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修了生論文

「メインバンク制度の変遷と今後の展望について」

沖縄校(美ら海ビジネススクール) 高良 大樹

はじめに

これまでの沖縄は、島国という優位性があり、他の都道府県と比較し金利が高く、競争も激しくない状況であった。しかし状況は変わり、日銀のマイナス金利導入、量的緩和、鹿児島銀行の店舗出店やネット銀行の台頭、他業種からの金融分野進出など環境は大きく変わった。収益環境も厳しく、貸出金利は低下傾向にある。企業の資金調達方法は多様化し、クラウドファンディングやAmazonが始めたレンディングサービスも注目を浴び、これからの銀行経営は厳しさを増すばかりである。その環境の中で一行員として、「今後必要となる仕事」や「メインバンクの役割」を再確認し、今後あるべきメインバンクの姿を検証する。

 

 

1章:メインバンクとは

メインバンク制は、企業が主に取引をする金融機関を1行に定め、密接な関係を保つという日本独自の金融慣行である。しかし、メインバンクの正式あるいは法的な定義は存在しておらず、各銀行により解釈が異なる場合がある。一般的には「銀行取引をしていく上で、最も利用頻度の高い銀行」や「融資量が最も多い銀行」と例える場合が多い。また、和製英語である点も注意したい。

 

 

2章:メインバンク制度の歴史

日本独自の金融慣行であるメインバンク制は、戦後の復旧から成長の過程で大きな変化を遂げた。まず、メインバンク制の変遷について確認したい。

 

(戦前1920年代)

戦前の大企業の資金調達では、株式市場が重要な役割を果たし、銀行の役割は比較的小さいものであり、景気が低迷した1920年代では、戦前の慣行であった株式割当て増資と分割払込の払込金徴収が中心であった。

 

(戦時:メインバンク制の原型が誕生)

銀行が大きな転換期を迎えたのが、戦時、戦後である。軍需企業に資金不足が発生する一方で、銀行はリスクの高い事業等への貸出に躊躇し、1940年前後には、貸渋りが起こるようになり戦時経済運営上問題となった。この事態に対処するため主要銀行は、リスクの分散のため共同融資(シンジゲートローンの原型)を開始。この際に幹事銀行が融資割合、審査等を委託され、情報取集、モニタリングを強化したことにより銀行と企業の関係が強くコミット(関わる)されるようになり、メインバンク制の原型「モニタリング型」が誕生したのである。

 

(戦後1940代前後:メインバンク制の出発点)

戦後において、戦時中に軍需会社指定金融機関として軍需企業に資金供給をしていた金融機関(三和銀行など)が解体され、その過程でメインバンク制が拡大を遂げた。その第一理由として、戦後の企業再建整備の過程で、旧指定金融機関が、最大の債権者として特別管理人となり、企業内部情報等の情報を蓄積、モニタにングを強化したこと。第二に戦後復興プロセスの中で、企業、銀行に自己責任を強制したドッジライン以降、リスク分散のため各行が貸出先を分散することにより貸出先が増加し、金融機関としての役割(資金の融通)が明確になったことが要因である。

 

(最盛期:経済成長期)

メインバンク制が最盛期を迎えたのは、神武景気以降、高度経済成長時期である。経済成長、企業成長に伴い大幅な資金不足が原因で設備拡張等を追求しようとすればするほど銀行依存度が高くなっていったのである。また企業は、特定の銀行とメインバンク関係を形成することで慢性的な資金不足の下、長期的な資金供給を期待できた。銀行側においても「資金の最初の貸手」、「決済口座の集中」、「情報の収集」というインセンティブを与えられたことで強くコミットするようになった。しかしながら、銀行の中で成長力のある企業は、低コストで預金を獲得可能とする一方、貸出審査には、規模の経済が作用するため審査コストの低下が期待できた。そのため、1950年代前半においては大口顧客獲得が銀行経営にとって不可欠という認識が形成されたのである。

 

(変容期1970年前半以降)

