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修了生論文

自社分析と経営戦略

福岡校(F-college) 但馬 史晴 (株式会社ダイナン )

研究動機

当社は、衣料の製造業を営み現在45期を数える。典型的な労働集約型企業で、衣料の製造のみを請け負う、委託生産の形式を取っている。

この20年間の日本の縫製工場というと、海外生産におされ経営が弱体化し、物質的・人的投資ができない、高齢化が進むといった状況にある。

当社も例外ではなく、海外(中国)生産にも取り組み、国内の設備投資や従業員の採用などは補完できた状況にはあるものの、国内の受注条件は厳しく、当時の経営者自身も「海外があるから運営できるのだ」と従業員に言っているほどであった。そのためか、どこか職場の雰囲気が暗く組織に活気がない、従業員教育をする場・学習する場がない、教育・学習の場がないので業務改善もしない、5Sもできていない、従業員採用はするものの離職率は高い、昇給ができないといった状況にあった。

そういった状況の中、私が会社代表になり世代交代が行われると同時に、経営理念や毎年の取り組みテーマを掲げ、組織の再構築、製造工程グループ別での採算制度を導入することで売上と経費の見える化、従業員が成長のために勉強する機会に投資をし、業務改善と会社体質の改善を図っている最中である。

改善の先には、当社が社会に対してもっと付加価値を与えていかなければならないという想いがある。そのことを今までの取り組みと業界の概観を振り返ることで、取るべき戦略を考察したい。

 

 

第一章 自社分析

 

1. 財務状況

当社の財務指標の一部を下記に示す。

名称 第42期 第43期 第44期
売上高総利益率
売上高営業利益率
インタレスト・カバレッジレシオ
自己資本比率
流動比率
固定長期適合率
総資産利益率(ROA)

 

この3期のうち、売上高総利益率と売上高営業利益率に着目すると、売上高総利益率は上昇傾向にあり、売上高営業利益率は下降傾向にある。

売上高総利益率の上昇の要因をここでは2点あげたいと思う。1つ目は、価格決定=見積り提出時の緻密な原価計算による値決めにあると考える。製造物の各工程を厳格に時間計測し、不採算はもちろん除外し、低採算になる状況を早い時点で認識し、予めその対策を立てていくということに注力した。

2つ目は、製造工程を区分し、区分したグループ毎に売上と経費の金額の見える化を図るとともに時間当りの採算性を出していった。また、その数値が時間を置かずにすぐに見ることができるようにシステムを構築した。このシステムでまず初めに従業員が手軽に取り組むことができたのは、経費の削減である。どんな経費があり、単価がいくらかがわかるので、そこに策を打てば何らかの削減になる。行動した結果がすぐに表れるため、やりがいもあったようだ。このシステムを運用するにあたり、「売上は最大!経費は最小!!」という合言葉を掲げて取り組んだ。結果、数字を使って議論できるようになったことと、経営者感覚がいくらか身についた従業員も現われるようになった。

売上高営業利益率について下降傾向にあるのは、建築物の劣化による修繕費の上昇と様々な改善活動を行っていくために、その方法やPDCAを回していくための方法について外部の指導も入れたため、直近2年間はその費用が計上されたためである。

 

 

2.組織と風土

今から6~7年前に取ったアンケートがある。その中に入社間もない従業員の回答で「従業員同士は仲がいいのだが、何となく職場が暗い」という回答があった。入社間もない従業員の回答は当っていた。海外生産の勢力におされ、国内の厳しい受注条件に長い間さらされていたせいだろうか。従業員は、自分の仕事に誇りが持てず、挨拶もきちんとできない、5Sの重要性もわからない、自主的・積極的に動こうとしない状況があった。当社の歴史をさかのぼると経営理念がなかったわけではなかったが、いつの間にか忘れ去られそれを叫ぶ人もおらず、何のために仕事をしているのかを見失っている感があった。そこで、まずはほぼ横並びだった組織をグループ毎にリーダーを据え、再度経営理念を掲げ、具体的な行動指針としてまず「挨拶をしよう!」という初歩的なところから始めた。そしてことあるごとに、「日本一の縫製工場になろう!」と訴えた。5Sに作法(S)をプラスして、6Sを掲げた。整理整頓に取り組んでいるか、それが保たれているかをチェックするチームを結成し、取り組んでもらった。業者に頼んでいた社内共有地の清掃もやめ、全従業員で取り組むことにした。

個々のスキルUPのための技術向上チーム、ムリムダムラをなくすための業務改善チーム、従業員間のコミュニケーション活性化のためのレクリエーションチームを結成してもらい、各々に取り組んでほしい内容を伝え、PDCAを回しながら活動してもらった。

