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修了生論文

財務の視点から将来のあるべき姿を描き達成に向けての課題を探る

大阪校 (O-college)アドヴァンス 新山 隆一株式会社角徳コーポレーション 執行役員総務部長)

 

テーマの動機

 

当社において具体的に数値化された、例えば中期経営計画のような計画は存在していない。会社の将来に対しては「良い会社にしたい」、「夢のある会社 面白い会社にしたい」、「社員がやりたいことが自由にできる会社にしたい」といった漠然とした願望をもとに、先ずは目先の増収増益を図るということに専念しているのが実情である。一応売上粗利の予算はあるものの経費予算をはじめ営業利益、経常利益については予算化されておらず、前年の実績を基準に四半期ごとに予測している程度で、経営者や社員で数値化された計画が共有されていない。

そのような状況下で、3月末で十数年当社に勤めていた社員(42歳)が退職することになった。会社として次の世代の営業の中心になる人物と期待をしていた社員であったのでいろいろと慰留に努めたが、残念ながら本人の意思は固く翻意させることはできなかった。今の仕事内容や報酬に対して不満があり、また社内の人間関係においても上手くいっていないなどいろいろな理由があるようだが、端的にいうと「会社の将来に期待が持てなくなった」ということに尽きるようである。

数値化された将来像がない状況で、「会社の将来が不安だ」という思いに対して有効な答えを提示できる訳もなく、社員個々人も会社から将来どのような処遇を受けうるのか見えてこない。今のまま放置すれば“見えない状況“に不安や不満を抱えてさらに退職する社員が現れても不思議ではない。

現在の会社の状況を踏まえ5年後の会社の姿を、いくつかの合理的と思われる仮定を元に数値化して社内での議論を高め、将来の計画を数字で共有するための基礎となる提案を試みることにした。

 

 

当社の概要

 

設立 1993年(平成5年)7月

業種 卸売業(化学品の専門商社)

 

① 具体的な事業内容

1) 競合する国内メーカーが1社、もしくは国内メーカーが存在しないこと。

2) 国内の年間市場規模がおおむね5千トン以内のニッチな市場であること。

という条件に合致した化学品(塗料、インキ、接着剤の原料及び樹脂が中心)をもっぱら海外から輸入して販売している。

主な輸入先はフランス、中国、台湾であるが最近顕在化してきたチャイナリスクをヘッジする目的でタイ、スウェーデン、スロバキア、ドイツ等からも輸入している。

 

②業界の特徴

当社のような特殊な原材料を商う商社の場合

  • 顧客は限定されており飛び込み営業はまず不可能である
  • 採用されるまでには数カ月から数年の時間を要する
  • 一旦採用が決まれば安定して取引が継続される
  • 供給体制さえ整えられれば取引維持の為に特段の営業活動は不要である
  • 販売量は営業活動とは関係なく顧客の先の顧客の需要に左右される
  • 塗料インキメーカーは総じて回収サイトが長い(120~150日)といった特徴がある。

 

③直近の業況

(表①~③を参照)
(非公開)

 

 

当社が直面する経営課題

 

当社が継続的にかつ安定的に成長し続ける為には1)財務内容の改善と2)人員の増強が不可欠であると考えている。

1)財務内容の改善

債務超過は解消されたが純資産は資本金を下回り、自己資本比率は××%にも満たない状況にある。

他の安全性の経営指標にも示される通り財務的に安定性を欠いている。内部留保を増しながら、総資産の圧縮を図り、財務内容を健全化させることが急務である。

2)人員の増強

3月末で退職する社員を除いて社長を含めても営業職が5人で、この何年かで最低の水準にある。(社長も経営専従ではなく、活動の主体は専ら営業である)

しかも社員の高齢化は進んでおり(平均年齢は男性:約48歳、女性:約55歳)、このままでは近い将来事業継続に支障が出ることは避けられない。計画的に若年層の増員を図り、当社の事業拡大のための基礎を築く必要がある。

 

 

研究の手段

 

