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修了生論文

財務分析から読み解く当社の設備投資の可能性について

福岡校 (F-college) 坂元 裕朗

1.動機

 

昨今、当社を取り巻く経営環境は比較的良好と考えられています。リーマンショックから始まった建築業界の不景気も、消費税アップ前の駆け込み需要から10%への増税を前に衰えることなく震災復興や東京オリンピックの影響もあり順調といえます。そのような中、当社も売上増加に伴う従業員の増員や2015年には事務所の建替えを行いました。さらに、ベテランと若手の世代交代を目的とした従業員の増員をはじめ、40年以上経過した倉庫の建替えなど、これまで以上に設備投資が必要になります。

しかし2020年以降、業界全体が不景気におちいることが予想される中、大規模な設備投資を行う体力が当社にあるのかどうか判断をしなければなりません。その判断材料として、今回のビジネススクールで得た知識の一つである財務分析を行います。財務分析の結果から、そもそも設備投資を行うこと自体が無謀なのか、それとも一定の条件下においては可能なのかの判断をした上で、実現可能な設備投資計画を立てるようにします。

 

 

2.企業概要

 

会社名 有限会社坂元建材商会
所在地 鹿児島県鹿児島市東開町4-24
設立 昭和30年3月2日(創業:昭和27年5月)
資本金 600万円
従業員数 10名(2018年2月現在)正社員7名(男5名、女2名)

パート社員1名嘱託パート社員2名

事業内容 木材・新建材の卸売、小売、不動産賃貸
主要設備 2tトラック4台、3.5t小型移動式クレーン車1台、軽トラック1台、フォークリフト3台、木工機械1式

 

3.問い

 

ベテラン社員が50代に差し掛かる今、スムーズな世代交代を目指し5月から3名正社員を登用する予定の中、人件費の上昇は確実であり、具体的な数字の検証とその状況下で倉庫の建替えをすることが会社の財務内容をどれほど悪化させるのか、事業を継続するためにはどのような規模の設備投資が望ましいかを分析します。

 

 

4.研究方法

 

まずは『ファイブフォース分析』を行い、業界全体の将来像を予測します。そして、内部環境分析として、『SWOT分析』を行い、当社の特徴を確認します。これらの分析を考慮し、今現在の当社の財務分析を行い、金融機関からどのような条件で融資を受けるのが望ましいのかを決定します。

 

 

5.研究結果

 

5-1 建築業界における現場配送業のファイブフォース分析

 

新規参入の脅威

①ヤマダ電機のように異業種からの参入もある。これらは、独自のコンセプトを打ち出し、異業種から参入した強みを前面に出して顧客を獲得しようとしている。

②インターネット販売により、川下である施主からの材料支給が可能になるなど、新たな流通形態が普及しつつある。

 

業界内の脅威

①業界内で経験を積んだ人が顧客を連れて独立する傾向がある。(但し多くの場合、同業者、仕入先から批判されやすく、相応の覚悟が必要。)

②一括配送を得意とした大手企業や小回りを得意とした中小・個人企業など、大小様々な企業が乱立している。

③商品の差別化が難しく、価格やサービスの過当競争に陥りがちである。

④若者に人気のある業種とはいいがたく、労働力の高齢化が問題視されている。

⑤労働人口減により、人件費の上昇が余儀なくされる。

⑥人口減による市場規模の縮小が今後顕著になっていく。

 

代替品・サービスの脅威

①ドローンのように、人と時間を省略できるサービスが今後進化して、流通業全体の革新が起こる可能性がある。

②スケールメリットを活かした大手企業によるローコストの一括配送。

 

売り手の交渉力

①多数の問屋が存在する為、交渉力は決して高いとは言えないが、徹底した与信管理を行っている為、一定の資金力がないと保証金を積まされるなど、取引条件も制限される。

②既存の大口取引先が、新規の買手に対し、販売を制限するような口添え、圧力をかけることもある。

 

買い手の交渉力

①大手ゼネコンやハウスメーカーから、下請けの工務店、個人職人等多数存在する為、どこをターゲットにするかで交渉力は変わってくる。

②買い手の取引先が多いほど他社と競うことになるので自然と交渉力は強くなる。

③1社に偏った販売をしてしまうと、自然と買手の交渉力は強くなる

 

 

以上のことから、外部環境としては売り手の交渉力は低く、買い手を選ぶことで買い手の交渉力をある程度抑えることができます。新規参入も比較的容易で、業界内に多数のプレーヤーが存在する為、利益を出しづらい業界と言えます。そして将来的にはITロボットなどの新しいサービスがでてくることで、業界内での淘汰が進むと考えられます。今後成長が著しい市場とは言えないかもしれませんが、人間の生活に欠かせない住宅産業が無くなることはなく、時代に合った業界の流通サービスを提供していくことで生き残りは可能です。