その結果、多能工化や作業スピードアップするための独自の計測方法といったノウハウが生まれ、展示会シーズンではそのサンプル作成のために、多くの残業で対応していたサンプル作成も業務改善・計画化されたことにより残業時間が大幅に減った。趣向を凝らしたレクリエーションが行われ、事後楽しめたかどうかのアンケートを取り、次回の活動につなげるレベルまでなった。社内のみならず社屋周りの共有地も全従業員で清掃するようになった。全体として、何か問題があれば、集まって話し合うようになり、自主的・積極的に行動する従業員が増えた。

まだまだ成長の段階でもあり、これで終わったわけではなく、これからも強固な組織作りとよりレベルの高い風土づくりは続けていく。

 

 

第二章 アパレル産業の概観

 

1.アパレル製品の国内供給量、国内生産、国内市場

上記の章で自社の財務状況と組織と風土について述べた。それらは内部的環境であったが、今後の課題を認識するために自社の置かれている外部環境について調べてみた。

それが以下の日本国内のアパレル産業の概観である。

下記、<グラフ1>はアパレル製品の国内供給量、国内生産量、国内市場を時系列に表したものになる。

この表で定量的にいえることは、1990年時と2014年時を比較した時、<グラフ1>

 

A. 国内市場は、約15兆円規模だったものが、約10兆円と3分の2になっている。

B. 国内供給量は、約20億点だったものが約40億点と約2倍になっている。

C. 国内生産(日本製)は、約10億点を生産していたものが、約15億点になっている。

AとBでいえることは、表内の期間で国内市場は3分の2に減少したのに対し、供給量は2倍となっていることから供給製品単価が3分の1になっているということが推察できる。

Cからは、国内市場における国内生産の割合は、わずか3%で、その割合は非常に低いことがわかる。

製品単価が下がり、国内生産量が少なくなる状況から、当社がどの様に受注を確保しているのか、単価・売上を維持していけたのか下記に分析する。

 

2. 国内生産の事情と自社の対応

(1)分業制

日本におけるアパレル製品のものづくりは、一般的に糸や生地の素材製造に始まり、製品の企画~製造~流通(販売)の期間が長く、しかもそのサプライチェーンの中で水平分業体制が築かれていることが特徴である。

さらに、製造だけをとってもその中に分業体制が存在する。

会社単位でみると、ニット(編物)製品のみを製造する会社、布帛(織物)製品のみを製造する会社とが分かれていることが多く、分業制であるということがいえる。

またそこから細かく分類され、ベビー・子供服を製造する会社、スポーツウェアを製造する会社、メンズ/レディースカジュアル系を製造する会社、フォーマル系を製造する会社、インナー系を製造する会社などに分かれている。

さらには、製造工程も分業制が存在する。

製造工程を簡素に分けると、

D. 裁断(生地のカッティング)工程

E. 2次加工(刺繍・プリント・転写など)工程

F. 縫製工程

G. 仕上げ工程

H. 検品/出荷工程

とがある。

昨今では、DとFとGが分業制になっていることは少ないが、2次加工や検品といった工程は、いまだに根強く分業制でもある。

当社は、この分業制を排除する、すなわち素材やアイテムを限定せず受注を行い且つ製造もD~Hまでを社内一貫体制を敷くことで内外的にメリットを出している。内部的には、受注範囲が広いため全体の国内生産が減少していくなかでも、それをカバーする受注を獲得しようとしている。外部的には、製造範囲が広いことで、顧客からは選択されやすい条件であると考える。

内外共通のメリットとしては、製造の一貫体制を敷いていることで、製造進捗や納期、品質管理といった管理情報が数社に跨らず一元化できる。また、製品の移動が少ないので生産リードタイムも短く、運送費などが製造コストへ転嫁できる。

受注範囲を広げる、管理のしやすさ、生産リードタイムの短縮の3点で受注の確保、単価維持に努めている。

ただ、製造上において素材やアイテムの制限を受けないようにするには、それぞれの特性にあった製造機械を多く保有しなければならないので、設備投資・維持にコストがかかることと、設備稼働率が高くないといったデメリットもある。

 

(2)季節性

日本には春夏秋冬と四季がある。おおよそのアパレルは、春/夏、秋/冬の年2回の企画を組み、その括りで製造も行われる。そのため製造会社はどうしても、夏物から秋物に切り替わる時期と冬物から春物に切り替わる時期に、繁閑差がでてくる。さらに、顧客が複数存在した場合、どの顧客も製品納期が同じため、納期遵守のために多くの残業時間で対応していたかと思うと、急に製造ラインが空いてしまうという極端な繁閑差がでてくる。

この点について、当社は季節性の影響を受けにくく、且つ平準化した製造ができる製品を取り込んでいる。その例として、サポーターや靴のアッパー部分や女性用布ナプキン、インナー系の製造がある。サポーターについては、ある特殊な症状において予防・痛みの緩和に役立つ製品で、医療品ではないが消費者は半医療品的な使用をし、一定層のリピーターが多い。靴については、子供用の靴の製造を取り組んでいるが、子供は成長が早いこと、消耗も早いこと、靴はサイズ展開が細かいことからある程度のロットが見込める上、季節的要因を受けにくい。女性用布ナプキンについては、使用上の季節性がないことはもちろんのこと、ファッション性・流行性といった点でも影響が受けにくいため、シーズン毎の企画の必要がなく、企画が組み直されるために発生する空白がないことで通年での製造が可能となる。