企業と銀行の関係は、石油ショック後から徐々に変容を示し始め、1980年前後の金融市場の規制緩和・自由化と共に企業金融が多様化(増資額が増大、社債発行額の増加)で銀行と企業との関係が変化を始めたのである。そのバブル期の企業の資金調達手段の変化により、優良顧客が増資や社債依存を強める一方、銀行は、主要貸出先を、大企業から中小企業へシフトして行くこととなる。その結果、銀行の貸出ポートフォリオは、リスクの高い企業、個人群へ大きく偏るようになり、バブル崩壊後に不良債権の拡大要因となった。この不良債権問題が発端で、銀行経営の健全化ため自己資本比率規制が厳格に適用され「モニタリング・ガバナンス」中心であったメインバンク機能が「リスクヘッジ型・金融サービス」と移行する時期となり、新規貸出の抑制、資金の引き上げが多くなったのである。

以上のように、メインバンク制は、戦後の復興プロセス過程において、経済成長と共に規模拡大を遂げ、規制と緩和の中で機能の変化を遂げた。まず、この点を抑えておきたい。

 

 

3章:中小企業金融と情報の非対称性

「売り手」と「買い手」の間において、「売り手」のみが専門知識と情報を有し、「買い手」はそれを知らないというように、双方で情報と知識の共有ができていないこと状態を「情報の非対称性」という。貸出取引において、貸手(銀行)は、借手(企業)が将来返済可能であるか否か判断する必要がある。しかし「借手は、自分の返済能力をよく知っているが貸手は借手のことをよく知らない」という問題が生じる。このことにより、中小企業金融において「貸出を行わない」、あるいは「条件(担保・保証等)を厳しくする」ということが起きる。

このように、中小企業と銀行の間には、情報の非対称性が大きく、融資審査においてはこの非対称性を埋めることが必要となる。その情報の非対称性解消のために現在、リレーションシップバンキングや事業性評価という取組みが注目され各金融機関が取組みを強化している。

 

 

4章:リレーションシップバンキング、事業性評価について

 

(リレーションシップバンキングについて)

リレーションバンキング(以下、リレバン)については、必ずしも統一的な定義は存在しないが、金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより顧客に関する情報を蓄積し、この情報を基に貸出等の金融サービスの提供を行うことで展開するビジネスモデルを指すことが一般的である。ここで言う情報とは、財務諸表等のハード情報よりも経営者の資質や業界内での評価や技術力などといったソフト情報を指す。リレバンの機能を発揮することができれば、以下のメリットを享受できるとしている。

①貸出にあたっての審査コスト等が軽減されることにより金融の円滑が図れる。

②信用リスクを適切に反映した貸出の実施や借手の業績が悪化した場合の適切な再生支援により、貸手借手双方の健全性の確保が図られる。

 

一方で以下のデメリットがある。

①経営内容、事業の成長性などの中から得られる定量化が困難な情報を活用した融資が十分に行われず、むしろ担保、保証に過度に依存する可能性がある。

②金利水準からは正当化できない信用リスクの負担、採算性を離れたサービスの提供が行われる。

つまり、リレバンが定着すると情報の非対称性の緩和が図られ、中小企業金融に有効なビジネスモデルとなる一方で、金利が下がる局面において、過剰なコミットメントコストを金融機関が負担することで収益力や財務が弱体化し、将来的に適正なサービス提供が困難となる可能性があるということである。銀行は、信用リスクに見合った金利や手数料の負担を求めつつ、企業に対し負担以上の付加価値の高いサービスの提供が必要になる。今後、双方にメリットが享受できる運営が求められる。

 

(事業性評価について)

「事業性評価」という言葉を用いたのは、2014年の閣議決定「日本再興戦略」である。日本経済を成長軌道に乗せるには、日本経済全体の生産性の向上と稼ぐ力の強化が必要であるという認識の下で戦略が策定された。その策定の一部に「地域金融機関等による事業性評価を評価する融資の促進等」という項目が設けられ、国の旗振りの基、本格的に事業性評価が注目されるようになったのである。

