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修了生論文

経営基盤を作る為の自社分析と経営戦略

東京校 (T-college) 原 栄治 (株式会社エンクルー 代表取締役)

(企業概要)

株式会社エンクルー 代表取締役 原栄治(はら えいじ)

設立:2009年3月

活動拠点:本社(埼玉県さいたま市)、仙台営業所、渋谷サテライトオフィス

従業員数:正社員30名(パート・アルバイト80名)

事業内容:人材サービス業(一般労働者派遣、有料職業紹介、アウトソーシング)

移動体通信事業(ソフトバンク正規代理店)

職業訓練校

イベントスペース貸し出し業

 

 

はじめに

私が28歳の時、2009年3月に株式会社エンクルーを立ち上げた。生まれた時から父が経営する、町の自動車修理工場で育ち、父の姿を見て幼少期から社長という職業に憧れを感じていた。その頃から漠然ではあるが将来は社長になりたいと思っていた。そして、大学3年生になり、父と同じ車関係の職業を希望して就職活動をしていたが、父からは「兄弟で同じ業界をやるのは駄目だ、別の業界にいけ。」と言われる。迷った私は色々な業態の社長の話を聞いて、自分が進むべき道を決めていきたいと考え、人材派遣会社に就職をした。この就職がきっかけとなり、今から8年前、人材派遣会社として株式会社エンクルーを設立する事になる。

 

 

設立時のエンクルー

2009年に俺たちがやれば会社は絶対大きくなると、根拠のない期待だけを胸に、5人でエンクルーをスタートさせた。しかし、そんな期待はすぐに打ち砕かれ、設立して間もなく世間の厳しさを知る事になる。2008年9月に起きたリーマンショックの影響だ。日本でも「派遣切り」と騒がれ始め、エンクルーを設立するきっかけとなった唯一の大口クライアントからさっそく取引終了を宣告される。その後も派遣の仕事の受注はほとんどなく、さっそく倒産という2文字が頭をよぎる。この時、創業メンバー5人で最後に出した決断が全く経験のない移動体通信事業へ参入だった。ソフトバンクの正規代理店として活動をはじめ、その傍ら、もう一つの未知の世界である失業者を対象とした職業訓練校も開校した。今考えてみると、どちらもアンゾフの成長マトリックスでいう、新規市場、新規製品で苦しいときに一番逃げてはいけない分野に手を出していた事になる。しかも2つも同時に。幸いにも日本にiPhoneが上陸し、スマートフォンブームが到来した事、リーマンショックの影響で日本中に失業者が溢れていた事により、この事業が成功を収め、今日という日を迎えることが出来ている。

 

 

1.研究動機

人生で初めてのビジネススクールに通い、エンクルーを設立してから約8年間、全く戦略らしい戦略も立てる事が出来ていなかった事に気づかされる。講義の中で、フレームワークを利用した分析、ケーススタディなどを学んでいくうちに、今まで失敗をしてきた事業において、本来勝負すべき土壌ではなく、そこに投資をした人やお金、時間に無駄さえ感じた。また、グループ課題において「孫子の兵法」を学び、戦略の重要性を深く認識する事が出来、分析・戦略なしに直観だけでビジネスをする事へ危機感を覚える。そして、現在は、エンクルーの売上構成比の中で派遣事業の割合が高い為、リーマンショックのような世界恐慌が起きると、創業時のようにエンクルーの経営基盤が揺るぎかねない。その為、まずはエフアンドエムビジネススクールで学んだ知識を活用し、派遣業界の中で勝ち抜くための体制作り、また、派遣業とは別の柱となるような事業を育てていく事が急務と考え、今回の研究テーマを自社分析と経営戦略と決めた。

 

現状分析と評価

エンクルーの強み・弱み分析

<強み>

・流通、小売業界に特化して派遣をしている

・流通、小売業界における人脈

・営業社員全員が家電量販店での勤務経験者

・広告会社との取引内容

・営業力がある

・チャレンジ精神がある

・チームワークが良い

・派遣業界の低迷期を経験している事

 

<弱み>

・営業社員が少ない

・資本力

・スタッフの定着率が悪い

・営業拠点が少ない

・分析力がない

・達成意欲が低い

 

