お問い合わせ・資料請求

3分で経営力をアップさせる
経営メディア
経営者・後継者が読めば
今日から会社を変えられる

業界分析

サンフランシスコの建物施設管理の現状 

N-college 1期生 小坂 悦郎 株式会社パワー・ケー 代表取締役)

1 . <研究動機>

当社が携わっている、「ビルメンテナンス業」がそのビジネスの上位に位置するファシリティーマネージメント(以下FMと表記)から影響を受け始めている。その点についてFMの分野で世界をリードしているアメリカの市場を研究することによって、我々ビルメンテナンスの市場でこれから起こりうることを予測したい。そして環境基準の厳しいカリフォルニア州の都市で、「環境」という観点からFMによって、どのようなコスト削減とオフィスの効率化が図られているかについて、ちょうど追い風となっているオフィスのIT化を含めて考察していきたい。

 

2.<背景、事前調査結果>

a. FMとは何か

ファシリティーとは「施設とその環境」であり、FMとは企業・団体など人々の働く「場」を経営資源の一つと捉え、活性化し、経営に貢献させる管理手法である。FMの定義は、「社会の変化と新しい企業環境に対応して、経営的視点に立って建築等の施設を有効・適切に計画・整備・運営・管理し、ダイナミックな企業活動の展開に貢献する全体的な取り組み」としている。(JFMA*1による) そしてFMの最終目的は、クライアントの保有不動産を最適な状態(コスト最小、効果最大)で保有・運営・維持することである。

 

b. FMの特徴

建物の維持について当初は清掃、補修、警備といった施設の維持保全が中心であったが、アメリカで1970年代FMという建物の戦略的な経営手法の概念が生まれた。これは米国の景気が低迷するなかファシリティを有効活用しようと研究所が設立されたのがきっかけであった。日本でも1987年JFMA*1の誕生とともに紹介されるようになった。しかし企業や自治体が積極的に取り組むようになったのは近年のことである。国際規格としては2018年4月にISO 41001が発行された。ビルメンテナンスなどの伝統的施設管理とFMを比較すると以下の違いがあるので列挙する。

 

①土地や建物、設備に加えFMでは執務空間や生活空間といった環境もファシリティと定義づけ、管理の対象とする。

②従来のビルメンテナンスは維持保全を目的としている。維持保全は、新築当時の状態を保つことを目的に、問題発生の施設を対象に管理を行う。したがって、例えば照明の蛍光灯が切れたらすぐに交換するといった管理方法である。それに対してFMはファシリティの最適化を目的に、企画・設計から廃棄までに必要となるライフサイクルコストや将来を見据えた管理を行う。蛍光灯の例ならばその場所に本来照明が必要か、部屋の契約更改は迫っていないか、というように必要性や合理性を考慮してから、すぐに交換する必要性の有無を判断する。

③従来のビルメンテナンスでは、施設ごとに管理者を配置して任せきりにすることが多く、企業が現状を把握できていないというケースもあった。FMの場合は、企業が所有するファシリティすべての情報を把握しながら投資や修繕などを計画的に行う。さらに、これから取得する新規物件や賃借の計画なども対象に経営環境の変化を先取るようにマネジメントを行うという違いがある。

 

c. 日本と欧米における不動産に対する考え方について

FMの比較をする前に、日本と欧米の不動産に対する考え方の比較をしてみた。日本では建物より土地優位で建物は従属的な立場の考え方である。これは例えば、1300年にわたり繰り返されている伊勢神宮の「式年遷宮」のように由緒ある建物であっても建替えをしていくことにあらわれていると考える。また、都市の開発においても同じ場所で拡大あるいは再開発する日本の手法に対して欧米では新天地を求めるスタイルとなる。さらに、建物についても日本が、古くなったら建替えるのに対して、欧米の考え方はリニューアルやリノベーションにより価値を持続させる考え方である。

