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修了生論文

業界内における当社の将来性と、自社分析による今後の対策

大阪校(O-college) 渡邊 諭史

第1章 研究動機

現在左官業界では、職人の高齢化と若手不足の課題が浮き彫りとなっている。この課題により、「①職人不足により、左官屋が激減していく②伝統工法や技術の伝承が出来ず、日本古来の神社仏閣等の修繕工事ができなくなる」、この2つの問題が危惧されている。

この問題は当社にとっても大きな課題であった。そこで、平成27年度より、兵庫県認定の職業訓練校として、「左官山本塾」を開校した。現在では、卒業した若手6名が、社員として(有)左官山本組で働いている。

塾を開校し、若手を雇用し、育成する環境が整った今、当社にどれほどの将来性があるのか、改めて考察していく。さらに、強みと弱みを分析し、そこから10年後のビジョンを捉え、今後の方向性を策定することが、このテーマにしたきっかけである。

 

 

第2章 企業概要

左官とは、建物の壁や床、土塀などを、鏝という道具を使って塗り、仕上げる職種である。主な塗り材料として、漆喰や珪藻土、モルタル、土などである。

当社は、木造建築の内壁、外壁の下地~仕上げまでの施工をメインとしているが、外構工事(ブロック積みや、店舗の床などの土間モルタル仕上げ、住宅では玄関や犬走りなどの土間モルタル仕上げ)も一部行い、左官工事一式を請け負っている。さらに、漆喰や荒壁土などを使用した伝統工法での施工も可能である。

当社の創業は昭和3年で、今年で90年目を迎える。

平成27年より、兵庫県認定の職業訓練校として、「左官山本塾」を開校し、1期生4名、2期生2名が卒業し、現在計6名の若手が職人として有限会社左官山本組で働いている。また、4月からは、3期生として2名の入塾が決定している。

他にもベテランが7名所属しており、現在計13名の職人が在籍している。

若手6名とベテラン7名でのバランスの中、だいたい3~4チームに分かれ、日ごとに各現場へ赴き、作業をこなしている。

ベテランも多く所属していることで、若手が技術を学ぶ機会が多く、もちろん伝統工法も経験し学ぶことができる環境である。

 

【売上高と売上総利益の推移】

22期 23期 24期 25期 26期
売上高 000,000 000,000 000,000 000,000 000,000
売上総利益 00,000 00,000 00,000 00,000 00,000
粗利率(%) 28.60% 22.50% 22.60% 26.10% 20.80%

単位:(千円)

 

 

第3章 問い

左官業界と当社において、職人の高齢化と若手不足、技術の伝承という共通した課題がある。その中で、当社は若手を雇用し、育成する環境が整っていることで、どれほどの将来性が見込めているか分析していく。そして、その将来性を具現化する為に、どのような課題があり、何をすべきかを明確にしたい。

また、当社の強みや弱みを分析することで、10年後に向けて早急に対応すべき課題を導きだし、その対応策を考える。

その観点から、当社の今後の対策の方向性を確かめていきたい。

 

 

第4章 研究手段

【ファイブ・フォース・モデル】による業界分析と、【SWOT】による自社分析

 

【ファイブ・フォース・モデル】

業界内の脅威
●職人の減少

・最盛期は30万人いた職人数が、現在では5万人程

●職人の高齢化及び若手不足

・技術の伝承ができない

→寺社仏閣などの修繕が出来なくなる

●人材不足になる

・塗り手間、工期、金額も高くなる

→左官仕事の需要がなくなる

●一人親方制度の廃止

・各工務店の福利厚生費未払い

 

新規参入者
●ハウスメーカーによる左官を必要としない工法

(工期、塗り手間、人工、材料費のローコスト化)

・外壁→サイディングなど

・内壁→ビニールクロスなど

 

売り手・供給側の交渉力
●左官仕上げの特徴

・火災に強い

・省エネ、省資源

・調湿作用がある

・健康に良い(特に漆喰など石灰使用の材料は殺菌性が高い)

・地球環境を汚染しない

・昔から使われ、性能が実証されている

●自然素材や健康住宅思考

・左官で使用する材料は自然材料が多い

→本漆喰や珪藻土の薦め

 

