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マーケティング

シェアリング・エコノミーについて(Airbnbを中心に)

T-college 伊藤 慎株式会社JAM Community Design 代表取締役)

1.シェアリング・エコノミーとは

シェアリング・エコノミーとは、インターネット上のプラットフォーム(アプリ、WEBなど)を介して、個人同士が所有する遊休資産(スキルなど無形資産も含む)を他者と共有・提供するような経済活動であり、以下の特徴がある。

 

1. シェアできるものを有するユーザーと、それを利用したいユーザーで成り立つ

2. P2P(提供者と利用者同等な立場同士)によるやりとりである

3. 取引はインターネット上のプラットフォームで行われる

4. サービスの提供はオンラインの場合もオフラインの場合もある

5. 提供者がプロであるかそうでないかの境目があいまいである

6. Facebookなど実名制SNSと連携することなどによる信用をもとにして成り立っている

 

シェアリング・エコノミーの発想自体は決して新しいものではないが、現在においてのシェアリング・エコノミーには、旧来のそれとは決定的に異なる点がある。一つは「シェアが行われる範囲」であり、もう一つは「自由経済の発想のもとで行われている」ということである。つまり、かつて知り合い同士や仲間内でのみ、各々の資産や技術をもって共有・助け合いを行っていたようなものが、現代では、より広域かつ、見知らぬもの同士がやりとりを行うようになり、さらにこれらの取引について、以前は善意(無償あるいはそれに近しいもの)で行われていたものが、現在では個人間の経済活動として行われている点が大きく異なっている。

 

2.シェアリング・エコノミー普及の背景 

シェアリング・エコノミーが普及した背景には、「技術的背景」と「社会的背景」がある。

 

技術的背景については「インターネットの普及」「スマートフォンの登場」「決済システムの進化」が挙げられる。

インターネットの普及により、不特定多数に向け、個人の情報を発信することが出来るようになり、スマートフォンによって、それらに「いつでもどこでも」リアルタイムでアクセスできるようになった。また、決済システムの進化により、それらの取引決済を個人間で安心でスムーズにやり取りできるようになった。

 

社会的背景については「都市部への人口の集中」「環境問題と資源の有効活動」「働き方の変化」が挙げられる。

国連によれば、2014年時点で全世界人口の54%が都市部に住んでおり、2050年にはその割合が66%にまで高まると予想されている。都市への人口集中の結果、物価が高騰し、住宅や車など価格の高いものについては一人で所有するのではなく、数名でシェアする、もしくは必要な時にだけレンタルをしたいと考える者が増えている。また、20世紀型の大量生産、大量消費により、環境問題や資源の枯渇についての議論がなされるなか、過度な消費を控え、環境に考慮したシェアリングの形態を選択する者も増加している。さらに、調査会社が2014年7月に行った調査によると、アメリカでは労働人口の34%にあたる約5300万人がフリーランスとして働いているという。日本においても2017年時点でフリーランスは1000万人を超えており、会社から給料を貰うだけの収入体系から自身のスキルや遊休資産を収入にしようとする動きが、シェアリング・エコノミーを推進する一端を担っている。

 

シェアリング・エコノミーは上記の技術的背景と社会的背景の結果拡大し、シェアリング・エコノミーの主要業界(宿泊・クラウドファンディング・カーシェアリング/ライドシェアリングなど)の市場規模は2013年時点に世界全体で150億ドルあり、2025年には3350億ドルにまで拡大すると予想されている。

 

3. Airbnbについて

シェアリング・エコノミーを定着させた立役者として、P2P宿泊サービスのAirbnbの存在は欠かせない。2008年、創業者二人がサンフランシスコで、空いているベッド(air bed)を宿泊希望者に貸していたことから派生し、Airbedandbreakfast.comが立ち上がり、その後短縮されAirbnbとなったと言われている。

 

物件の所有者(ホスト)は、空き部屋や空き家をAirbnbに登録し、希望者(ゲスト)に貸し出すことが出来る。Airbnbは、ホストとゲスト間でサービスの提供と決済が行われた時点で、手数料を受け取る。手数料はホストから3%、ゲストから部屋の料金に応じて6-12%を徴収している。ゲストは一般的なホテルよりも割安で宿泊することができ、また、画一的なサービスではなく、朝食付き、ホストのもてなし付きなど、現地の暮らしをより体感できるなどのメリットを享受できる。

 

都市部での地価の上昇や、不動産の不足、またそれに伴うホテル料金の高騰、さらには海外からの旅行者のFIT(個人手配の海外旅行)化などを背景にゲスト側からの人気が高まっている。また、プラットフォームが提供され、ゲスト側のニーズが顕在化されることで、それまで潜在的なニーズを抱えていたホスト側の提供も増え、急拡大しており、現在、世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供している。

 

Airbnbは非上場企業のため、売上などは公表されていないが、米フォーチュン誌によると、2017年の売上高は約28億ドルで、2020年までに売上は約85億ドルまで伸びると予想されており、既存のホテル業界の市場を奪っていくこと、収穫逓増型のビジネスモデルであること、外部ネットワーク性を備えたビジネスモデルであることを考えると、今後ますます収益を伸ばしていくことが予想される。

