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修了生論文

当社の現状分析と経営戦略

福岡校 (F-college) 坂上 宏一郎

1.動機

 

私は、熊本県に本社のある型枠工事業を営む会社で工事部長として工事全般の管理業務に携わっています。型枠工とはコンクリート建造物を形作る専門職のことです。1994年に型枠工として入社し、現場で技術を身につけました。1998 年より現場の責任者として 10年ほど九州各地で経験を積んだ後、2008年の末に本社勤務となりました。この頃はリーマンショックが起きた直後の事でした。この翌年から当社の経営は危機的事態に陥りましたが何とか乗りきることができました。そして 2013年に全国で深刻な技能者不足が表面化したことにより工事単価が上昇し財務面での改善は進み現在に至っております。今後も我々を取り巻く環境は大きく変化していきます。

恥ずかしい話ですが、これまでのような場当たり的な経営では今後やっていけないという危機感はあっても具体的なやり方がよくわからないという思いがありました。今回スクールのなかで経営戦略について学ぶ機会があり、現在当社に必要なものはこれだと考えたのがテーマ決定の動機です。当社の経営理念、ビジョンを以下に示します。

 

1-1.経営理念

①事業を通じて社会の発展に貢献します。

②企業の永続的な繁栄に貢献します。

③企業協力者の福祉向上、生活安定に貢献します。

 

1-2.ビジョン

『私たちは九州一の技能工集団を目指します』

 

 

2.企業概要

 

設立(創業) 昭和46年6月(昭和38年6月)
所在地 熊本県宇城市
資本金 2,000万円
事業内容 建築・土木工事における型枠工事業
営業エリア 熊本・福岡・長崎を中心とする九州各地
従業員数 35名

 

 

3.問い

 

建設業界、型枠業界および当社の現状分析を行い今後の経営戦略を策定します。

 

 

4.研究方法

 

建設業界の現状を調べ、「ファイブフォースモデル」による型枠業界分析を行います。次に内部環境分析として「SWOT」による強み分析を行い経営戦略を導きだします。

 

 

5.研究結果

 

5-1.建設業界の現状

建設投資は、東日本大震災からの復興等により 2011 年度以降より回復傾向が続いており、 2018年度の建設投資額は政府建設投資、民間建設投資とも 2017年度とくらべて同水準の 53兆 3,900億円となる見通しが出ています(図 5-1-1 参照)。

 

図 5-1-1 名目建設投資額の推移

出典(一財)建設経済研究所

 

建設業就業者数の推移を見てみると、1997年の685万人をピークに 2016年は492万人となり、ピーク時より 28%の減少となっています(図 5-1-2 参照)。

次に建設業就業者数のうち当社のような技能労働者についてみると、ピークは同じく1997年の455万人で、それ以降は建設業就業者全体と同様の傾向で推移しており、2010年からは、増減を繰り返しながら横ばいで推移しており、2016年においては326万人となっています(表 5-1-3 参照)。

 

図 5-1-2 建設業就業者数の推移

出典(総務省)労働力調査

 

表 5-1-3 技能労働者等の推移

(万人)

1997年 2010年 2016年
建設業就業者 685 498 492
技能労働者 455 331 326
技術者 41 31 31

 

出典(総務省)労働力調査

 

建設業就業者の年齢構成の推移をみてみると、55歳以上が約 34%、29歳以下が約 11%と全産業と比較して高齢化が進行しているのがわかります(図 5-1-4 参照)。

 

図 5-1-4 建設業就業者の年齢構成の推移

出典(総務省)労働力調査

 

5-2.「ファイブフォースモデル」による型枠業界の分析

 

表 5-2-1 ファイブフォースモデルのイメージ

 

 

表 5-2-2 ファイブフォースモデルによる型枠業界の分析結果

 