買い手・顧客の交渉力
●何でもネットで調べられる時代

・材料の知識

・金額の相場

・工期、人工

など事前に調べた上で、他と比較してくる

●左官職人ならではの「味」では納得してくれない

・パターンやクラックなど

 

代替品・サービス
●DIYの普及

→ホームセンターなどで道具や材料が簡単に手に入る

●左官塗り仕上げ風クロス

 

【SWOT分析】

強み(Strength)
・職業訓練校として認定を受け、左官山本塾を開設しており、若手が多い

・左官の職業訓練校の認定を受けているのは、県内でも自社のみで珍しい試み

→京阪神エリアで見ても、左官を学ぶ学校が京都と兵庫に1校ずつあるのみ

・13名中半数が若い職人(25歳~34歳)で、機動力がある

・ベテランと若手が揃っており、バランス良く、多方面の仕事を受注できる

・職人の人数も多く、複数の工務店の現場を請け負うことができ、より多くの経験を積める環境である

・機動力があることで工期を早くおさめられる

・伝統工法(荒壁土、本漆喰での蔵や古民家再生、土塀の版築など)ができる

・「光る泥団子教室」を若手の職人中心で定期的に開催しており、左官や自社のことをPRする場がある

・泥団子教室で作り方を教え、人前で話す機会を作ることで、社会人としてのマナーやコミュニケーション能力、話す力を高めることができる

 

弱み(Weakness)
・現在若手が多いことで、経験・知識・技術不足である

・若手の経験が浅いことで、急所を見極める目がまだ養っておらず、ミスや手直しがある

・今いるベテランが、あと5年以内には半数が引退の可能性が高い

・5年以内に一つでも多くのことを若手が吸収しなければならない

→それができなければ、世代交代が起こっても、生き残っていくことが難しい

・現社長が管理している仕事の内容の整理と、引き継ぎの段階整理がまだできていない

→仕事の受注、現場スケジュール管理、見積もりや人工計算など全て現社長が基本一人で行っている

→特に見積もりの立て方や人工計算において、引き継ぎができていない

・実際に立てた見積もりと、工事原価において、現場ごとにデータ化できていない

→どの工務店の、どのような工事だと利益が残り、また残せないのか分析できていない

 

機会(Opportunity)
・現在の左官業界は職人不足、高齢化及び若手不足により、技術の伝承が危惧されている

→ベテランと若手が揃っていることで、ベテランから技術の伝承を引き継ぐ環境が整っていることで、左官屋として生き残っていく将来性が望める

→現在も左官屋が不足している中で、左官仕事を一通りこなし、工期を早くおさめることができ、すぐに対応できる環境であることで、各工務店より重宝される会社になる

→本漆喰など昔ながらの工法にも精通しており、なおかつ技術の伝承ができる環境であることで、寺社仏閣などの修繕なども請け負うことができる

・自然素材・健康住宅思考が高まっている中で、一般住宅でも本漆喰や珪藻土などの壁が再注目されてきている

→本漆喰を一から作り、塗りつけまで完工できる左官屋が減少している中で、自社は現在も行っていることで依頼をうけることが出来る

・「光る泥団子教室」を通じて、認知度が高まる→BtoBtoCからBtoCへの可能性が拡がる

→左官に興味を持ってもらえるだけでなく、左官工事に悩んだときに、自社に相談してくれる可能性が望める

→左官に興味を持ち、やりたいという子どもが増える可能性がある。その時に当社を知っておいてもらえることは、選択肢の一つとして見てもらえる可能性が望める

 

脅威(Threat)
・若手が成長できていない場合、職業訓練校としての価値がなくなる

→更なる次世代への技術の伝承ができない

→新人採用の機会が減り、職人の数が確保できず、機動力がなくなってしまう

→多くの工務店からの信頼と需要がなくなり、仕事数が減ってしまう

・繁忙時は、スピードが要求されるが、焦って雑になってしまう危険性がある

→若手の時にそれが重なってしまうと、悪い覚え方をしてしまう危険性がある

・時間に迫られ焦ったときに、確認作業が疎かになる

→現場清掃が行き届かず、仕事も雑で汚い左官屋としての印象がつく危険性がある

→手直しなどが起こり、クレームを受ける危険性がある

・見積もりと工事原価の粗利率の比較ができていないことで、利益が本当に出せているかが不透明

→赤字の現場が多くなれば倒産の危険もある

・引き継ぎ計画が出来ていないことで、現社長が急に不在になった際会社が機能しなくなる

・「光る泥団子教室」だけでは、いつか飽きがきてしまう

 