上記のような対応で、平準化した製造と閑散期の売上確保に努めている。

 

 

第三章 SWOT分析

 

1.自社の強み・弱み・機会・脅威

上記の章でアパレル産業を取り巻く環境から、当社がどのような対策をしてきたか述べたが、ここで自社の強み・弱み・機会・脅威について、SWOT分析を用いて認識したいと思う。

 

2.分析=戦略の整合性

SWOT分析において、当社の最大の脅威は、自社で需要を生み出せないことだと考える。脅威の排除に最大限に努めることとした場合、自社製品を自分たちで売ることを考えたい。SWOT分析の強み=小ロット対応が可能ということから、少量の扱いから開始できるため、リスク(不確実性)を最小限にとどめ、まずは「0」→「1」と生み出すことを考える。それをするには、最終製品は作れるが、それまでの過程のデザイン力や素材の取り扱いができないといったギャップを埋めなければならないし、機会を的確にとらえることが重要と考える。日本市場や日本事業にばかり目を向けているが、中国に目を向けてみるとどうなるだろうか。

 

 

第4章 考察

製品の最終形を作れるなどといった、強みを最大限に生かすことに加え、中国に拠点があることを最大の「機会」ととらえ考察する。

中国において、アパレル資材は、日本のような複雑な商取引の制約が少なく、容易に調達することが可能であり、小ロットやこだわりの素材の注文にも対応する対応力がある。

ネット商取引(EC)が年々取引額を伸ばしており、まだその成長は継続することが予測され、家賃の高い上海市に実店舗を構える必要もなく、ある意味成長市場に身を置くことができると考える。

1次情報になるが、中国では、子供が産まれると今まで一人っ子政策がしかれていた都合上(現在は条件を満たせば二人目まで可能)、そこに割く手間・費用は大きなものである。当社現法においても、私が出張の際には、よく日本の粉ミルク・紙おむつ・ベビー用品を持ってくるように一般従業員から要望される。決して所得が高いとはいえない層でもそのような状況にある。投資銀行に勤めている友人(中国人女性)は、現地において非常に高い所得層であるが、そういった層も同じ要望があることと、子供関係の買い物はほとんどをネットで行い、その価格は、日本と比較しても驚くほど高いものを購入する現実がある。SNSで、同じ病院で出産し友人となった母親には、よい商品の情報を交換し合い、評価・購入をしている。

現状の中国において、日本製品は、安心・安全といったプレミアがあり、その価値は金額には代えがたい事情が特に子供を対象にしてある。アパレルに関しては、価格と同等に品質や商品のバリエーション・デザイン性が重要になるであろう。

こういった状況から、自社製品を販売するとした時、セグメンテーションは、出産を控えたもしくは出産をし、これから子育てが始まる顧客群で、製品はベビー・子供服で比較的販売価格が高く設定できるものと考える。ターゲットは、子供には高くてもいいものを着せたいという価値観を持つ人々だと考える。

日本製品に求める安心・安全といった価値を当社中国製でも見出してもらうために、当社が製造している日本向けの製品に対してどのような仕様やこだわりをもって、管理や品質を担保しているかをうまくプロモーションし、正しく理解してもらうことが重要だと考える。

コストについては、サプライチェーンにおいて中間を全くゼロにできることと、既存の量産ラインに相乗りできる製造が実現できるのでコストリーダーと対峙できると考える。

日本における事業については、中国における自社製品の販売において中国にない役割を担ってもらおうと考えている。製品の構成や使用素材といったバリエーションの考案は、まだ優位性があることと、中国よりは成熟した日本市場を見渡せば、ヒントはたくさんある。日本にあって中国にない製品やその価値がある。日本と中国の地理的距離は近いが、流行は後追いの傾向(ファッションも)にあるため、その時間軸のズレを活かすことが有効的だと考える。直接的には中国の売上となるが、製品開発やより高度な製造方法といったグループとしてのシナジーが生まれるであろうことと、越境ECといった日本事業の活路につなげることができると考える。

 

 

謝辞

今回、F-COLLEGEという場で多くのことを考えさせていただきました。ロジカルシンキングから始まり、イノベーションや統計、マーケティング等、体力的には多少辛い時もありましたが、学べる喜びの方が勝っていました。

F-COLLEGEという学びの機会とご指導をいただいた原田校長に心から感謝申し上げます。

株式会社エフアンドエムとその社員の方々、ミックスカレッジの方々、そしてお互いに励まし合いながら勉強してきた、F-COLLEGEの同級生に厚く御礼申し上げます。

そして、4歳の双子がいるにもかかわらず、休日にF-COLLEGE&MIX-COLLEGEに快く送り出してくれた妻と我慢してくれた子供たちに感謝する。

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