業界内の脅威
  1. 技能者の高齢化による生産性の低下(55歳以上の占有率35%、平均年齢47歳)。
  2. 若年技能者が少ない(29歳以下の占有率20%)。
  3. 入職者が減少している。
  4. 技能者育成に一定の期間(3年~5年)が必要である。
  5. 繁忙期と閑散期の波があり労働力の確保に苦労。
  6. 同業者間の価格競争。
  7. 社会保険加入による会社負担の増加。
新規参入者
  1. とび土工工事業者など他職の専門工事業者の参入。
買い手の交渉力
  1. 元請下請の関係上、価格交渉においては元請(顧客)が有利。
売り手の交渉力
  1. 木材、鋼材の価格変動。
  2. 繁忙期になると外注費が高くなる。
代替品・サービス
  1. 建物の構造がRC(鉄筋コンクリート)造からS(鉄骨)造を採用する現場が増加し、一現場あたりの型枠の工事量が減少(RC造=型枠工事量が多い、S造=型枠工事量が少ない)。
  2. PC(プレキャスト)工法の採用により型枠の技能が存在しない現場が増える(PC工法とは、工場で生産されたコンクリート製の構造部材を現場で組立てる工法。大型で単純な形の建物や超高層ビルに適している)。

 

 

5-3.型枠業界の分析結果の考察

型枠工事業界の分析結果を考察します(表 5-2-2 参照)。

業界内の脅威として、高齢化と若年技能者の減少が一番の脅威と考えます。新規参入者については、まず技能の専門性が高く育成に時間がかかるが挙げられます。また資材や土地、運搬車両、機械等の設備投資にかなりの資金が必要となります。この2点が参入障壁となり業界に与える脅威は低いと考えます。次に買い手の交渉力ですが元請下請の関係である以上、元請からの圧力はありますが、現時点では需要が上回っているので弱いと考えます。

しかし、今後需給バランスが逆転した場合の交渉力は当然大きくなります。次に売り手の交渉力ですが、木材や鋼材価格の変動については大きな影響はありません。また繁忙期の外注費の変動についても予測した単価で発注できており大きくはありません。代替品・サービスの脅威は今後大きくなると考えています。2012 年以降の技能者不足に対応するように S(鉄骨)構造、PC 工法の採用が進んでいます。今後の技術革新の方向性を認識して対応を考える必要があります。

 

5-4.当社の現状

当社の技能者の年齢構成比を全国の型枠技能者の平均と比較してみます(図 5-4-1 参照)。

大きな違いは55歳以上で全国35%に対し当社23%(12%)、29歳以下で全国20%に対して当社37%(+17%)となっており、年齢構成のバランスはとれていると考えます。

 

図 5-4-1 型枠技能者の年齢構成比

 

当社の直近5期の建物の構造別の売上比率の推移をみてみます(図 5-4-2 参照)。

RC(鉄筋コンクリート)造の物件は 44期(2014年6月~2015年5月)をピークの76%として、46期(2016年6月~2017年5月)には67%まで減少しました。グラフにはありませんが今期(2017年6月~2018年2月まで)は約55%まで減少しています。S(鉄骨)造は増加傾向となっており、現在の建設業の傾向と一致しています。その他というのは熊本震災関連の復旧および耐震補強等の改修工事が主となっています。

 

図 5-4-2 構造別の売上比率の推移

 

次に当社の顧客の規模別による売上比率の推移(図 5-4-3 参照)ですが、44期(2014年6月~2015年5月)までは大手・準大手元請(大手1社、準大手3社)と中堅元請(5社)だけでほぼ 100%占めていましたが、45期(2015年6月~2016年5月)、46 期(2016年6月~2017年5月)においては地場元請からの受注が約 17%ありました。これは熊本震災の復旧工事の依頼がきっかけですが、その後数件の新築物件も受注しています。大手元請は大型物件の減少傾向もあり受注の波が大きくなっています。

 

図 5-4-3 顧客の規模別による売上比率の推移

 

 

5-5.SWOT分析を用いた当社の強み分析

 

表 5-5-1 SWOT分析結果

 

