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修了生論文

≪経営理念をつくる≫をターニングポイントとして ~『ビジネススクールの学び』と『居合道の修業』を活かすために~

名古屋校(N-college) 長谷川 善久

【1.動機】

(あ) 平成28年10月創業社長から引き継ぎ、二代目社長として就任しましたが、当社は創業より現在まで経営理念等々がなく、その必要性を感じていました。経営理念をつくるにあたり考えました。

経営理念・企業理念というものは借り物ではだめで、社長の人生観・倫理観・死生観・哲学によるものでなければ意味のないものになってしまいます。

 

(い) 私自身は大学入学時から今日まで、全身全霊を、居合道修行してきました。その永年修業してきた居合道は、現代社会に必要とされるのか。日常生活や企業経営にどのように活かすことができるのか。との毎日の自問自答に対して、ビジネススクールに入学したきっかけでもある経営理念をつくることに機会を得て、テーマとしました。

 

(う) 居合道についてあまりご存じない方も多いと推察しますので、少々説明します。

居合道は室町時代末期(永禄年間)林崎甚助源重信(はやしざきじんすけみなもとしげのぶ)が奥州で仇討の為に編み出したもので、その後は江戸時代に入り土佐藩では、林崎甚助源重信から数えて七代目となる長谷川主税助英信(はせがわちからのすけえいしん)が、伝えられた重信の業にさらに工夫を重ね、長谷川流・長谷川英信流と呼ばれるようになりました。私が修業しているのはこの流れの無双直伝英信流(むそうじきでんえいしんりゅう)です。

九代目の林六太夫守政(はやしろくたゆうもりまさ)は、土佐藩主の料理人頭で、以来英信流は山内藩の藩外不出のお留流(おとめりゅう)として土佐藩に伝わりました。

土佐藩十五代藩主の山内容堂(やまうちようどう)公は、居合の名人であり、その孫である山内豊健先生は京都在住十年間の間に京都に山内家の『殿様の居合』を広めました。私の師匠の故大森政雄先生は、京都山内派の道統を受け継いでいました。私は、全日本剣道連盟から平成24年居合道八段位を拝受し、山内容堂公の曾孫である山内豊臣氏から平成28年に証書を賜りました。

 

以上の事をふまえて、まずは、ビジネススクールでの学びや気づきと、私の武道修業で得た訓え(おしえ)との共通点を探り考察していきます。

 

 

【2.当社の企業概要】

花文貸物装飾株式会社(はなぶんかしものそうしょく)

イベント会場設営・ イベント物品レンタル業

昭和36年創業・昭和44年法人設立

従業員40名

 

 

【3-1.ビジネススクールでの学びと居合道英信流山内派の稽古と朱子学ついて】

 

≪ビジネススクールでの学び≫

a.『まず全体の概要を知る。まず勉強する。』

b.『いろいろな理論を研究し、その時代背景を探り自分の会社に落とし込みを行う。』

c.『考えて、考えて、考え抜く。』

d.『学んだことは「いい話だった。いい講習会だった。」に終わらせずに、必ず何かしら実行しなければ意味がない。』

e.『知っていることと、やれている事とはまったく違う。』

 

土佐藩は朱子学となじみの深い土地柄であり、その朱子学的なものの考え方と山内派の居合術(昔は居合道ではなく居合術・単に居合と呼ばれていました。)の稽古との間には相通ずるもがあります。

武家の子弟が武術を稽古し始めるのは概ね十四~十五歳くらいとされており、それ以前の幼い段階から儒教を学び、十五~十六歳になると儒教を深く勉強し始めています。

江戸初期、中期の資料によれば武家の子弟教育は武芸よりまず学問であり、武芸は十五歳前後から始めるとされています。

朱子学の核心は『先知後行』の実践倫理であり、陽明学の『知行合一』に対する言葉です。

 

 

【3-2.戦う相手について】

≪ビジネススクールでの学び≫

f.『競合会社は敵ととらえるのではなく、自社を成長発展させてくれる存在であると考える。』

 

居合の目録に載っている業については、「技術的に伝えたい肝心なこと」は変わらずに伝え続けられて今日に至っていると考えられます。

伝書である「根元の巻」を見ると「生死一体戦場浄土成」と言う言葉が見られ、初期の英信流が討つものも討たれるものも共に往生するという中世武士の往生観をもつものであったことが読み取れます。言い換えれば、その当時の人々にとって居合は相手も自分も共に往生するための技術として受容されていったと考えられます。

山内派の伝承は「知・仁・勇」と言うことを述べ、中世的な、「共に往生するため」の居合という要素に加え、人間の社会をどう生きてゆくのかを学ぶものとして居合をとらえるようになっています。

かつて中世の武士達が「生きる者(=討つ者も死ぬ者(=討たれる者)もついには共に往生する」という意味で「生死一体」と言っていたのに対して、山内派に残る江戸期の伝承では「殺す・殺される、即ち死を見つめることによって生きると言うことを学ぶ」という新しい「生死一体」観を後世に伝えようとしていると言えます。

 