事業性評価とは「金融機関が、現時点での財務データや、担保・保証にとらわれず、企業訪問や経営相談等を通じて情報を収集し、事業の内容や成長などを適切に評価すること」である。また、借手企業の財務データや担保・保証に過度に依存した融資判断ではなく、借手企業の事業の内容と将来性を的確に把握することを目的としている。しかしながら、実際の現場においては、取組み状況は芳しくない。

 

上記、グラフから依然として代表者保証による融資や保証協会付き融資、担保付き融資が大半を占めていることが確認できる。事業性評価をするよう促してきたが実際は、代表者保証、担保が無いと貸せないという認識が残っている状態である。

 

日本型金融排除について

日本型金融排除とは「十分な担保・保証のある先や高い信用力のある先以外に対する金融機関の取組みが十分でないために、企業価値向上ができず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況」をいう。「十分な担保・保証」や「高い信用力のある」企業については、借入ができることは当然であって、その優良先のみの貸出だけでは、単に金利引き下げ競争が起きるだけである。つまり、「取組み先に偏りがないか」ということである。取組みやすい企業を選定し、実際に事業性評価を必要とし、支援が必要な企業への対応ができていない状況にある。本来、「アドバイスとファイナンス」の提供が顧客企業の価値向上に繋がり、企業価値の向上が金融機関の安定した収益の確保につながるという好循環をもたらし、金融機関と顧客との「共通価値の創造」の構築こそが地域経済の活性化につながるという考え方が「日本型金融排除」なのである。

 

「日本型金融排除」のイメージ図」

出典先:金融庁HP

 

 

5章:企業先6先へのインタビュー

    

上記内容よりメイン行選択理由の中で「創業当初の取引銀行だったこと」や「支店長、役員の訪問があること」、「情報を提供してくれる」などの回答が多い。また一方で銀行の担当者に対する不満な発言も一部確認できた。

 

①担当等の訪問があるが、訪問の度に銀行商品の売込みをしてくる

②担当者が若く、安心できない

③事業、経営への関心が低い

④業界への知識が低い

 

その他意見として、

①借りたら返済をしないといけないから大変

②返さなくても良いなら、資金を借りたい

 

「メインバンクは必要ですか」との問いに対し、

①得意に必要ない。利用をしてメリットを感じる銀行と付き合いをしたい

②メインバンクとして利用をしてもやっていることは他行と同じだから、必要ない。どこの銀行も大きな差はない。

 

インタビュー(面談)を通して、銀行は取引企業対してメインバンクとして訪問や貸出を行うが、それ以外の付加価値のついたサービスは提供できていない。それどころか、担当者への知識不足や売込み営業へ嫌気を感じている。このままの営業体制では、企業と銀行の関係改善は見込めず、上記内容で説明をした「共通価値の創造」などできるはずがない。まずは、売込み営業をやめて、企業と対話できる人材を育成すること急務である。

 

 

6章:金融仲介機能ベンチマークで見る沖縄銀行との比較

金融仲介機能ベンチマークとは、金融庁報道資料によると「金融機関が、自身の経営理念や事業戦略等にも掲げている金融仲介の質を一層高めて行くには、自身の取組みの進捗状況や課題等にについて客観的に自己評価することが重要である」ことから「金融機関における金融仲介機能の発揮状況を客観的に評価できよう多様な指標」を策定した。これが、金融仲介機能ベンチマークである。 ①金融機関の自己点検・評価、②自主的開示、③対話の実施が目的となる。

 

当行(琉球銀行)と沖縄銀行の共通ベンチマークで比較

 

<琉球銀行>

 

共通項目2 経営改善支援状況 (単位:件)

 

共通項目3 創業への支援先数 (単位:件)

 

共通項目4 ライフステージ別の融資先数 (単位:件)

 

<沖縄銀行>

共通項目1 メイン先数・メイン先残高 (単位:件、億円)

 

共通項目2 経営改善支援状況 (単位:件)

 

共通項目3 創業への支援先数 (単位:件)