 

第5章 研究結果と考察

 

【左官業界における当社の将来性について】

研究の結果、業界内と当社において、一番大きな課題は共通している。それは職人の確保と若手の育成、伝統工法の技術の伝承である。

業界内では、この問題に対して、未だに活路を見いだせていない状況が続いている。

そんな中で、当社は職業訓練校としての若手育成の環境があるという強みがある。さらに、現社長が現役当時、多くの現場経験を積んできたことで、伝統工法だけでなく、モルタル仕事から、幅広く深い左官知識を得ている。現社長とベテラン職人達の知識と経験を、若手社員達が、5~10年の間に学び、自身の技術に昇華させていくことが、重要である。

それらを今から5~10年で伝承することができれば、業界内の問題に対して、対応できている会社となり、生き残っていくことができると考えられる。

そのために、10年後に向けてやるべき課題と方法を、次章で述べていく。

 

【SWOT分析により導き出た問題点】

SWOT分析の弱み・脅威の観点から、まずは現社長が一人で行っている業務について着目する。

 

・仕事の受注と、受注時の打ち合わせ

・現場スケジュール管理

・見積もり作成

・人工計算

 

上記4件に関しては、現在ほぼ現社長が一人で行っている状況である。

次に、もう一点着目すべき内容が、「見積もりと実際にかかった工事原価との粗利を現場ごとに割り出していない」点である。

この2点から読み取れる問題として、

 

・経験と知識から成る現社長の天性のカンに頼っている

・見積もりに関して、どんぶり勘定になっている

・会社にとって利益の出る工務店、及び工事内容を正確に見極められていない

 

などが挙げられる。

そして、見積もりの出し方に関しては、後継者である私の引き継ぐべき仕事の一つである。

私は当社に入社してもうじき2年になるが、「まずは現場を知ることが大切」ということを理由に、「まだいいか」という考えが正直あった。しかし、それはただ後回しにしていたにすぎない。脅威の観点から見ると、この考え方も大きな問題点であると、私自信改めて自覚すべき内容となった。

 

 

第6章 今後の取り組みと監査方法

前章より浮き彫りになった課題を3つに分けて考えていく。

 

(1)若手の育成と、技術の伝承経過の可視化

(2)現社長が一人で行っている業務の、10年後の引き継ぎに関して

(3)見積もりの立て方の引き継ぎ計画と、見積もりと工事原価との粗利率のデータ化

 

(1)について

若手の育成と、技術の伝承経過に関しては、個人差もあるが、現在当社は日ごとに行く現場も違えば、作業内容も変わったりしている状況。その中で、誰が何をいつ経験したかが、個人個人ですぐに確認できる状態ではない。そこで、技法チェックシートなどを作成して、可視化する。

そして、10年後に職人のリーダーとして先頭に立って引っ張る存在を3~4人決める。将来的には選出したリーダーを筆頭にチームを組んで、現場作業をこなしていく形に移行する。

 

【今後の計画と期待される効果】

●技法チェックシートの作成

計画
①2ヶ月以内に、チェックシートに載せる技法を社長と相談し、選定
②3ヶ月以内に、チェックシート作成
③4ヶ月以内に、シートに沿って各自の進捗状況を確認
④実際にチェックシートの運用
⑤年に2回、進捗を確認していく期待される効果→若手社員各々が、何をいつどこまで学べているか可視化できる・各々で目標を持ちやすくなる・評価目安と成長度合いが明確化・競争意識が生まれる

 

