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修了生論文

日本で売れてる伝統工芸品についての調査

沖縄校(美ら海ビジネススクール) 田里 宗章

第一章 はじめに

 

1.1 研究の動機

日本には、素晴らしい伝統工芸品が多くある。それは、日本各地に点在し昔からその技術が伝承されている。近年、私の業務で大半を占めるのがその伝統工芸品の魅力を発信し、消費者が購入しブランドとして認識するまでのプロセス支援事業だ。

事業の中で実際に その工芸の素晴らしさやストーリーを存分に謳っても、テストマーケティングの時点で消費者が手にとり購入する確率は非常に低い。バブル時期には、デパートで飛ぶように売れた伝統工芸品も、昔とは違い売上と同じように認識も低迷している。また、問屋そのものが消滅してしまった産地もあり、流通構造全体が変化してきている状況にある。

 

1.2 リサーチクエスチョン

沖縄における伝統工芸品は、筆者が事業として携わっている「琉球ガラス」をはじめ15品目が国指定となっている。「経済産業大臣指定伝統的工芸品」と認定されおり、全国第4位の品目数となっている。そのブランド力を高める事業を遂行するには常に壁が高く目標とする売上目標に達するどころか、消費者の認識を高めることも困難を極める。

※6

 

グラフのように、ここ18年間で企業数、生産額とも減少しておりそれにより従事者も年々減少しているのがグラフからわかる。本稿では、伝統工芸品は売れていないという考察のもとに、「なぜ売れないのか」を検証したい。その結果から沖縄にも多数ある伝統工芸品を売るためのヒントとしたい。そのため、現在認知されている伝統工芸品について調べ比較する。

 

1.3 論文の構成

伝統工芸産業で注目されている南部鉄器と、沖縄の琉球ガラスの事業における共通のマーケティングの方法でその違いを分析したい。それぞれの企業はどのようにマーケティングを行っているのかを比較する。

 

 

第二章 研究の視点

 

2.1 研究対象

経済産業省指定の伝統的工芸品を対象として、グーグルキーワードプランナーを使い、2015年3月〜2016年2月のデータの一ヶ月平均の数値にて比較したところ、日本で認知されている伝統工芸品の上位は以下のとおりとなった。

 

検索数による上位検索結果

1位 南部鉄器 27,100 岩手県
2位 有田焼、波佐見焼 27,100 佐賀県
3位 九谷焼、江戸切子 18,100 東京都
4位 益子焼、信楽焼 14,800 栃木県
5位 熊野筆 12,100 広島県

※3

 

ここでは認知度が1番高いと思われる南部鉄器について、その要因をリサーチすることとし、それを「琉球ガラス」と比較することとした。比較分析を行う前に「南部鉄器」の概要を説明する。

 

<南部鉄器について>

南部鉄器(なんぶてっき)は、岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者によって作られている鉄器。岩手県の伝統工芸品で年間100億の売上がある通商産業大臣指定伝統的工芸品(現・経済産業大臣指定伝統的工芸品である。岩手県南部鉄器協同組合連合会からなる組合が管理している。もともと、鍋類を中心に1596年からその原型があるといわれている。そのため、現在の形としての創業年数としては、113年となる。

以下は、筆者が南部鉄器共同組合(岩手県盛岡市繋字尾入野64-102 手づくり村内)の大浦氏より、聞き取り調査にて得た情報である。

 

①売上規模:

南部鉄器の年間売上金額約100億 (国内伝統工芸品年間売上金額約1000億)

②産業従事者数:約800名 組合加入72社(前年度に比べて2割増)

③年齢による従事者の内訳 ⇒70代8% 60代44% 50代33% 40代・30代3% 無回答7.4%

④競合:(株)能作)など同じ鉄製品や金工品

⑤販売割合:日本国内約4割 、海外約6割

※2

 

<琉球ガラスについて>

琉球ガラスが沖縄で初めてガラスが作られたのは明治中旬頃と言われている。「宙吹き法」や「型吹き法」な どの手法を使った吹きガラス工芸で、明治時代に長崎や大阪からやってきたガラス職人によって伝えられた。主にランプなどの生活用品が作られたのが琉球ガラスの歴史の始まりとされている。

 

①売上規模:

琉球ガラスの年間売上金額約9億 (国内伝統工芸品年間売上金額約1000億 )

②産業従事者数:約306名 (平成年12月) 3組合加入社数18社

③そのうちの年齢による従事者 ⇒70代9.8% 60代16.8% 50代25.3% 40代21.1%

30代18.2% 20代8.0% 10代1.0%

④競合:沖縄県の伝統工芸 やちむん(焼き物)・漆・紅型・紬

⑤販売割合:日本国内約10割 、海外約0割

※3 ※6

 