強み(S) 弱み(W)
内 部 環 境 a.  施工管理技士10名(28%)1級技能士16名(45%)が在籍しており、施工管理能力、技術力共高い評価を得ている。

b.  年齢構成のバランスがよい(図5-3-1参照)。

c.  安全衛生教育に力をいれており、2期連続で休業災害0を達成している。

d.  省力化工法を積極的に取り入れ、データの蓄積もある。

e.  長年の取引きのある顧客がある。

f.  県内外に取引きのある同業者があり技能者の動員力がある。

ぁ.30歳代の技術者層が薄い(図5-3-1参照)。

ぃ.繁忙閑散の波がある。

機会(O) 脅威(T)
外 部 環 境 A. 震災復旧工事で新規取引先となった地場優良元請との関係をさらに強化し、今後の受注につなげ顧客化を図る(a,b,c)。

B. 大手、準大手元請の比較的大きな物件に対して省力化工法の採用を堤案、同業者とも協力し受注につなげていく(d,e,f)

ァ.技術革新により、技能者の需要が減少していく。

ィ.技能者の流出や離職につながる。

マイナス要因を克服するアイデア
弱み(W)への対策
内 部 環 境 ぁ´.若年技能者への技能教育を強化する。

(1)   Off-JTを積極的に取り入れる。

(2)   職業訓練指導員の資格取得者を増やし、OJTによる育成を効果的なものにする。(3名増やす)

ぃ´.顧客と連携してそのとき不足している工種を応援する。

(1)   型枠工事の閑散期は内装工事や外構工事の繁忙期になることが多く、なかには型枠工の技能を生かせる仕事がある。

(例)内装工事における墨出し工事、ボード貼りの作業や外構工事における擁壁の鉄筋・型枠・コンクリート打設工事等がある。

脅威(T)の克服
外 部 環 境 ァ´.型枠専門の技能だけでなく、他工種の技能も身につけた多能工を育成し差別化を図る。

ィ´.施工管理能力の高い技能者の育成および、型枠技能者から多能工を育成し、幅広い工種に対応できるようにする。

 

 

 

5-6.SWOT 分析結果への考察

SWOT 分析結果を考察します。(表 5-5-1 参照)。まず強み( a.b.c )を生かすことで、( A )「新規取引先となった地場優良元請を顧客化」できると考えます。また強み( d.e.f ) を生かし、( B )「大手準大手元請に対して省力化工法の提案を行い、同業者と協力して受注を増やしていく」ことができます。弱み( ぁ )への対策として、( ぁ´)「若年者への技能教育を強化する」ことに取組んでいます。弱み ( ぃ ) に対しては( ぃ´)「顧客と連携してそのとき不足している工種を応援する」に取組んでいます。脅威(ァ)を克服するため(ァ´)「型枠専門の技能だけでなく、他工種の技能も身につけた多能工を育成する」と(ィ)を克服する(ィ´)「施工管理能力の高い技能者の育成および、型枠技能者から多能工を育成し、幅広い工種に対応できるようにする」ことで当社の強みとし、機会を捉えることが出来ると考えます。

 

 

6.経営戦略の策定

 

SWOT分析により当社の強みを生かした戦略として、①『新規取引先の顧客化』②『省力化工法の採用提案を行い他社との差別化を図る』とします。

また脅威を克服する戦略を、③ 『施工管理能力の資質向上』 ④『型枠技能者の多能工化を推進』とします。

 

 

7.今後の取組みと監査

 

7-1.今後の取組み

(1)『新規取引先の顧客化』についての取組み

元々大手・準大手元請との取引が多く、大型物件の受注減少の傾向を考えると顧客数を増やす必要があると考えます。熊本震災後の復旧工事で新規取引先となった地場元請が 6 社あります。多くの元請が、施工パートナーとして特定の型枠工事業者と取引するのが通例です。

しかし技能者の高齢化や離職により社員数が減少した会社も多く、予期せぬ工事や大型物件に対応できずに工事が遅延してしまう事態が頻繁に起きています。すでに 1 社からは高い評価をいただき、その後の新築物件の受注にもつながっています。現在も数社の元請から依頼を受けています。