 

d. アメリカ型FMと日本型FM

アメリカのFMは3つの要素、つまり「ヒト」「仕事」「ファシリティ」を調整し、ヒトの働く空間としての建物環境を最適化するためのマネジメントと考えている。

一方日本のFMは、PDCAサイクルを回し、施設資産を最適に、かつ改善しながら運営することを目指している。つまりCRE(プロジェクト管理)の概念を含み、敷地を含めた固定資産を戦略的に運営する取組みとしても機能している。

 

図表4

出典:日経テック

 

3. <問い>

サンフランシスコのオフィスや施設はFMによってどのように ①環境問題の取り組み は先進的か ②コスト削減が図られているのか ③効率化が図られているのか ④コストや効率以外に利用者にメリットはあるのか。

 

4. <仮説>

カリフォルニア州は、アメリカで最も環境規制が厳しい州として知られている。建物から排出される排水、あるいはCO2の排出さらに日本でいうグリーン購入にあたる取組みが盛んに行われているのではないか。またアメリカは分業化・専門性が進んでいる国であるから、FMのコスト削減・効率化に関しても進んでいると思われる。コスト・効率以外のメリットについては、現地を見て確認したい。


5. <仮説検証>

実際のFMの実際の運用について、日本とサンフランシスコの比較ができなかったため、その一部である建物の環境性能について私が通うエフアンドエムビジネススクールのある名古屋市とサンフランシスコ市を比較する。

 

・名古屋市人口 : 2,296,000人(2015年)

・サンフランシスコ市人口 : 870,900人(2016年)

 

*「CASBEE名古屋」の説明  名古屋市建築物環境配慮制度(ベースとなるのはCASBEE =建築環境総合性能評価システム 一般財団法人建築環境・省エネルギー機構)の名古屋での運用版である。

 

a. 名古屋市の建物で環境制度を達成しているもの

「CASBEE名古屋」Sランク取得物件(最高ランク)

ユメリア(2010年建築)、名古屋市科学館(2016年リニューアル)、名古屋三井ビルディング新館(2011年建築)

 

*「LEED」の説明  建物と敷地利用についての環境性能評価システム(米国グリーンビルディング協会)

 

b. サンフランシスコの建物で環境性能評価を受けているもの

「LEED」プラチナ認証(最高ランク)

サンフランシスコ市庁舎(1915年建築)、セールスフォースタワー2018年建築、350ミッションストリートビル(2016頃建築)、サンフランシスコミルズビル(1953年頃建築)、ランドマークSFタワー(1927年建築)、680フォルサム(1963年建築後にリニューアル)

 

6. <検証結果>

a.名古屋市の市役所庁舎(1933年建築 重要文化財)に対する環境の取り組み

① 環境問題・コスト削減

・電気・ガス・水道使用量の削減にむけ、照明のLED化等に取り組んでいる。

 

② 利用者目線の改善点

・トイレの洋式化に取り組んでいる。

 

愛知県庁(1938年建築 重要文化財)の取り組み

① 建物の環境に対する取り組み

・各庁舎周りの植栽の整備を定期的に実施

 

② 省エネの取り組み

・エレベーターは毎月1日に各庁舎1台を運休

・西庁舎にソーラパネル及びエコ街灯5基(風力・太陽蓄電池式)を設置

 

③ 建物管理に対するコスト削減

・電力やガスの需給については、入札による契約を実施することによって、価格競争によるコスト削減を図っている。

 

④ コストや効率以外に利用者に対する「以後心地の良さ」などの工夫は

・庁舎内には、休憩コーナーを設けて、パネル展示やパンフレットの配架、県政ビデオの上映を行うなど、来庁者にとっても利用しやすい環境づくりに努めている。

 

フランシスコ市の市庁舎管理に対する環境の取り組み

概要

築100年を超える市庁舎の管理・保存に関して、2015年5月LEEDのプラチナ認証を受けた。これは米国での最古のビルの認証に当たる。この事はエネルギーと水の使用に関する究極の効率化を推進した結果である。

 