 

4. シェアリング・エコノミーが引き起こしている問題・課題

上述のように発展を続けているシェアリング・エコノミーであるが、急速な普及に伴い発生している問題点も少なくない。

 

4-1. 法整備・規制の問題

建築基準や営業地域、営業許可、宿泊税などの多くの規制が存在し、世界各所において、Airbnbの宿泊サービスは、ホテルと同様の規制が適用されることが多い。

しかしながら、サンフランシスコでは個人の宿泊施設提供に関し、「14%の短期滞在税を課すこと」「損害賠償保険への加入の義務付け」「貸し出せる期間は1度につき30日未満、かつ一つの物件に対して年間90日まで」という条件付きで合法化されている。その他ロンドンやパリ、アムステルダムなどでも合法化されており、日本においても一部合法化の検討が行われている。

 

4-2. サービスの安全性・クオリティの問題

シェアリング・エコノミーにおいては、個人間のサービスの提供・利用が中心であるため、サービス提供者のクオリティのバラつきが大きく、Airbnbに登録されている宿泊施設おいては衛生面や安全面の問題などが指摘されている。また、提供者だけでなく、利用者においても宿泊施設の備品の破壊や騒音などの問題を引き起こすユーザーも存在する。

これらについては、提供者・利用者の相互評価制度やプラットフォーム運営者による事前審査、facebookのアカウントとの連携により実名制を高めるなどの対策が施されているが、サービスが急拡大している中で、提供者・利用者ともにそれらの信頼性を十分に担保できない問題がある。

 

4-3. 既存業界への影響と反発・外部不経済性

Airbnbに対するホテル業界や旅館からの反発は多い。これらは既存業界に課せられている規制や税などを、シェアリング・エコノミーが免れている不公平感によるところが大きい。

また、個人の家を見知らぬ人に貸し出すことで、治安や騒音の問題が発生し、近隣住人が不利益を被るなどの外部不経済性も指摘されている。

 

シェアリング・エコノミーの台頭により、既存の業界が衰退していくことを同じくシェアリング・エコノミーの旗手であるUberになぞらえて「Uberization(ウーバライゼーション)」と呼ぶようになるなど、その影響力は大きく、既存業界との衝突は避けられないが、資源の活用、働き方の多様化など世界的な流れの中では、長期的にみるとシェアリング・エコノミーが生き残る可能性は高い。

 

5. 実際にシェアリング・エコノミーを体感してみて

5-1. Airbnb

2018年5月28日から29日にかけて、サンフランシスコのAirbnbに宿泊した。

宿泊施設:https://www.san-francisco-hostel.com/

ホステル型の施設(※写真1)で、オーナーはアメリカ人であったが、予約の受付対応はオランダからの宿泊者、当日のフロントはメキシコからの宿泊者であり(※写真2)、いずれもホステルに滞在しながらホステルの運営を手伝う形式であった。Airbnb以前からホステルとして運営されており、集客経路の一つとしてAirbnbを活用しているものと思われる。定期的に宿泊者向けのイベントが開催されており(※写真3)、同室のジャマイカから来た女性宿泊者2人はここに1週間滞在していた。

予約方法は非常にシンプルで、すでに登録してあるfacebookのアカウントと連携することで、1分足らずで登録することが出来た。支払いはクレジットカードで先払いであり、宿泊費用には14%の宿泊税が上乗せされており、Airbnbが決済時に自動的に宿泊者から徴収し、まとめて納付する方法になっていた。

サンフランシスコのほか、アムステルダムやポートランドでのAirbnb利用では同様のスキームが取られている。こういった税制問題については、今後Airbnbがさらに普及していくには避けては通れない問題である。

 

今回滞在したのはホステル型の宿泊施設であったが、自身も住んでいるマンションの一室を貸している部屋、自身は滞在せずにスマートロックを利用して宿泊者の入退室を管理している部屋、集客経路としてホテルが空いている一室を登録しているなど、ユーザーの選択肢は非常に幅広い。

 

また、現在サンフランシスコのアパート、マンションの空室率は5%を切っていると言われており、家賃は急騰している。ヒアリングを行ったサンフランシスコ在住の男性によると、昔は2LDKで1600ドルだった家賃が、ここ10年で4000ドルになったという。こういった背景の中で、空き部屋をAirbnbを活用して貸し出すことで家賃の補填を考える者や、出張や転勤となったときに、部屋を手放さずに一時的に他人に貸し出す者も増えることが考えられる。

 

5-2. Lime

 もう一つ、体験したシェアリング・エコノミーの中で印象深かったのが

「Lime(https://www.limebike.com/)」である。サンフランシスコ市街には、Limeスクーターと呼ばれるシェア電動スクーター(※写真4,5)が歩道においてあり、利用者はアプリを通じて空いている車両を探し、自由に利用し、どこにでも乗り捨てることができる。

 