VRIO分析

V経済価値:派遣会社ではあるが、営業社員全員が家電量販店で勤務経験がある。

R希少性:同業他社は多いが、家電量販店での勤務経験者を保有する派遣会社はごく少数である。

I模倣困難性:派遣業、家電量販店での業務の両方を習得するには時間を要する。

O組織:組織的な方針やルールは整っていない。

 

PEST分析

P政治:派遣法の改正が多い為、取引内容や実務面の運用が安定しない。

E経済:景気が悪化すると、人件費削減が一番に上がるので派遣業界への影響は大きい。

失業率が高くなると、派遣の需要は下がる。

S社会:派遣という働き方へのマイナスイメージが強い(不安定)。

労働人口の減少により、採用環境が悪化している。

T技術:機械化による人員の削減。

 

3C→STP→4P分析

<3C>

Company・・・SWOT、VRIOは前途の通り

Competitor・・・テンプスタッフ、スタッフサービス、IMH、セレブリックス他

Customer・・・人材不足、法整備、技術者の獲得、サービス向上、

繁忙期応援、新規開店時の人材確保、人件費削減

<STP>

Segmentation・・・流通、小売業界(家電量販店、百貨店、飲食、カーディラーなど)

Targeting・・・販売スタッフ、マネキンスタッフ、整備士

Positioning・・・業界NO.1企業の料金が高すぎる為、料金を抑え一定の質を保つ

 

<4P>

Product・・・業界経験者の登録が多い、営業が家電量販店内の業務を熟知している為、スタッフスキルを確認してからの人材提案、現場フォローが可能

Price・・・競合他社に比べ、比較的高い取引単価の設定

Place・・・競合他社に比べ拠点数が少ない為、埼玉の本社以外に渋谷、仙台を追加

Promotion・・・ネット媒体、フリーペーパーを駆使して他社にはない方法で求人募集

 

上記の分析結果を踏まえ、詳細を述べていく。

 

【人材派遣業界におけるエンクルーのポジション】

日本における人材派遣業において、おおよそ8割が広義な意味での事務派遣、製造業への派遣とも言われている。その理由としては、派遣に対しての需要が高く、取引高も大きい為、大手派遣会社の活動が目立つ領域である。「その中で、エンクルーは上記の分野には手を出さず、流通・小売業界に特化している。その為、人材派遣業全体では、ニッチャーとしての位置づけになる。」派遣先としては、家電量販店、百貨店、飲食店、カーディーラーなどをメインに活動をしている珍しい会社である。派遣先業界としては、人材の入れ替わりが激しく、定着も悪い。つまり、常に人材不足がつきまとう業界ともいえる。そのような事もあり、派遣スタッフを管理するという点では、派遣会社社員の負担も大きい。派遣先企業は1年を通して、土日祝日は勿論、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆も営業している為、緊急時には1年中対応を強いられる。その点において、コンプライアンスを重視する大手派遣会社にとっては社員負担、管理労力も大きいため、本格参入をしてくる競合は少ないと考える。

 

【エンクルーの戦略】

・エンクルーの競争戦略

エンクルーの競争戦略の位置づけとしては、コストリーダーシップ戦略ではなく、差別化戦略に重きを置いている。理由としては、現在の商圏で派遣の需要は高い為、コスト競争をしてまで新規のクライアントを広げる事は得策ではないと考える。コスト競争に勝ち、受注を頂いたとしても、適正な価格での取引は見込めない為、最終的には人員の配属は出来ない。そして、それにより得られる信頼もない。その為、既存クライアントの要望に確実に応え、実績を積み重ねる事が重要だと考える為、差別化戦略に力を入れている。

・エンクルーの強み

エンクルーの技術的な強みとしては、営業担当全員が家電量販店での勤務経験者ということである。その為、派遣先企業との商談時に人材供給が中心の提案となる競合他社に比べ、実務面にもとづいた提案が出来ていることも受注を頂ける要因となっている。導入後の突発的なトラブルに関しても、通常の派遣会社の担当では現場レベルでのフォローは出来ないが、エンクルーの社員は業界経験者の為、最終手段として販売応援に入りお店を助ける事も可能となっている。そのような点も踏まえ、派遣先企業が安心して発注をする事が出来る仕組み作りをしている。

・エンクルーの強みと機会

今後の展開としては、エンクルーの社員が電気量販店経験者であるという強みを更に活かしていきたいと考える。その為に派遣会社としては異例であるが、クライアントの信頼を勝ち取る為に販売教育部の立上げを行う。電気量販店で勤務する社員レベルの人員をエンクルーで複数名用意をし、店舗の新規オープン時の応援、年末年始やお盆など繁忙時期の応援などを行い、それを機に更に取引拡大を図っていく。この取り組みを通じて、エンクルーの強みを新たな機会に結び付けていきたいと考える。

