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修了生論文

埋もれていた経営理念を浸透させる

東京校 (T-college) 峯岸 慎 (信和測量株式会社 取締役 多摩支社長)

第1章 研究動機

T-COLLEGEに入学して、経営者に必要な様々な科目を受講し、それぞれの重要性を理解してきた。その中でも経営理念は、会社に携わる従業員の目指す方向性を明確にし、何のために業務をしていくのかを理解することにより、従業員の向上心や一体感が生まれ良い経営につながっていくことを学んだ。入社して20年、測量技術を磨くために様々な現場に携わり経験を積んできたので、測量技術者としてはある程度成長してきたつもりである。しかし、私達の世代が今後会社を引き継いでいく事を考えたとき、会社は何を目標に向かっているのだろうか。何を拠り所としているのだろうか。今まで考えなかった疑問が次々と湧いてきた。そして当社の経営理念はあるのだろうか。創業者や創業以来の社員達の思いを、どのようにして現役社員に引き継ぎ発展させていくべきなのかを考えるようになった。本研究論文で他社の事例を参考にして、経営理念の重要性を再認識し、当社に合った実行可能な経営理念の浸透方法を考えていきたい。

 

 

第2章 当社の経営理念

創業者に、当社の経営理念の確認したところ、「創業から30年間は、特に経営理念は存在しなかった。創立30周年を迎える頃に策定し、当時の課長までの会議では説明している。会社の寿命は30年と言われている事と、バブル崩壊で測量業界にも影響が出てきた時期なので、社員の意識改革・営業力を強化し経営を安定させるために作成した」という事であった。では、どのような内容なのかを確認してみる。

 

(経営理念)

1. 人の和を重視、働きがいのある企業を目指す

2. 技術と、生産管理力の伴った企業形態を目指す

3. 公共性を自覚、誇りを持って社会に貢献できる企業を目指す

 

(基本方針)

1. 会社の経営基盤の安定を図る。

営業力・技術力・生産管理の強化

2. 社内の環境整備を徹底させる。

整理・整頓・清掃・清潔・躾、以上の5Sの徹底

3. 新しい事業の展開

環境・防災等の調査・資源の探査その他開発業務に係る調査まで幅広く展開させる。

4. 成果品の品質向上及び成果のチェック体制の強化

成果品の検査体制充実を図る。成果品の制度を高め、作業工程の短縮を図る。また、クレームが出たら速やかに対応し、顧客の信頼回復を図る。

5. 魅力ある職場環境の整備

能力主義と基調を(能力と年功のバランス)骨格とした給与の形態に移行する。福利厚生の充実・勤務時間の改善を図る。

 

当社の社名である信和測量(株)にも含まれる、「互いに信じ合い、和を大切にする気持ち」を持って業務に取り組んでもらいたいという思いが取り入れられている。経営理念としては、伝わってきていなかったが、上司からの言葉としては継承されているように思う。次章では、従業員にどの程度経営理念が浸透しているのか、社内アンケートを実施して現状を把握していく。

 

 

第3章 当社の現状分析と他社の事例

 

3-1 信和測量(株)の歴史

信和測量(株)は、昭和40年7月に7名で東京都港区西新橋を拠点として創業。その後、創業者の甥が二代目社長となり、現在従業員34名(測量士18名・測量士補6名)今年で52年目になる。測量は、道路や空港・ダムなど、様々な建造物をつくる時の基本図面を作成する仕事で、国や各自治体が発注する公共事業を主体とする企業が多い。当社は創業以来、鉄道の測量を柱としており、鉄道業界の特殊な資格を多数保有している。資格・特定技術等の障壁で、新規参入者も少ないニッチ市場で事業展開している企業である。

 