●リーダー選出と、その育成~チーム編成

計画
①来年度までに、リーダー候補を選出
②3年後にリーダー選出
③5年後までに組織案の構築
④6年後以降、チーム編成を幾通りか試運転していく
⑤7年~10年後までに、チーム編成期待される効果→リーダーとフォロワーとしての自覚を持って仕事することで、やるべき事が明確化する・チームの固定により、現場においての確認漏れや、チェックミスが防ぎやすくなる・現場スケジュールの調整がとりやすくなる

・リーダー同士で連携を取ることで、社長が指示しなくても各チームで補い合える

・現場の進み具合を把握しやすくなることで、リーダーが人工計算できる

 

(2)について

現社長が一人で行っている業務4件の役割を、「10年後の引き継ぎ時の役割分担」で考えてみる。

・仕事の受注と、受注時の打ち合わせ →・次期社長(ただし、打ち合わせに関しては職人に任せる部分も出てくる)

・現場スケジュール管理       →・次期社長と職人とで連携

・見積もり作成           →・次期社長

・人工計算             →・次期社長と職人とで連携

 

(3)について

見積もりに関して、現社長にヒアリングを実施。

見積もりの立て方、図面からの平米数の拾い出しの仕方を、今後新たな現場に入るときに教わることとする。

実際に私自身が現場に作業に行ったときに、机上で出した平米数や見積もりを、現場で直に肌で感じ取るとともに、実寸で計るなど、定量・定性的に経験し学んでいく。それを現場作業と並行して行うようにしていく。

粗利率のデータ化に関しては、工事台帳を作成し、粗利率を可視化できるようにする。

目標としては、最低30%、平均35%の粗利率を取れる現場を増やしていく。

 

●工事台帳記載項目

・見積金額

・工期

・材料費

・経費関係(交通費、高速代など)

・人工

 

を記載し、それに基づいて粗利率を算出していくこととする。

これに関しては、現在取り組み始めており、今後も継続していく。

 

 

第7章 まとめ

今回このビジネススクールに通ったことで、本当に多くのものを得ることができ、私にとって、「よいきっかけ」をたくさん与えてもらった充実した半年間となった。

私は自社に入社してまだ2年も経っておらず、以前の仕事も全くの畑違いで、素人同然で入社した。そして、入社した時点で「後継者」としての立場があった。

そんな左官素人の私が、最初はがむしゃらに現場に出ていることで精一杯だったが、並行して経営に関わることで、自分のすべきことの優先順位をどうしていったらいいか悩む時期にさしかかっていた。そんなタイミングでスクールに入り、学んでいく中で、会社と左官業界について向き合う機会を得られたことは、本当によいきっかけになった。

そして、授業を通して、毎回新たな発見と出会い、そのたびに考え、実行し、検証することで、自分自身の視点を何倍にも拡げることができた。それにより、自社の現状と、問題点などが以前よりも明確に見えることができ、常に自分がその事象に対して何が出来るのか、考えられるようになれた。

それを、この論文を通してより具体的に形に出来たこともよい機会だった。

また、このスクールでは経営に関する知識だけでなく、経営者としての気構えや、立ち振る舞いなども大切であることが学べた。このことは、私にとってこの半年間の中で一番の「よいきっかけ」になった。

今後、会社を背負っていくということは決して楽なことばかりでなく、むしろ辛いことの方が多いと思う。でも、リーダーとは、どんなときでも前向きに社員を引っ張っていく存在である。「知識とともに立ち振る舞いと言動」が大切で、日々意識することで変わることができ、継続するとそれが必然になることを学べたことは、私にとって一番の収穫であった。

と同時に、やはり会社にとって「人」が何よりも大事であり、社員達とその家族の幸せを一番に考えること、そうすれば必ず明るい道が開けることを改めて感じることが出来た。

まだまだ左官素人である私にとって、自社を軌道に乗せる道のりは長く険しいが、今頼れる現社長から多くのことを教わり、盗み、それを自分流に昇華させていきたい。それができれば、必ず今よりも良い会社になると信じ、これからの日々を楽しんでいきたい。

そして、このスクールで出会った仲間達と先生に感謝すると共に、学びの機会を与えてくれた会社と社長、社員達にも感謝している。

半年間、ありがとうございました。

 

以上

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