 

【エンクルーの課題と今後の改善策】

・エンクルーの5大精神「スピード×スピード×スピード」

エンクルーには5大精神という日々の活動において意識すべき項目がある。その一つが「スピード×スピード×スピード」である。日本にはエンクルーより遥かに大きな派遣会社もたくさんあるが、あらゆる事にスピードだけは負けないように活動をしようというものである。その中で特に力を入れているのが、応募者の面接から派遣先へ配属するまでの日数短縮を心掛けて活動している事である。この取り組みにおいては、1年以上前から実施をしているが、まだまだ改善が必要な状況である。

理由としては、営業担当によって応募者の面接から派遣先へ提案するまでのスピードが異なる事、また1名の応募者に対してクライアントに対する提案の手法が様々であり、ルール化する事が出来ていなかったからである。また、その結果を見える化し、なぜそのような結果になったのかを営業社員が納得する形でフィードバックを行えていなかった事も要因だといえる。この点においては、経営戦略もさることながら、現場で活動をする者に対して、具体的な戦術を落とし込む事が出来ていなっかた事が最大の反省点である。

この配属までのスピードという点については、差し出がましい話ではあるが、私達のクライアントでもある派遣先企業にも意識して頂く必要がある。何故ならば、派遣を希望している応募者は、ネット媒体の普及に伴い、新聞折込やフリーペーパーが主要な広告媒体だった時期に比べ、簡単に仕事を検索する事が出来るようになっている。更に派遣会社にわざわざ登録に行かなくとも、スカイプ面接、電話面接が行えるようになり、複数の派遣会社に登録しているケースも増えている。その為、応募者が希望する案件をより早く提案しなければ、応募者は他の仕事に決めてしまう。特に優秀であればあるほど、他社で決まる確率は高く、スピードが重視されるといえる。そう考えるのであれば、派遣先企業にも現状の派遣のあり方を説明し、優秀な人材を囲い込むためにはこの取り組みを理解して貰う必要がある。これを派遣先に言えるか、言えないかは営業次第ではあるが、エンクルーとしてはしっかり伝えていけるようにしたい。そして、その活動の積み重ねこそが、1名でも多く、優秀な人材の配属を実現する事が出来、人材不足に悩みを抱える企業を助ける事に繋がると考えるからだ。

・エンクルー5大精神「一つの縁(1社1社、1人1人)を重んじ顧客感動を創出せよ」

そして、もう一つの5大精神に「一つの縁(1社1社、1人1人)を重んじ顧客感動を創出せよ」とある。言葉では理想として掲げているが、顧客感動を創出しているとは到底言えない状況である。現状は営業目標を達成する事を第一と考え、営業活動の比重が高くなり、管理面が疎かになっている。その為、派遣スタッフのフォローが不足し、数字を守る活動を怠っている状況だと言える。この事から、人を配属しても定着率が低く、売上が思うように伸びていない状況が続いている。ここで改めて基本理念に立ち返り、スタッフの定着率改善に取り組み、顧客感動を創出していきたいと考える。

スタッフの定着率が向上すれば、派遣先企業は熟練された技術を持つ派遣スタッフが増えていく為、生産性も上がり顧客満足に繋がる。さらには、働く派遣スタッフにおいても、良い職場環境や勤務条件を提供する事により、従業員満足度向上にも繋がる。具体的な方策としては、営業社員ではなく、スタッフフォローを中心に行う管理社員の採用を行う。採用したスタッフの離職率が下がる事により確保される利益、退職するスタッフの入れ替えを準備する為に使用していた広告採用費の圧縮に伴う利益、この利益が管理社員の導入コストを上回れば、この取り組みに意味があるといえる。ここ数年、1人を採用する為の広告採用費は上昇傾向にある為、人材派遣会社としては、採用の効率化やスタッフの定着率向上が今後の勝負の別れ道になってくると考える。

 

【まとめ】

これまで、人材派遣業を営むエンクルーとしての戦略や改善すべき点、目指すべき方向性について述べてきた。まず、今実行できる事を一つずつ確実に行い、派遣業の基盤を固める事により売上増はまだまだ見込めると考えている。