3-2 当社の現状分析

当社の経営理念について、従業員にアンケートを実施した結果、次のような結果を得た。

年齢 勤続
年数
当社の経営理念
を知っている
内容について
役員A 69 49 知っている 何となく覚えている
役員B 56 32 知っている 覚えていない
役員C 57 32 知っている 覚えていない
役員D 42 20 知らない
管理職A 52 32 知っている 覚えていない
管理職B 51 29 知っている 覚えていない
管理職C 56 21 知らない
管理職D 48 26 知らない
管理職E 44 25 知らない
管理職F 36 14 知らない
管理職G 52 16 知らない
社員A 41 20 知らない
社員B 39 18 知らない
社員C 37 16 知らない
社員D 36 14 知らない
社員E 40 13 知らない
社員F 29 9 知らない
社員G 35 9 知らない
社員H 30 6 知らない
社員I 31 3 知らない
社員J 22 2 知らない
社員K 26 2 知らない
社員L 28 1 知らない
社員M 53 4 知らない
社員N 29 1 知らない
社員O 68 42 知っている 何となく覚えている
社員P 25 0 知らない
嘱託A 69 7 知らない
アルバイトA 52 16 知らない
パートA 48 5 知らない
パートB 51 1 知らない
アルバイトB 25 3 知らない
アルバイトC 25 1 知らない
アルバイトD 29 1 知らない

 

アンケートの結果、当社が経営理念を策定した創業30年頃に入社していた、勤続年数の長い社員は何となく知っているが、その後に入社した社員に対し、経営理念を浸透させる教育などはしていなかった事が分かる。また、知っていると答えた従業員の多くは、聞いたことはあるが理解しているとは言えないとの答えであった。当時の経営者は、経営理念の重要性を理解し作成はしたのだが、全従業員に浸透させる継続的な教育を実施してこなかった為、現在の低い浸透率になっている。では、どのように継続的に教育して行けばよいのか、他社の取り組みについてアンケート調査を実施し、事例に基づいて考察していく。

 

3-3 他社の事例

当社の従業員数が34名、今後実行可能な取り組みであることを前提として、同じような規模の会社を中心として、経営理念の取り組みについてアンケート調査及びインタビューを実施した。測量業界では、中小企業の割合が90%を超えており、専業業者が大半である。その為、当社同様に経営理念浸透に取り組んでいない結果となることが考えられたため、創業年数が長い大手測量会社も対象とした。測量会社24社及び異業種の会社8社に協力を依頼した。

アンケートは、次の内容でおこなった。

①従業員数

②経営理念の有無

③経営理念を浸透される為の活動内容

④従業員の理解度について確認方法

⑤評価方法

 

アンケートでは、経営理念を浸透させる活動内容について調査したが、経営理念と企業の売り上げが相関の関係にあることを学んだので、規模の大きな会社ほど熱心に取り組んでいると考えられる。実際のアンケート結果で、どのような関係なのかも合わせて見ていきたい。

①従業員(人) ②経営理念の有無 ③浸透活動の有無 ④理解度確認の有無 ⑤評価制度の有無
同業A社 2,700 有り 有り 無し 無し
同業B社 1,750 有り 有り 無し 無し
同業C社 360 有り 有り 無し 無し
同業D社 80 有り 有り 無し 無し
同業E社 78 有り 有り 無し 無し
同業F社 100 有り 有り 無し 無し
同業G社 86 有り 有り 無し 無し
同業H社 48 有り 有り 無し 無し
同業I社 98 有り 有り 無し 有り
同業J社 49 有り 有り 無し 無し
同業K社 29 無し 無し 無し 無し
同業L社 28 無し 無し 無し 無し
同業M社 15 無し 無し 無し 無し
同業N社 23 有り 無し 無し 無し
同業O社 11 無し 無し 無し 無し
同業P社 6 無し 無し 無し 無し
同業Q社 8 無し 無し 無し 無し
同業R社 8 無し 無し 無し 無し
同業S社 9 無し 無し 無し 無し
同業T社 5 無し 無し 無し 無し
同業U社 29 無し 無し 無し 無し
同業V社 18 無し 無し 無し 無し
同業X社 16 無し 無し 無し 無し
同業Y社 27 無し 無し 無し 無し
異業種A社 10 無し 無し 無し 無し
異業種B社 150 有り 有り 有り 無し
異業種C社 30 有り 無し 無し 無し
異業種D社 650 有り 有り 無し 無し
異業種E社 120 有り 有り 無し 無し
異業種F社 30 有り 有り 有り 無し
異業種G社 45 有り 有り 無し 無し
異業種H社 5 有り 有り 無し 無し
合計 有り18社