1)過去2か年の決算書と今期決算見込みを元に5年後までの貸借対照表および損益計算書をシミュレーションする。

2)シミュレーションに際して次のとおり仮定する。

  • 売上は毎年×××百万円増と仮定し、売上総利益率は今期の決算見込みと同等とする。(×××百万円は今期売上見込みの××%に相当する)
  • 役員賞与は支給せず、社員の年間賞与は給与の×月分とする。
  • 自己資本比率を5年後に××%程度になるように当期利益の額を設定する。
  • 過去の決算で創業期を除外すると、××期(平成××年6月期)が最も自己資本比率が高く××%であったことから目標として設定した。(当時は6月決算)
  • できるだけ社員を増やす前提で試算する。

3)その他の要件は上記の仮定と矛盾しない範囲内で適宜想定する。

 

 

研究の経緯と結果

 

経緯

 

先の条件で次表のように将来計画をシミュレーションしてみた。作表のために先の条件に加えて次の仮定(予定)を追加した。

  • 有形固定資産の次年度(26期)以降の減価償却は行わない。減価償却の範囲内で設備の再投資をすることを想定した。(当面新規の大きな設備投資は必要ではなく、減価償却の範囲内での再投資で十分に賄えると考えた)
  • 25期の見込みにおける投資等の勘定の大幅な圧縮は銀行に担保として差入した有価証券と借入の相殺を実施したことによる。
  • 26期の計画における投資等の勘定の大幅な圧縮は仕入先に担保として差入した有価証券の見直しによる。詳細は割愛するが、仕入先との合意はできており、結果として資産の圧縮が見込まれる。
  • 売掛債権、棚卸資産、買掛債務は売上の増加に比例して増加するものとした。
  • 借入債務の増加(増加運転資金)は売上の増加率の1/3の増加として試算した。(資金回収日数を120日で計算した。当社の属する業界の回収サイトは概ね120~150日と長いことを考慮)
  • その他流動資産とその他流動負債はシミュレーションが困難であるが、構成比に占める割合が低いので全体に与える影響も少ないと判断して一定額とした。

 

 

結果(表④~⑦、図①②を参照)

 

一定の人員増強を図りながら、5年後に自己資本比率××%を達成することは十分に可能という結果が得られた。社員の数も段階的ではあるが派遣社員も含めて11名増員のシミュレーションが可能であった。実際に採用する社員の年齢が想定と多少違っていても少なくとも8名程度は増員が可能と考えている。

当社の場合、事業を継続するために財務内容の改善をする必要があると同時に人員の増強も図らねばならないということは議論の余地がない。言い換えれば内部留保を増やす一方で人への投資(経費の増加)をも増やすという、相反する命題を解決するには利益をさらに増やすこと以外に解決の手段は見いだせず、したがって増収を前提とした計画が必要となる。(現状の株主や第3者からの増資を期待することは現実的でないので考慮しないものとする) 例えば売上予算を策定する場合に、「とりあえず前年比10%UPで考えよう」という方法はありがちであったし、粗利までしか数値化されていない状況では、「なぜ10%UPなのか?なぜ8%UPでは駄目なのか?」といった疑問が呈された際に明確な説明ができなかった。

しかしこのシミュレーションレベルの計画があれば明快に説明することができる。

会社がさらなる人員補強を企図する場合や、より早期に自己資本比率××%を達成しようとする場合、営業活動のためにより多くの経費予算を確保したいと考える場合、社員のモチベーションUPの為により多くの賞与を支給したと考える場合には