しかし、ここ数年、会社を運営していく上で一番の不安要素として感じているのは、人材派遣の売上が会社全体の売上の大部分を占めているという事である。2008年9月のリーマン・ショック以降の派遣業界は、ある意味失業の象徴とされ、業界自体のイメージが悪化してしまった。その結果、派遣の依頼は激減し、それまで急成長を遂げていた業界全体が沈んでいき、倒産する企業、撤退する企業が後を絶たなかった。その為、現在は復調傾向にある派遣業界でも東京オリンピック後にどれだけの需要が残るのかを疑問視する声も少なくない。だからこそ、派遣業界に需要がある今、過去の辛い経験を活かして新たな事業を立上げ、派遣業に代わる第二の柱を作っていく事が急務と考える。

エンクルーの今後の方向性としては、現在取引のある流通・小売各社との人脈を活かし、アンゾフの成長マトリックスでいう、既存市場、新規製品の分野で事業の立上げを行っていく。理由としては、現在の取引先においては、決裁者との商談が行えている為、新規市場で勝負をかけるよりも短期間で売上の基盤を作れる可能性がある。東京オリンピックまであと3年という期間を残し、エンクルーが新規事業でどれだけの売上を作っていけるかが本当の勝負となる。その為、この6カ月間、エフアンドエムビジネススクールで学んだ、経営戦略、リーダーシップをはじめ様々な知識を活かし、今後30年、50年と生き残れる企業を作り上げていく。

 

 

3. 今後の取り組みと監査手法

 

1.派遣スタッフの定着率を上げる為の取組

派遣スタッフを定着させるためには、しっかりしたフォロー体制が必要になってくる。管理社員の採用と合わせ、現在よりスタッフとのコミュニケーションを取る時間を作り、問題点や不安な部分を取り除く作業を行うようにする。具体的には、営業1課から4課までが、定着率の目標値を設定し、3ヵ月毎に結果を発表し、内容を分析していく。

定着率:入社したスタッフが1カ月後、3か月後、6ヵ月後に在籍している割合

期間:2017年4月~6月、7月~9月、10月~12月、2018年1月~2月の4クール

分析発表日:各クール締め月の翌月最終週の責任者ミーティングにて。その後、全社配信にて数値の共有。

手法:4月~9月は各課で決めた取組内容を実施。10月の分析発表日以降は実績の上がった取り組みを全体で実施。

評価方法:各課のクール毎の達成率にて、課に対してインセンティブの支給

 

2.派遣スタッフの配属までの日数短縮への取組

現在は、応募から派遣先配属までの日数に時間が掛かっている為、他社での採用決定、応募辞退、または連絡が取れなくなってしまっているケースが散見している。その為、配属までの日数を短縮する取組を意識して行う必要がある。

配属日数:応募者を面接した日から、派遣先企業での勤務初日までの日数

期間、分析発表日、手法、評価方法は上記同様。

※提案手法に関しては、一部ルール化する。

 

3.採用PH(派遣スタッフ1名を採用する為に掛かる費用)を下げる取組

派遣スタッフを採用する事が年々難しくなっている為、1人あたりの採用PHが上昇し続けている。それに伴い、広告の掲載件数も増え続けている。その為、営業・広告担当の広告1掲載に対しての内容精査が疎かになってきている。今後も採用状況が改善する見込みは当面ない事から考えると、広告に対しての意識を高める必要があると考える。

採用PH:各課の毎月の媒体費用÷入社人数で算出

期間:2017年3月~2018年2月までの各月

分析発表日:毎月最終週の責任者ミーティングにて。その後、全社配信にて数値の共有。

手法:営業担当と広告担当で媒体の選定と内容の検討。

評価方法:上記の派遣スタッフの配属までの日数短縮と合わせて評価。

 

4.新規事業の立上げ

派遣業に頼りすぎている状況は、景気の動向に大きく左右され安定した会社運営を行うという点に不安が残る。その為、今後は派遣業とは別の柱の事業を育て、現在行っている業務と連携できる環境で新規事業の立上げを行う。業種としては、人材派遣業以外での立上げを行う。

期間:2017年3月~2018年2月

分析発表日:8月、12月、2月の最終週の責任者ミーティングにて

評価方法:新規事業においては、新規契約件数、売上にて判断。また、既存事業の新分野においては、2017年2月度の売上実績と比較し、売上増額で判断。

 

以上

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