無し14社

有り16社

無し16社

有り3社

無し29社

有り1社

無し31社

 

② 経営理念の有無について

経営理念が無いと答えた会社の意見

・売上確保で精一杯で、経営理念は作っていない。

・経営理念は無いが、目標を掲げている。

 

測量業界で規模の小さな会社は、経営理念を持たない会社が多くみられた。従業員数が増えるにつれて、経営理念を掲げており、やはり売り上げと相関の関係にあると考えられる。

 

③ 経営理念を浸透させる為の活動内容

※取り組み内容に重複あり

 

その他の活動

・各部署で、毎月の活動方針(キーワード)を作って浸透させる。目的は、抽象的な内容の経営理念ではなく、自分たちの分かり易い言葉で考えて実践するため。

・毎月、全従業員に配信するメールに記載している。目標を立てさせているので、必ず返信をもらう事にしており、理念に絡めてくる社員もいる。

・入社研修で、経営理念と心得を教える。

・年に一度、社長より経営理念に基づいた、今期の基本方針・施策について発表される。その後、部・課の方針を発表する。

・毎月曜の朝、社員を5班に分けて当番を決め、社屋の周囲の道路を掃除している。これは地域住民とのコンタクトと社会貢献の体験を意図している。

 

測量業界で規模の小さい会社のほとんどが社長室に掲示してあるだけや、特に教育していないとの回答であった。他業種の会社や測量業界で規模の大きな会社では、朝礼や定例会議など、経営理念を繰り返し従業員に唱和させることにより、従業員に浸透させていく教育が12社と多く見られた。さらに、経営理念や社是・社訓の書かれた冊子やカードを、従業員に配布している会社6社あり、従業員に浸透させることの重要性を理解し実践していると考えられる。

 

④ 従業員の理解度について確認方法

 

経営理念の理解度の確認について

・朝礼で唱和する際の当番を変えることにより、覚えているかを確認している。

・年2回の理解度テストを実施している。

・定期的に社内アンケートをおこなっている。

多くの会社では、理解度についての確認はおこなっていない結果となった。少数ではあるが、定期的なテストやアンケートを実施し、理解度の確認をおこなっている会社もみられた。

 

⑥ 評価方法

・毎月の業務で、際立った活躍や貢献に値する気配り等のあった社員を、課単位に選考し、朝礼にて表彰し金一封を手渡している。またこの結果は、昇給・賞与の一つの評価として反映している。(同業I社)

 

1社だけであるが、経営理念に伴った行動に対する評価を実施している会社があった。

 

3-4 他社の取り組みが当社で可能か

他社でおわれている取り組みが、当社で実行可能なのか当てはめてみる

イ) 朝礼で経営理念の唱和をおこなう。

当社では、顧客の現場毎に開始時間が違うこともあり、現地に集合して業務を開始することが多い為、事務所での朝礼をおこなっていない。各現場責任者による、現場毎の朝礼であれば実施可能である。

 

ロ) 定例会議で経営理念の唱和

全従業員による月2回の工程会議をおこなっており、会議冒頭に唱和の実施は可能である。

 

ハ) 経営理念の記入された冊子・カードを作成し、従業員に配布する。

経営理念の冊子を作成して、配布することは可能である。

 

ニ) 年2回の理解度確認テストを実施する。

定例会議を利用して、年2回実施をすることは可能である。

 

ホ) 社屋の周囲を清掃する。

社屋周辺の清掃は、当社も不定期ではあるが実施しているので、引き続き取り組んでいきたい。

 

各社へのアンケートによって得られた取り組み方法であるが、日々の朝礼や会議で唱和することにより、経営理念を浸透させていくことが重要であること考えられる。さらに、冊子やカードなどを活用して、経営理念に触れる機会を増やし、出来るだけ経営理念について考える時間を作る工夫をしている。また、評価制度を導入している企業もあり、社員の意欲を引き出す工夫もされている。企業の規模が大きくなると、経営理念を掲げるだけではなく、社員に経営理念を浸透させる様々な取り組みがおこなわれていた。次章では、他社の取り組みを参考に、当社として実行可能でより具体的な方法を考察していく。

 

 