2社の比較で、年齢による従事者を見ると南部鉄器では30.40代の従事者が少数である。また、2社とも70代.60代の従事者が多い傾向にあり、今後の後継者不足が問題となる可能性がある。。

 

研究の視点2.2

 前記(2.1研究対象)をもとに南部鉄器と琉球ガラスのマーケットにおける3C分析・4P分析・顧客ベネフィット・STP分析を行う。

 

 

第3章 分析

 

3.1 3Cによる分析と比較結果

南部鉄器と琉球について、それぞれ3C分析を行い比較した。

【南部鉄器】 【琉球ガラス】
「Customer=市場、顧客」 「Customer=市場、顧客」
日本全体の伝統工芸品市場規模1000億円のうち南部鉄器の売上100億である。

顧客:女性・主婦・茶師・海外ブランドより日本文化が好き・インバウンド(海外需要が6割、輸出先が20ヶ国)※2

沖縄全体の伝統工芸品市場規模42億円のうち琉球ガラスが9億円である。

顧客:観光客・女性・主婦・沖縄好き・インバウンド

卸先BtoB3.5億 観光客BtoC:6億

「Company=自社」 「Company=自社」
BtoB BtoC:鋳型で大量生産できること。(生型鋳造法) BtoB BtoC:オリジナル製品が小ロットで作れること。
「Competitor=競合」 「Competitor=競合」
競合は、金工品(山形鋳物・東京銀器・燕鎚起銅器・越後与板打刃物・信州打刃物など)差別化を図っている企業。 沖縄県内の伝統工芸(紅型・やちむん(陶器)織物・漆)

 

比較の結果

南部鉄器

1 大量生産型

2 市場の規模が琉球ガラスに比べ約10倍

3 競合は南部鉄器と同じような金属製品つまり同業者

 

琉球ガラス

1 小ロットでオリジナル商品を作ることができる

2 観光客に特化している

3 競合は伝統工芸品つまり、異業種

 

3.2 4P分析による比較結果

南部鉄器と琉球ガラスの4P分析を行い比較した。

【南部鉄器】 【琉球ガラス】
PRODUCT(製品) PRODUCT(製品)
鉄鍋 40%

フライパン10%

急須 50%

鉄玉子 1%未満

※外国向けに特化した商品展開をしている。例えば多色の急須などであり、逆に国内では販売しない方針で希少性を演出している。

グラス・お皿 95%

装飾品 1%

少量だが建材

PLACE(立地・流通) PLACE(立地・流通)
百貨店

ネット販売

店舗販売

卸売

免税店

セレクトショップ

ネット販売

店舗販売

卸売

PRICE(価格) PRICE(価格)
アート作品:500,000円

急須:12,000円(売れ筋価格)

ザ・鉄玉子:1,000円

アート作品:50,000円

グラス:1,300円(売れ筋価格)

箸置き:800円

PROMOTION(宣伝・広告) PROMOTION(宣伝・広告)
■SNSなどを駆使したプロモーション

■全国の有名セレクトショップでの販売またはPOPUP

■ライフスタイル系の雑誌などでの露出

■国内外展示会でのプロモーション

■全国区の雑誌、TV、ラジオ等メディア全般

■SNSでのプロモーション

■沖縄観光雑誌で露出

■国内外展示会でのプロモーション

■県内での雑誌、TV、ラジオ等のメディア全般

※4 ※7

 

比較の結果

PRODUCT:南部鉄器は商品カテゴリー数が多いのに対し、 琉球ガラスはカテゴリー数が少ない。PRICE:南部鉄器は、売れ筋の価格が琉球ガラスよりも高価である。

PLACE:南部鉄器は、国内外でも販売されているのに対し琉球ガラスは、県内のみ販売。

PROMOTION:南部鉄器は国内外でプロモーションがあり、 琉球ガラスは沖縄県内のみ。

 

南部鉄器 急須 参考画像

多角形のモダンな形に、ターコイズブルーのカラー

和風モダンなデザインに、薄いすみれのカラー (ニューヨーク近代美術館カフェで使用されていた実績がある)

 

3.3 STP分析による比較結果

STP分析

南部鉄器と琉球ガラスのSTP分析を行って比較した。

【南部鉄器】

SEGMENTATION SEGMENTATION
キッチン用品の市場

電化製品(炊飯器)

茶器の市場

健康用品市場

アート市場

キッチン用品の市場

雑貨市場

アート市場

建材市場

お土産市場

TARGETING TARGETING
ライフスタイルへのこだわりを持つ消費者

50代以上の女性でキッチン用品を求める主婦

お茶を楽しむ人

伝統工芸品に関心がある人

高級志向で既製品があまり好きでない人

自分らしさを大切に生きている人

人と同じものを持ちたくない人

旅行客(30代以上の女性旅行者のお土産品として)

