する装置(エコムシュウ)の保守を当社社員が対応しており、当社が紹介ならびに販売を行っている。使用済みオムツをフィルムで密閉することで臭いと雑菌を封じ込め、外部に漏れないため、現場職員の評判は非常に良いが、販売価格が高額(定価498,000円税抜き)な点もあり、購入に至らない場合が多くあった。そのためエコムシュウなどの医療機器とそれに不随する消耗品の販売数は現時点で大きく伸びておらず、当社にとって利益率が低い代理店販売形式をこのまま継続すべきか判断が必要となっている。

 

・エコムシュウ自動機

 

 

4-4.高齢者向け住宅紹介事業の状況

当社とお付き合いのある医療法人の理事長がお持ちのアイデアを具体化するお手伝いをさせて頂いており、理事長御自身が日頃から危惧されている高齢者や退院患者が抱えている住宅問題について、理事長所有の物件や借り手の付かない賃貸物件、空き家など、保証人不要の高齢者向け賃貸住宅として紹介する事業を行っている。すでに超高齢化社会となった日本において、福岡県は全国的に若年層が増加している数少ない自治体であるが、前述のとおり高齢者の増加は着実に進んでおり、高齢者や退院患者など、住宅確保が必要な対象者への一時的、または恒久的な住居の需要は増加することが考えられる。

当社と不動産管理会社、介護福祉事業者が連携して事業を進めているが、ホームページやSNS、介護事業所へのダイレクトメールによるチラシ配布などの宣伝活動では広く認知されておらず今後事業をどのように広めていくか判断が必要となっている。

・物件紹介サイト ようじょうらいふ https://www.youjyoulife.com/

 

 

 

5.SWOT分析

 

医療介護事業についてSWOTでそれぞれの強み・弱みを分析する。

 

5-1.介護事業者向けコンサルティング業務

 

プラス要因

マイナス要因

内部環境 【強み】

a.人脈、信頼関係が強い

b.対応エリアが小さく地域密着型

c.顧客の些細な要望に対応できる

【弱み】

a.要員2名で対応

b.紹介以外の新規契約がない

c.他社との比較検討

外部環境 【機会】

a.介護人材の不足から職員募集代行、広告など多種の依頼を受ける

【脅威】

a.介護事業者向けコンサルの同業が多い

b.診療報酬改定により2年毎に労務管理などに変更が発生する

 

5-2.医療機器販売業務

 

プラス要因 マイナス要因
内部環境 【強み】

a.人脈、信頼関係が強い

b.対応エリアが小さく地域密着型

c.顧客の些細な要望に対応できる

【弱み】

a.要員2名で対応

b.紹介以外の新規契約がない

c.他社との比較検討

外部環境 【機会】

a.介護人材の不足から職員募集代行、広告など多種の依頼を受ける

【脅威】

a.介護事業者向けコンサルの同業が多い

b.診療報酬改定により2年毎に労務管理などに変更が発生する

 

5-3.高齢者向け住宅紹介事業

 

プラス要因 マイナス要因
 

 

内部環境

【強み】

a.理事所有物件を無償で利用することができる

b.不動産管理会社、介護施設運営法人と連携している

c.福岡市医師会との連携により医療のケアが受けられる

d.大手が扱わない安価な物件を多く取り扱っている

【弱み】

a.紹介物件に地域のかたよりがある

b.高齢生活困窮者が多く家賃回収方法が直接徴収などに限られる

c.見守りのためIT機材、部屋の備品管理などに維持費用が掛かる

d.ホームページ、SNSの活用だけでは高齢者に対する宣伝効果が低い

 

外部環境

【機会】

a.高齢者の入居を受け入れる管理会社が少ない

b.少子高齢化で入居需要が高まる

c.福岡市社会福祉協議会の協力店として登録されており相談者の紹介を受けられる

【脅威】

a.異業種大手の新規参入が多い

b.大手不動産仲介の高齢者向け賃貸紹介サイト増加

c.退院患者が賃貸へ入居する際の引越しが困難

d.転居の際に自宅荷物の処分が必要

 

 

6.SWOT分析に対する対応策

 

6-1.介護事業者向けコンサルティング業務

 

【強み】

  • 対応要員がこれまでに培った人脈と信頼関係から顧客の契約を得ており、次の案件紹に繋げられる。
  • 対応エリアを絞れていることで小回りの利いた対応が可能になっている。

 

【弱み】

  • 要員2名(2年前より2名体制)で対応しているため、今後契約件数を増やしていくことが難しい。
  • 既存契約者からの紹介以外での新規契約がない。
  • 他社と比較された際に費用面で対抗することが難しい。

 

【機会】

  • 事業者の宣伝広告などの各種要望に柔軟に対応することが可能。

 

【脅威】

  • 中小規模の介護事業者対応が中心であり、大規模顧客への対応が難しい。

 

6-2.医療機器販売業務

 

【強み】

  • これまで医療機関との取引が多く、医療機器の紹介先が多く持つ。
  • 当社社員が保守対応をおこなっており一時対応が可能。

 

【弱み】

  • メーカーから直接購入ができず、間に大手保守会社が入るため当社の利益が小さい。
  • 無償デモを実施したうえで導入の検討をしてもらっているが、導入に繋がっていない。

 

【機会】

  • デモで実際に使用した現場職員からの評価が非常に高い。
  • フィルムでオムツをパックする同種の機種が他になく、オンリーワンである。

 