第4章 今後の具体的な取り組み

他社の事例を参考に、当社の取り組む内容を考察する

①経営理念に沿った社是・社訓を分かり易い言葉で作成する。

経営理念は、どちらかというと抽象的で社員が理解しづらいと思う。そこで現在ある経営理念に沿った社是・社訓の制作を、現在の役員だけではなく、管理職・一般社員にも意見を求めて制作していく事で、より理解が深まり経営理念が浸透していくと考える。制作する為に、管理職1名・社員1名・支社長の3名で、今期末(6月末)を目標に取りまとめ、社長に提出する。

 

②定例会議で経営理念の唱和

他社の事例でも多くみられた唱和活動であるが、経営理念を浸透させるためには、やはり記憶に擦り込んでいく事が大切である。鉄道敷地内に立ち入る業務の多い当社は、死亡・触車事故(電車に接触する事故)を起こさない為に、安全教育を継続しておこなっている。「何度も聞いて知っているよ」とか「俺たちじゃ事故は起こさないよ」と思っていても、毎年全国のどこかで触車による死亡事故が起こってしまう。仲間から触車事故を出さないためにも徹底している。その中で、指差呼称というものがある。目で見るだけ・声を出すだけ・指差しするだけのそれぞれでは効果は少ないが、3つ同時に行うと、ミスが起きにくいという鉄道業界の活動である。当社には、根付いている取り組みなので、唱和活動に取り入れられるか考えたい。次回の定例会議冒頭に、経営理念を全員で唱和する時間をつくり実施する。

 

③新入社員研修期間に教育時間を作る。

今までの新入社員研修内容は、主にビジネスマナー教育と鉄道敷地内での安全作業についてであった。今後は、経営理念についての教育時間を作り、他社の具体的な事例など取り入れながら、経営理念の重要性を説明していく。新年度の新入社員教育より実施する。

 

④経営理念に沿った行動の共有

従業員が、業務中に経営理念に伴った行動をとった場合に、その内容を報告させて定例会議で発表する。発表する事により、その場にいなかった社員にも考える時間となり、体験を共有する事が出来る。また、月間で理念行動の優れた社員を選考して表彰する。理念に伴った行動を評価に反映させることにより、社員が理念行動についてより深く考えるようになるだろう。

 

⑤社屋周辺の清掃活動

地域社会貢献として、従来の清掃活動は不定期で社屋周辺を実施していたが、今後は定例会議後に全従業員で月2回おこなう事とする。

 

以上の5つの内容を、今後当社が取り組む内容とする。

 

 

第5章 まとめ

当社に経営理念はあるのか。そのような動機から始めた研究であったが、経営理念は存在していた。そして存在した経営理念の内容は、先輩方より日頃から言われていた内容であった。会社の規模が少人数だった時には、そのような方法で会社の考え方を後輩に伝えて行く事が可能であるが、社員数が増えてきた現在では、伝えていく・浸透させていく取り組みが必要だとの考えに至った。もちろん、先輩の体験談などは現実的で分かり易い話なので、定例会議などで伝え続けていく。さらに、会議や日々の朝礼などで、経営理念の唱和を続けることの大切さを、他社の事例をみて明らかであることが分かった。社員一人一人に経営理念が浸透すれば、より多くの社員に仕事を任せ、責任をもって業務を進めてもらう事が可能となる。社員としても、一つ一つの現場を任され、顧客との信頼関係も構築されて、今までとは業務へ対する気持ちの変化が出てくるだろう。ただ指示されて、こなすだけだった仕事が、責任感が生まれ愛着を持つようになり、より良い成果を顧客に提供出来るようになる。また、それぞれの社員が経験した情報を、定例会議で共有していく事により、一体感も生まれてくるだろう。

このような好循環を実現させるためには、経営者が経営理念を浸透させる環境や機会を提供し続けることが重要であり、経営者と従業員の意思疎通が容易な中小企業では、経営者が率先して従業員に語りかけていく事が大切だと思う。

本研究で得られた取り組みを実施していく中で、なかなか浸透していかない状況も想像出来る。安全教育同様に、終わりの無い取り組みだが、まずは続けることを大切に取り組んでいきたい。

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