1)想定以上の売上は可能か

2)想定以上の利益率を確保できるのか

3)想定以上の経費削減は可能か

などを追求する必要がある。しかも「とりあえず増やそう(または減らそう)」といった曖昧なことではなく、「具体的に〇〇%のUPで達成可能」という答えが得られる。

ただし本シミュレーション自体はそのままでは経営計画とはなりえない。何故なら売上が増えることに対する具体的な事業の裏付けが無い。×××百万円/年の増収にどこまで妥当性があるのか。想定以上の売上増は見込めるのか。売上の増加が期待できない場合でも売上総利益率を上げることができれば計画は成り立つがそれが可能なのか。何も無ければ議論は難しいが、本シミュレーションをたたき台として具体的な取り組みを検討することは意味があると考える。シミュレーションする上で設定したいくつかの仮定にどこまで妥当性があるのか。仮定が変わるとシミュレーションの結果はどのように変わるのか。具体的に将来像を見据えながら議論できる。

一連の考え方の流れを視覚的に認識するためにCasual Loop Diagramを作成してみた。(図①)財務的な安定性を欠いている状況では財務改善は早急に取り組むべき課題であるが、事業を安定的に継続拡大していくためには一定の増員(量的改善)と社員のスキルアップ(質的改善)、加えて社員への利益(成功報酬)分配にも意を注いで高いモチベーションを維持していくのも重要となる。増収により増えた利益を内部留保に充てるのか、それとも人的な投資に充てるのかのバランスが重要となる。

さらにバランススコアカードを構築するためのステップとして戦略マップを作成してみた。(図②)まずは学習と成長の視点からみると社員のスキルアップが必須となる。専門知識の習得と語学力の向上は慢性的な人員不足を補うために重要で、スキルアップのための教育等への投資も必要になる。業務プロセスの視点からみると、社員のスキルアップを背景に個々人の能力に依存した営業活動の在り方を組織営業に転換し、同時に計画的に人員の増員を図ることが目標となる。顧客の視点からは人員を増員して組織的に営業活動を行うことにより、顧客サービスの向上と新規顧客、新規商材の獲得をめざす。その結果として財務の視点からみると、売上の拡大を達成して得られた利益の一定額を計画的に内部留保に充当して自己資本の充実を図り(5年後に自己資本比率××%以上)、その他を事業の安定的な成長のための人員への投資に充当するというマップが完成する。

ただし、ここに掲げたCasual Loop Diagramや戦略マップはまだ私案の状況である。社内で議論するためのたたき台として作成してみた次第である。

またここに示された財務内容の改善が主に取引銀行の合意を得られるか否かも議論する必要がある。非公開会社で株主=経営者である当社の場合、上場会社の株主や投資家に相当するのが銀行ということになる。銀行からの資金支援(出資や投資に相当)を十二分に得ようとすれば取引銀行の理解が不可欠である。

 

 

まとめ

 

当社の当面の課題は次のとおりまとめてみた。

1)売上を拡大する(大前提)

2)一定の内部留保を確保しながら人への投資を最大限に行う

3)売上を拡大するために必要な人材を確保する

今当社では各自自分の業務を遂行することに専心し、会社全体の計画を立案することの重要性は理解しているつもりでも、自分の仕事ではないとの認識が横溢していると感じている。私自身も単なる業務担当者の地位に甘んじて、本来期待される経営参謀としての役割を果たせていない。経営者(社長)ただ一人がトップダウンで計画を立案し推進することも方法のひとつだが、当社の今の社長の役割の大半は現場の営業活動の遂行にあり、経営専従には程遠い状況では難しいと考える。少人数で事業を行わざるを得ない当社の現状を考えると、一人一人の役割が大きく経営計画も関係者全員で議論するほうがより良い策定が可能であるし、各人が経営計画の目指すところを十分に理解するとは重要である。

何とか上手く動機づけが出来れば、経営計画を策定する前段階して、SWOT分析や3C分析などのフレームワークを全社で取り組んで、論理的に数値で議論できる会社にしたいと考える。

極端に言えば何ら経営的な手法も用いず、単独で事業活動をしている人間の集合体のような当社で今の業績があるならば、さらに組織的に有効な経営手法を用いての経営が可能であれば今以上の業績をあげることはそんなに難しくはないと考える。とにかく有言実行あるのみである。

以上

 

表①~⑦は非公開

 

図① Casual Loop Diagram

 

 

図② バランススコアカード

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