 

共通項目4 ライフステージ別の融資先数 (単位:件)

 

上記の結果から、当行(琉球銀行)は、沖縄銀行に対し、H29年3月期の実績でメインバンク融資先数(単体)▲107先、メイン先の融資残高で▲675億円、条件変更数▲335件、創業支援先数▲225件となっている。この結果から、当行(琉球銀行)が県内中小企業への「アドバイスとファイナンス」への取組みが弱いことが確認できる。県内のリーディングバンクとしての役割すら果たせていないことになる。この状況を踏まえ、下記の4つの内容を提言したい。

 

①「ソリューションを提供できる人材の育成(ビジネススクールの内制化)」

現在のOJTプログラムでは、横並び教育により育成までに時間を要する。

また、プログラムに甘えた人材が多く競争力に欠くことから、ビジネススクールの導入により志ある者の育成スピードの強化を図り、経験を積める場を提供する。

②「各支店長の責任を明確化し、決裁権限の委譲を行う(本部主導型の脱却)」

支店長の貸出権限が小さく、決裁までのスピード間に欠くことが多い。資金は、必要な時に必要な金額を提供してはじめて意味をなすため、現場(支店)の意見を反映できるよう支店長の責任を明確化し、決裁権限を委譲する。

③非対面型営業から対面営業型の体制へ(来店を促す、訪問を行う)

現在、窓口の効率化や自動審査(スコアリング)が進み、来店客数が減少傾向にある。活きた情報は、人との接触(面談)を通じて得られるため、支店内部で面談を増加できる体制や訪問を通じて面談できる体制の構築が必要である。

④企業とのコンサルティング契約

銀行自ら企業とコンサル契約を行い、企業のモニタリング強化を図る。入口の分析、出口の戦略立案までをパッケージ化し、手数料を受領。より企業とコミットメントできる体制を構築する。

 

 

まとめ

国を上げて取組みをしている事業性評価、ローカルベンチマーク、金融仲介機能のベンチマークは、あくまでも企業と金融機関との対話のツールに過ぎない。重要なことは、金融機関がいかに深い対話ができるかどうかである。事業性評価を活用できるレベルの対話を企業との間で行い適切なアドバイスをし、貸出に繋げていかなければならない。少子化、超高齢化が進む日本において現状の貸出スタイルでは限界がある。つまり、銀行の持続的な経営の背景には、企業の発展が欠かせない、金融機関が企業価値の向上等に貢献しなければ、銀行自身の発展はないと言っていい。

 

私は、今回の担当企業へのインタビュー等を通して、業界、業種への知識不足を痛感した。また金利競争では無く、面談を通して信頼関係を構築することや企業が求めていることへの共感を通して必要なソリューションを提供することが今後の銀行経営において必要なことだと感じた。名ばかりのメイン行では無く、名実共に、企業から信頼され、必要とされる銀行、行員にならなくてはならない。

今後、必要とされる行員となる為に、各企業の現場に出向くことや商品に触れること、業種・業界の商流、風習への理解を深めることを意識したい。また、マーケティングやブランディング等々への知識を深め、企業訪問時には企業が求めるソリューションの提供をすることや経営について一緒になって考えることができるパートナーになれるよう務めたい。

 

<参考文献>

石川英文 著「地域中小企業向け貸出市場の現実」

〜中小企業と金融機関の借入・貸出関係に関する経済分析〜

谷地宣亮 著 「地域金融機関による事業性評価と2つのベンチマーク」

蟻川靖浩・宮島英昭 著 「銀行と企業の関係:歴史と展望」

2017年金融庁アンケート

https://www.fsa.go.jp/singi/kinyuchukai/questionnaire/20171025/01.pdf

琉球銀行 金融仲介機能ベンチマーク

http://www.ryugin.co.jp/wp-content/uploads/2017/07/discro2017_01.pdf

沖縄銀行 金融仲介機能ベンチマーク

http://www.okinawa-bank.co.jp/_files/00028813/tiikimittyaku_2903.pdf

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