≪ビジネススクールでの学び≫

g.『まずトップが覚悟をすること。そうでないとその後に続くことが出来なくなる。』

 

『居合など、いつやめてもよい』という口伝があります。技術的な要素でいえば「執着しない」ということを教えているのでしょうが、最終的に自分が生きていることの意義を体感するための居合であり、もし、それが体感できたならば、次は自分がどう生きるべきか、何をすべきかを見いだし、さらに不退転の覚悟でそれをおこなうことができたなら、その人にとっての居合は、「その使命を終えた」とさえいえるというところまで気が付いて欲しいがための言葉であると考えます。

それ以外に居合を続けていくことに意義を求めるとしたら、それは「自分の生きていることの意義を捜す一つの方法としてこういうのもあります」ということを社会に提示するため、という意義付けができます。

そしてまた自分自身にとっては、自分のなすことを見失いかけたり、不退転の覚悟が揺らいだときに、それを再確認するものであると考えます。

以上のように見てくると、山内派の居合の特色というのは、実はその技術にあるのではなくて技術の受容のしかた、「居合とは何か」という、居合のとらえ方、居合に期待する精神的なものは何かということにあると言えます。

山内派にとって「居合道」ではなく、「居合術」であるのは今更新しく「道」などと言わなくても「術」には「みち」の意があるということもありますが、なによりも居合そのものはあくまで技術であり、道は技術の中にあるのではなく自分自身の中にある、と考えるからです。

極端な言い方をすれば、学ぶべき「業、技術」は全く変化をしていないのに、その業と技術を学ぶ意味というのが時代によって変わっています。

とは言え、江戸期の先人達は全く中世的な発想を否定したわけではなく、それはそれで学んだ上でその時代の中で改めて「英信流」を学ぶことの意義を模索し、その結果と先人の心とを合わせて伝えている、ということが伝書や換え業、口伝などの伝承を学ぶことによって浮かび上がってきました。こういう姿勢はあるいは土佐に入る前の英信流にはなかったのかもしれません。

しかし、山内派がこういう居合の学び方を伝えているのは、居合を単なる戦闘技術に終わらせるのではなく、自分が今日を生きる上で生きることに何の意味があるのかを考えるものとして、更にいえば自分が生きていることの意義を見いだすための一つの方法として居合を後世に伝えようとしているからです。

 

 

【3-3.STPと居合の極意】

 

≪ビジネススクールでの学び≫

h. 『自社の強みを徹底的に尖らせ、他社の追随を許さないレベルにまでの強みに高める。』

i . 『S (Segmentation)T(Targeting)P (Positioning)は、一朝一夕ではできない。』

 

居合の極意は『鞘の内(さやのうち)にあり』と言います。つまり刀など抜かずとも勝つことが出来る人間性を身に付けるまで心と技を修業しなさいということです。強みをより洗練させ、弱みを克服していければ、戦う必要などないということです。しかしそれまでには、一生に一度抜くか抜かない刀法を一生かけて修業するわけです。戦わずして勝つまでには相当な覚悟と努力の継続が必要とされます。

 

 

【3-4.私自身のMOT  (Momennt Of Truth) 】

ビジネススクールのリーダーシップの研究発表で、『リ―ダーシップ「アメリカ海軍士官候補生読本」』について研究発表しました。

その中で『リ―ダーシップを得る道は、長い困難な旅路である。』

という一文に出会いました。さらに続きます。

『それは人間の人格、思想、目的および生活態度のすべてを直接視野の中に把握するものである。(中略)とりわけそれには、正真正銘の人格と偉大な人間の理解および共感と必要であろう。』

これはまさに私が永年にわたり修業してきた居合道と同根同意であり、今までに培ってきたことを、さらに持続発展させ企業経営に活かす・実践することに他ならない。ということを確信した瞬間でした。

 

 

【4.経営理念作成のキーワードと過程】

以上をふまえ、経営理念をつくるにあたって、先代が大切にしてきた

(1)『お客様に喜んでもらうこと』

(2)『正しい気持ちで正しく行動すること』と

ビジネススクールでの学び・気づきと私自身が武道から学んだ大切にしている訓えである

(A)『まず学び、行動する』

(B)『トップの覚悟』

(C)『共に生きる』

(D)『日々の積み重ねの大切さ』

をキーワードとして原案を作成して、1月、2月、3月と毎月1回計3回執行役員予定者と相談し、修正を重ね、3月に1回、居合道高段者で企業経営している友人と当社次世代リーダーにみせて意見を聴き最終的に以下のように作成しました。

 

 

【経営理念】

『イベントを通じて顧客の感動と笑顔を追求し、社会に貢献する。

共に感謝され信頼される人間集団と物心両面の幸福をめざす。』

 

~感謝され感動される仕事と笑顔あふれる人間形成を目指す~

 

※1. 事業の目的、意義を明確にし、顧客・従業員の視点をいれ、公明正大で大義名分のあるものとしました。売上は社会から必要とされている数値ととらえ、これを実現するには、日々のたゆまぬ努力が必要となりますので、社是を次のようにしました。

 

 

【社是】

現状打破・創意工夫

『昨日の我に今日は勝つべし』

 