贈り物として良い

自分らしさを大切に生きている人

人と同じものを持ちたくない人

POSITIONING POSITIONING
健康になれる料理用具

ステンレス鍋よりも、肉料理が美味しい

炊飯器よりお米がおいしく炊ける違い

伝統工芸品を使用する満足感と安心感(ブランド力)

沖縄の旅を想い出す商品

夏に似合う製品(カルパッチョやそうめんなど冷たい料理全般)

伝統工芸品を使用する満足感と安心感(ブランド力)

 

3.4 情緒的ベネフィットと機能的ベネフィットの分析と結果

顧客ベネフィットによる比較

次に、南部鉄器と琉球ガラスの情緒的ベネフィットと機能的ベネフィットを比較した。

【南部鉄器】  【琉球ガラス】
情緒的ベネフィット 機能的ベネフィット
●伝統工芸品であること(ブランド品)

●一点ものであること(既製品でない)

●いつか欲しいと思う憧れ

●錆に強く、耐久性がある

●IHに対応している。

●鉄分が飲むだけで取れる(健康面)

●伝統工芸品であること(ブランド品)

●地域性を感じる

沖縄での旅の想い出を感じる

●一点ものであること(既製品でない)

●子供向けに手にフィットした商品がある

●ガラスとしての質感がある

●冷たいものを飲むのに適している

 

 

 

第4章 比較検証結果

全体として、比較の結果2つは市場が全くといって良いほど異なる。それにより、顧客も違うと理解した。琉球ガラスは、「沖縄で買うお土産」であること。南部鉄器は「その場所にいかなくても全国的に購入できる」こと。そのPLACEによる比較の結果、南部鉄器と琉球ガラスは同じ伝統工芸品だが、南部鉄器は伝統工芸寄りで、琉球ガラスは伝統工芸ではなく、「お土産」に分類することができた。

 

相互のアイデアを反映させるなら、鋳型により南部鉄器は大量生産ができる。それにより安価なものをつくることで若年層もターゲットとして取り込むことが可能と考える。

 

琉球ガラスは、小ロットでオリジナルがつくれることから、1個でも作れるオリジナル商品を売りにし、さらに高価で美術品寄りの作品が提供できる。また、顧客ベネフィットについては、南部鉄器が冷たい食器を使って商品展開することや、琉球ガラスが耐熱性のガラスを今後展開していくのはどうだろうかと考えた。

 

 

第5章 終わりに

現在、伝統工芸品市場において、物はあふれ容易に値崩れするという負のサイクルを繰り返している。どのように、生き残れるのだろうか。その答えは、「伝統工芸品とお土産を分ける」という点であると考える。市場を分けることで異なるターゲット層が見つかり全く違うフィールドで勝負できるかもしれないと感じる。伝統工芸もお土産も古さと新しさが大切でありながら時代にフィットしたものを提供すべきだと感じた。古くからある伝わったものも勿論大切だが、消費者が求めていなければ会社は減退の道を進んでしまう。多くの伝統工芸品がその道をたどっている。これから、伝統工芸品を広める事業に多くかかわりがある私も今回の調査はとてもモチベーションをアップさせる一つのきっかけとなった。

 

 

※1出典:(一財)伝統工芸品産業振興協会調べ

※2南部鉄器共同組合 大浦氏のインタビューをベースに資料を作成。

岩手県盛岡市繋字尾入野64-102 手づくり村内 大浦氏

※3琉球ガラス村 営業 徳吉亮丞氏によるインタビュー

※4株式会社 岩鋳 広報 高橋氏のインタビューをベースに資料を作成。

※5検索結果はこちらのサイトから参照 https://shikinobi.com/kensaku_ranking

※6出典:(一財)伝統工芸品産業振興協会調べ

※7御釜屋 小泉氏 職人 からのインタビュー

岩手県盛岡市盛岡駅西通2丁目1-23 TEL.019-601-6870

 

(プロフィール)

田里宗章 (たさとむねあき) アートディレクター デザイナー

沖縄県事業、中小企業事業、伝統工芸、美容事業、加工食品、健康食品、アート・インテリア、ファッション、旅行業、イベントなど多種多岐にわたる事業体においてブランド・ディレクターをつとめる。事業設計、ネーミング開発、CI VI構築、PR、リ・ブランディングなどブランドデザインを高確度、網羅的・戦略的に執行する。伝統工芸品のブランディング事業や、商品開発などを手掛ける。

 

平成25年度起業支援型地域雇用創造事業(国頭村の椿ブランド開発を資する椿産業化)

平成26年度事業沖縄市実施額地域資源活用事業

平成27年度照間ビーグ活性化プロジェクト事業戦略策定業務

平成29年度奄美芭蕉ファクトリープロジェクト

平成29年度年沖縄県スホーツ観光誘客促進「スホーツアクティフフロモーション業務」

平成29年度名護市特産品等開発支援事業

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