まずは受注し、管理力と技術力で信頼を勝ち取り顧客化を図ります。来期中(2018年6月~2019年5月)には売上高における地場元請の占有率 30%を達成します。

 

(2)『省力化工法の採用提案を行い他社との差別化を図る』についての取組み

大手、準大手元請が受注する現場は比較的規模の大きな物件が多く、品質、工程、安全管理においてレベルの高いものが要求されますが、今一番要求されるのは技能者の確保です。技能者不足による工程の遅延は信用につながる問題であります。

当社は技能者不足を解消する手段として、省力化工法の採用を積極的に提案し、他社との差別化を図ります。同時に同業者と連携し、技能者の確保に努めます。

 

(3)『施工管理能力の資質向上を図る』についての取組み

本来型枠技能者である当社の売りものは型枠の技能です。施工管理は元請(顧客)の仕事ですが、当社の現場責任者が高い施工管理の知識、能力を身につけることにより、元請(顧客)の管理業務の補佐や顧客の目線にたった提案、また先回りしてリスクを回避することもできます。これまでも取組んできましたが、より高いレベルの人材を育成します。これにより現場にある隠れたニーズも見つけだすことが出来ると考えます。

また戦略(1)、(2)を成功させるためにも高い施工管理能力を持った人材は必要です。当社には現在2級建築施工管理技士が6名、2級土木施工管理技士が 1名、1級建築施工管理技士が3名在籍していますが、来期中に3名の1級建築施工管理技士を増やします。

 

(4)『型枠技能工の多能工化を推進』についての取組み

今後の建設業界は技術革新(機械化や省力化工法)が進むことで、専門性の高い技能が必要な仕事も減少していくと思われます。これからは型枠の技能だけでなく複数の工種に携われる技能者(多能工)を育成することが重要な差別化戦略であると考えます。

現在閑散期の対策として人手不足の現場において内装や、外構の工事を施工することがあり多能工といえるレベルではありません。「多能工育成推進チーム」を起ち上げ育成計画をたて3年で3名の多能工を育成します。以下に専門工と多能工のイメージを示します(図 7-1-1 参照)。

 

図 7-1-1 専門工と多能工のイメージ

 

 

7-2.監査方法

(1)『新規取引先の顧客化』についての監査方法

月2回の幹部による自主安全パトロールを実施し、固定顧客同様の安全管理を徹底します。また現場担当者によるコンクリート打設前点検を実施し、不良個所の是正、チェックシートへの記入、提出を徹底して品質管理に努めます。

 

(2)『省力化工法の採用提案を行い他社との差別化を図る』についての監査方法

採用された工法別、現場毎のデータを数値化し成果を営業利益まで落とし込んで毎月の施工会議にて計画、実行の確認、結果の評価、意見交換、改善していきます。

 

(3)『施工管理能力の資質向上を図る』についての監査方法

資質向上の目的を明確にし、役割目標を新たに作成し周知します。工事課長による現場巡回時にフォローを行ない、その成果を人事評価に反映させていきます。

 

(4)『型枠技能工の多能工化を推進』についての監査方法

多能工育成推進チーム4名(チームリーダーを含む)を選出し、5月より着工予定の鉄筋コンクリート住宅の現場で、足場、鉄筋、コンクリート打設工事の基礎技能の習得を目指します。(足場、鉄筋工事については各専門工事業者に発注し、各職種の責任者の指導を受けることにします。)施工中はヒアリング等を通じて適性を判断、課題を見つけ解決していきます。基礎技能習得の後、社外の教育訓練施設の実施する Off-JTも活用し育成していきます。目的、ビジョンを伝え、理解を得て、計画的に多能工を育成します。

 

 

おわりに

 

今回論文作成を通じて当社の強みを考えた時、あらためて人材の大切さを考えました。将来求められる技能者の姿は変化していきますが、社員一丸となり希望をもって進んでいきます。そして FC03で学んだことを、社員が明るい未来を感じるような会社づくりに生かしていきます。

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