Limeスクーター利用方法:https://youtu.be/DC8ioZKxOiI

 

観光資源が密集しているサンフランシスコ市街地においては、Limeスクーターでの移動は非常に効率的であり、かつ利用自体にエンターテインメント性があることから、多くの観光客がLimeを探しており、日中は空いている車両を探すのが困難なほどであった。(※写真6)

電動であることから10キロ程度で充電が切れてしまうが、それによりあまり遠くに乗り捨てられることがなく、限定されたエリアに利用者を留めることができ、回収やメンテナンスがしやすくなっている。シェアリング・エコノミーにおいては、こういった地域性も必要であると感じた。

 

しかしながら、2018年6月4日Limeスクーターは、安全問題や法律問題が改善されるまでサンフランシスコ市街から撤去されることとなった。法律上は利用時に運転免許とヘルメットの着用が必要であり、また、利用料が時間制であることから、信号待ちを嫌ったユーザーの危険運転なども問題視されており、またサンフランシスコ市街は道路の舗装がされていないところも多く、転倒しそうになることもあった。

これらの改善がなされ、再びサンフランシスコでLimeスクーターが提供されるかどうか、今後に注目である。

 

5-3. Uber

サンフランシスコではタクシーはほとんど利用せず、専らUberで移動をすることが多かった。タクシーと違って、アプリ上で簡単に呼ぶことができ、また移動前に料金が分かることから安心感があった。また、車も新しく清潔に保たれていることが多く、非常に快適であった。

 

Uberの運転手をしている者には大きく分けて2種類のパターンがあると感じた。一つはUberの運転手とは別に職を持っており、空き時間の副業としてUberの運転手を行っている場合。利用した運転手の中には、普段は観光ガイドをしていて休日なのでUberをしている者もいた。

もう一つは、Uberの運転手をメインのビジネスとして行っている者。彼らはブラジルなどからの移民が多く、英語でのコミュニケーションも取りづらかったが、Uberでは先に目的地がアプリ上に表示されることから、それでも問題なく利用することが出来た。運転自体は丁寧で接客も問題なく特に危険を感じることはなかった。サンフランシスコの家賃や物価が高いことから、移民労働者のビジネスとして今後も拡大していくかは不透明ではあるが、Uberの利便性はタクシーを大きく上回っており、法律面、安全面の対応を行っていきながら、今後も拡大していくと考えられる。

 

参考Uber運転手インタビュー:https://youtu.be/yo5-05ZIIUA

 

6. まとめ

インターネットとスマートフォンの普及などの技術的背景と、資源・環境・人口問題や働き方の価値観などの社会的背景によりシェアリング・エコノミーは急拡大している。規制や既存業界との衝突など、課題も少なくないシェアリング・エコノミーではあるが、Airbnbでのホスト業で生計を立てる者、Uberの運転手をメインビジネスとするものも出てきており、新しい働き方の選択肢として今後も発展していくと考える。

 

ただし、シェアリング・エコノミーをサービス提供者の側面から見てみると、「Airbnbと宿泊管理者」、「Uberとそれに依存する運転手」といった、大きな構図では「企業と従業員」というような主従の関係があるように思える。好きな時間に少額を稼ぐ「マイクロ・アントレプレナー」の選択肢が増える一方で、シェアリング・エコノミーにおいて大きな利益を得るのは、プラットフォームの運営者である。ビジネス側面で考えるとき、企業においては既存シェアリング・エコノミーのサービスのプレイヤーとしてではなく、いかにしてプラットフォーム企業となりえるかという発想が求められる。

 

また、実際にサンフランシスコでシェアリング・エコノミーを体験してみて、「シェア」を広げていく上では、提供者と利用者の倫理面に依存している部分があると感じた。タクシーに対してのUber、ホテルに対してのAirbnbなど、「既存のサービスよりも安く提供できる」といった発想だけでは、既存業界からの反発が大きく、また、Limeバイクが乗り捨てられ、街中に転がっている状態では、拡大する前に規制の対象となってしまう。

 

シェアリング(分け合う)には、前提として心の豊かさが求められる部分があり、シェアリング・エコノミーを今後も発展させていくには、利用者と提供者双方に現在よりも高度な社会性が必要であると感じる。現在においては「実名制のアカウント登録」「クレジット課金」「利用者と提供者の相互評価」などによる信頼の担保によってバランスを保とうとしているが、今後もこの枠組みだけでシェアリング・エコノミーが成立するかは不透明である。

技術的背景、社会的背景に後押しされたシェアリング・エコノミーは今後も拡大していくと考えられるが、AirbnbやUberを始めとした代表企業が、これらの課題にどのように取り組んでいくかは注目である。

 

またシェアリング・エコノミーのキーワードの一つである「遊休資産の活用」については、多くの可能性を感じる。Airbnbの成功の要因として、所有者が今まで認識をしていなかった資産の無駄・余白を、価値として再発掘した部分が大きい。狭義のシェアリング・エコノミーとしては、自社の遊休資産の発掘や価値の向上と、そのマネタイズも今後の経営の重要課題となる。

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