詳細

具体的にはEPAからの700,000ドルの資金を活用し、90カ所のトイレを効率の良いものに交換したり、200カ所の水栓を効率の良いものに交換したり、またより水銀の少ない蛍光灯に交換した。そしてその他180の市所有ビルの効率化と合わせ最大年間5,500,000ドルのエネルギーを節約している。

 

図表5

サンフランシスコ市庁舎内部

 

サンフランシスコ市環境規則の目的など

a.建物における環境の消費率

サンフランシスコの建物はエネルギーの54%、電力の80%を消費しCO2の56%を生み出している。これらを減少させることで健康的な内部環境を作ることができる。

 

b.使用する部材、手順を見直すことにより有害物質を減らし公衆安全を増大し、自然環境の保全に貢献する。

 

c.カリフォルニア州のエネルギー委員会は、2030年までに各新規ビルがエネルギー消費の正味ゼロの実現、既存ビルは正味50%の実現するゴールを設定している。

 

d.ビルクリーニング業者に望むこと

利用する溶剤等に関し、認定品を設け、その使用を求めている。

 

図表6

出典:サンフランシスコ市HP

 

7. <検証結果の考察>

日本の不動産に対して「土地重視」であり、建物にコストをかけることを積極的にしてこなかった。反対にサンフランシスコ市は名古屋市比べると人口は38%しかないが、環境性能の高いビルはかなり多い。これは、サンフランシスコ市では、一般に建物オーナー(管理者)にとって性能の高いビルがより有利であるといえる。

 

①環境問題の取り組みは先進的か : 先に述べているように、2030年までに各新規ビル

エネルギー消費の正味ゼロの実現、既存ビルは正味50%の実現するゴールを設定している。このことからビルに関しては先進的といえる。

②コスト削減が図られているのか : 180余の市所有ビルの効率化と合わせ最大年間

5,500,000ドルのエネルギーを節約している。

③コストや効率以外に利用者にメリットはあるのか: 有害物質を減らし公衆安全を増大

し、自然環境を保全するなど、大きく人の環境改善に貢献している。

尚、実際サンフランシスコ市庁舎を訪れたがこの建物は建築後100年経っていて本当に市民が毎日利用しているのかというほど手入れされたものであり、「LEEDプラチナ」認証建物の一部であるが、現状を確認できた。

 

8. <今後の取り組み>

a. 日本と海外のFMを比較した場合、例えば欧米の場合、FMは施設の計画や管理を中心にしたハード主体から、ユーザへのサービスを主体としたものに移行してきているという。今回は、担当者へのインタビューやメール問合せなどで得られた限られた情報ではあるが、その中でも一般的に見て理解しやすい建物の環境性能で建物が評価されていることは、一種のすぐれたサービスといえると考える。

b. サンフランシスコには、清掃資材にも認定品がある。我々日本のビルメンテナンスの業界も、建物周辺の環境を悪化させることのないように配慮する必要がある。環境意識の高まりから、これからの市場は環境性能をさらに求めてくると考える。
c. 今回目立った施設のIT化は見受けられなかった(発見できなかった)が、これから本格的に建物のIT化は進むはずである。

d. 建物性能のすぐれた建物の家賃が高いのか、その関係を今後調べたい。不動産市場でその価値が認められれば、建物オーナーはそのような仕様にしやすいのではないだろうか。そして良好なFMも行われるはずである。

 

9. <結び>

今回、シリコンバレーツアーでサンフランシスコを訪れる機会を原田先生に頂いたことはとても幸運でした。そのような中で、我々の業界を俯瞰することもできました。また、今回の研修旅行の前後、通訳を通じて取材に応じてくれたサンフランシスコ市庁舎職員様、メールで回答いただいた名古屋市役所職員様、愛知県庁職員様、旅行中を通してお世話になった原田先生と20人の仲間そして、留守を守ってくれた当社社員に深く感謝申しあげることで結びとする。

 

解説 *1 日本ファシリティマネジメント協会

参考文献 NTTファシリティズ ビジネスコラム

公式ガイド ファシリティマネジメント FM推進連絡協議会

pagetop