~現状維持は衰退の始まり~

 

※2. 柳生石州斎(やぎゅうせきしゅうさい)の言葉です。会社や自分自身の足りないところに気づき、現状に満足することなく創意工夫を重ね、知らないことや出来ていないことは、知っている人、他者(他社)に謙虚に学ぶ。社是を実現するための日々の考え方・行動については行動指針で、次のようにしました。

 

 

【行動指針】

『千鍛万錬(せんたんばんれん)』 「千日の稽古を鍛(たん)とし、万日の稽古を錬(れん)とする」

 

~日々の小さな積み重ねが革新性につながる。~

~考えて、考えて、考える。行動する。~

 

※3. 『千鍛万錬』「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とする」は、宮本武蔵の訓え(おしえ)で、もともと刀剣を製作するときの「鍛錬」という言葉を,千日(約3年)正しく繰り返し創意工夫を重ねると量質転化が起こり、万日(約30年)続けると、もはや名人の域の知識・識見・人格となり、他の追随を許さぬ存在となるという意味です。

そのために会社としての社員教育方針を次のようにしました。

 

 

【社員教育方針】

『敬天愛人(けいてんあいじん)』

 

~会社は人間形成の道場である。~

~考え方が人間としてよいか悪いかを判断基準とし、信頼される人間形成に寄与するため根底には愛情をもって行いOJT各場面で知識の習得・技術の向上、人間形成をはかる。~

 

※4.『敬天愛人』という言葉は、西郷隆盛が好んで使いよく揮毫(きごう)した言葉で、「天を敬い、人を愛する」と読みますが、この言葉には、自己修養の為の指針(目標)と、信仰的でもある天命に対する自覚という考え方が含まれています。

 

『薫習(くんじゅう)』

 

~いつの間にか身に付く段階的習得~

 

※5.『薫習』は、お香などが衣類に沁みるがごとく、その空間にいれば自然と習得されていく。という意味です。その空間づくり・雰囲気づくりを大切にします。

 

以上としました。経営理念等々をつくるなかで、共に働く、人材育成・社員教育の重要性をあらためて認識することとなりました。

 

 

【5.まとめ】

永年、居合道を修業してきて、技を磨き、勝負にとことんこだわり続けてきましたが、先人達はその先に何を求めていたか?何を求道していたのか?を毎日毎日、自問自答してきました。

今までは居合道のお弟子さんには礼節や所作を厳しく指導し謙虚さを求め、考え方が行動となり結果となることを指導してきましたが、従業員には趣味の世界のものを会社に持ち込むことは全く別物と考えていて、会社での実践という面では皆無にちかい状況でした。

居合道大会で覇を競いあうこともなくなった現在、このタイミングで社長就任し、ビジネススクールで学び得たことは、しっかりと日常生活や会社経営に落とし込み、企業発展のために活かさなければ意味がないことを確信いたしました。

 

その根本の覚悟をまずは実践することの第一歩として「経営理念」等としてここに記し、正しい考え方での日々の積み重ねが特に重要であることを、今後三年間は、朝礼等での形だけの唱和ではなく、日常業務の中で直接、幹部会議での幹部社員への共有を図り、営業会議・ミーテイング・懇親会等々の機会ごとに、従業員全員へ自分自身の琴線に触れた言葉で諭すように説明していきたいと考えています。

技である

1.「財務分析」については自分自身がより理解を深め、数字が共通の言語となるように。

2.「リーダーシップ能力の開発」については、一生勉強の覚悟のもと「PM理論」を理解の上、現状の能力を把握したうえですすめる。

3.「ファイブフォース・SWOT分析」については営業での個々の認識を会社全体で共有させ「STP戦略」「マーケティング戦略」と連動させながら営業個々の得意とする式典・展示会・スポーツイベント・出張パーティごとに作成する。

 

以上の事をそれぞれプロジェクトチームにより、社員相互の信頼関係を深めながら、今後ひとつひとつ確実に実施していきたいと考えています。

 

 

【6.最後に】

100年続く企業をめざしその根幹として経営理念をつくり、その理想実現のためには、自分自身と全従業員が、真剣勝負の心持ちで、毎日毎日、日々の積み重ねを大切にしていく必要があります。

毎日一本ずつ木を植えていき、やがて林となり森となり水をたたえ、空気が澄み、志を同じくする社員が笑顔で集う。そんな理想を求め、今後ビジスクールでの学びをひとつひとつ考え実践していきます。半年間のご指導ご教示ありがとうございました。

共に学び刺激を与えてくれたスクール生のみなさんに感謝しています。

今後ともご教導宜しくお願い致します。

 

 

参考文献『京都山内派無双直伝英信流居合術』 編集 山越正樹 京都山内派出版局

『古流居合の本道』 岩田憲一 著 スキージャーナル㈱

『リーダーシップ「アメリカ海軍士官候補生読本」』生産性出版

『心を高める 経営を伸ばす』 稲盛和夫 PHP研究所

『木を植えた男』ジャン・ジオノ原作 あすなろ書房

『南州翁遺訓』以上より引用加筆

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