【脅威】

  • メーカーが販売代理店競合を禁止しており、独自で販売先を選べない。

 

6-3.高齢者向け住宅紹介事業

 

【強み】

  • 理事の所有物件のため、紹介する賃貸物件を当社が負担することなく確保できる。
  • 不動産管理業者、介護施設運営法人、医療法人と連携しているため、当社による住宅の紹介から介護施設への入所、医療が必要になった場合の病院といった一連の流れが構築出来ている。
  • 大手仲介業者があまり取り扱わない安価な物件を多く取り揃えられる。

 

【弱み】

  • 物件に地域のかたよりがあるため要望に応えられない。
  • 生活困窮の高齢者が多く、家賃の徴収方法が直接徴収などに限定される。
  • 入居者がいない状況が続くと、物件の付加価値としてWi-Fi、センサー、カメラなどのIT機器、部屋の生活備品の維持管理に費用がかかる。
  • ホームページ、SNS、チラシなどの媒体での宣伝方法では高齢者へ浸透しない。

 

【機会】

  • 高齢者の入居を拒む不動産仲介業者が多く、転居が必要な高齢者や子育て家庭などの住宅確保要配慮者へ保証人を必要としない賃貸住宅として使用してもらえる。
  • 高齢者の相談先として行政が設けている窓口(社会福祉協議会)に当社と連携している不動産管理業者が協力店登録されており、相談窓口から直接紹介を受けられる。

 

【脅威】

  • 大手の仲介業者が高齢者向け住宅事業へ参入しており、物件数では対抗できない。
  • 高齢者が転居する際に所持品整理できないなどの理由で引越しが困難。

 

 

7.今後の対応と改善点

 

今回、当社が取り組んでいる医療介護系事業の3つについてSWOT分析を用いて強みと弱みについて分析を行った結果、

6-1.介護事業者向けコンサルティング業務 は、2年前より2名体制としているが、北九州地区は現状1名で対応しており現状維持が限界である。現在の契約件数を増やすためには、さらなる要員の追加が急務であり、現在の契約者からの紹介以外に新規契約を得ることも必要である。社内で検討会を開き、コンサルティング事業拡大のために新規採用も含めた対応要員の確保を今期1Q中に実施する。

6-2.医療機器販売業務 は、医療機器の紹介までは順調に進むものの、購入至らないケースが多くある。現場職員からの評価は毎回非常に高く、ぜひ導入して欲しいという意見を頂くが、購入判断を行う決済責任者へのアフターフォローが出来ていないことが大きいと考える。現場職員がどれほど必要と感じてくれたか、導入することによるメリット、ランニングコストの提示も含め、積極的な継続提案が行えていなかった。また、慢性期病床を持つ病院だけではなく、新生児を扱う産婦人科や総合病院への営業計画策定が急務である。中間会社が間に入ることで当社への仕切り価格が高額になることも一因であり、当社への提供ルートについてメーカー側との交渉が必要である。中間会社を通さず当社と取引することを含め、メーカーと協議の場を設け、交渉実施する。

6-3.高齢者向け住宅紹介事業 は、高齢化が進み、行き場(引っ越し先)を見つけにくい高齢者など住宅確保要配慮者が多くいる現状でありながら、実際の問い合わせや契約件数は伸びていない。当社が入居紹介の対象と考える高齢者、またその家族への宣伝効果上がっていないことが一番の問題であると考える。高齢者の相談窓口として行政機関が設けている福岡市社会福祉協議会の窓口では、いまだに紙資料を使用して過去に紹介した住宅や不動産業者を調べていることがわかった。当社ではホームページ、Facebook、介護事業者へダイレクトメールでチラシ配布するなどして宣伝を行っているが、ネットの活用を主にした宣伝では、実際に情報を必要としている対象者に届きにくいことが解った。

今後は宣伝広告方法についての見直しが必須である。高齢者の相談先となる社会福祉協議会、いきいきセンター(地域包括支援センター)、地域の公民館、集会所など、直接高齢者の目に触れるところでポスター、チラシ配布によるアピールと言ったいわゆるローテクも取り込んで直接高齢者への告知を行う。各病院に設置されている地域連携センターは患者の入退院の相談窓口であり、当社へも度々問い合わせがあるが、これまでは物件の有無を回答するに留まっていた。今後は定期的に打ち合わせの機会を持たせてもらい、ポスターとチラシも活用した告知対策、物件見学会を企画し実行に移す。

 

 

7.最後に

 

およそ半年間に及ぶビジネススクールを受講させて頂き、毎回新鮮な驚きと数々の気づきを得ることができた。経営者ではない自分にとって当初不安もあったが、受講を重ねるにつれ、自分自身が経営的視点で物事を見られるようになったことは非常に大きな収穫であり、また驚きでもあった。それまでは指示に従うだけの社員でしかないと考えて思っていたが、日々の業務の中に、WEBやニュースで乱れ飛ぶ情報の中に、ビジネス成功のヒントが眠っていると気付かされた。

毎回貴重な知識を吸収する修行の場であったと改めて実感することができた。当社の医療介護事業はまだまだ小規模であるが、小規模であるからこそ、スクールで学んだ事を落とし込み実行に移し易く、今後成長できる余地があると考える。今回身に着けた知識を生かし、医療介護事業を拡大、当社の経営の柱として成長させるため邁進していきたい。

以上

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