 

次にSWOT分析を行います。

 

5-2 SWOT分析

内部環境 強み(s) 弱み(w)
a)  在庫商品を多数揃えることで、県内の同業約270社のうち、1,2を争う配送スピードを有する。

b)  事務所周辺には、各問屋や加工工場、住設ショールームが5分圏内に密集している。

c)  従業員が明るく配達先でお客様と友人のような感覚で話ができる。

d)  自社土地(1,553坪)に事務所があり、不動産収入もある為、安定した収入がある。

e)  顧客が全て既存のお客様からの紹介の為、価格競争に巻き込まれにくい。

f)  銀行と良好な関係構築ができている。

g)  自社敷地内に拠点を構えている顧客がおり、意思疎通が図りやすい。

あ)営業職をおいていないので、現場打合せ等が困難。

い)口座開設にあたって、契約書等を交わしていない為、与信管理が甘い。

う)月間・年間の予算組みができていない。

え)社長ありきの業務体系になっている。

外部環境 機会(O) 脅威(T)
A)  昔に比べ職人が減る中、工期短縮を求められ、商品手配の配送スピードがより重要になる中、他社の配送スピードに不満を持つ顧客を取り込む。

B)  ショールームや各問屋の営業マンを使って、顧客の要望に応えられる営業をしていく。

C)  コミュニケーション能力を高める研修や会合に積極的に参加させる。

D)  中長期的な設備投資や人材育成を積極的に行う。

E)  今後も既存の顧客を重視し、顧客が新規の顧客を紹介したくなるような価格以外のサービスを提供する。

F)  低金利な条件が続く限り、与信を活かした仕入れ・値引き活動を取り組む。

G)  顧客に仕事を依頼するなど、相互に協力できる関係を築いていく。

ア) 業界が不景気になった時に、顧客が離れる可能性がある。

イ) 顧客が個人の場合、病気やケガがそのまま倒産になる可能性が高く、不良債権化してしまう。

ウ) 中長期的な目標がたてられず、資金繰りなどの計数面で金融機関等に不安を与えてしまう。

エ) 社長に万が一のことがあれば立ち行かなくなる恐れがある。

 

弱み(W)をどう克服していくかですが、あ)については、当社の立地環境を最大限活用して、メーカー・問屋の営業マンに当社の顔として打合せをしてもらいます。い)については、今後の新規口座開設は契約書を交わし、既存の顧客についても可能な限り契約書を交わすか、保証金を積んでもらいます。う)については、今回の中長期計画をベースに、月単位・年単位で事業計画を立てるようにします。え)については、定期的に社長がいない期間をあえて作り出し、社長不在の中でも会社が回る体制をつくっていきます。

一方、脅威(T)の回避についてですが、ア)配送時に定期的な訪問を行い、仕事とは関係のない話でもコミュニケーションをとることをしてもらい、人間関係が切れないようにしていきます。イ)については、どうしても避けられない問題ですので、被害を最小限にする為、与信枠を内外に明確に開示し超えた分については中間金をいただくようにします。ウ)については、克服が困難な場合は、エフアンドエムのサービスを最大限活用するなど、外部との提携をしていきます。エ)は、自分自身が細心の注意を配ることに尽きます。危機回避能力を運も含め高めるのが社長の責務です。

それぞれの分析から、建築業界全体として今後成長見極めることは容易ではありませんが、少なくとも未来がない市場でもありません。時代のニーズにあった流通サービスの形が必ずあるので、いかにそれを見落とさず、他社に先駆けて取り組めるかが重要です。代替品・サービスの脅威についても当社がそれを逆に有効活用することで共存は可能です。(ちなみに今現在でも、顧客との合意の上でアマゾンや近隣のホームセンターで商品を購入し、上乗せの金額で現場まで配送することも行っています。)当社の強みを活かし、与信管理をしっかりすることで、安定した会社経営を行っていきますが、当社には築40年以上経っている倉庫があり、雨漏れなどの被害もあることから建替えを検討せざるを得ません。ここからは、これらの設備投資を行う為の自社分析と中長期計画の立案をしたいと思います。

 

5-3 財務分析

まず当社の資産状況ですが、下記のようになっています。

流動資産 306,374 流動負債 192,099 短期借入金 124,000
固定資産 96,732 固定負債 148,161 長期借入金 148,161
総資産 403,106 純資産 62,846 62期(単位:千円)

 

なお、この期の売上高は537,180千円、経常利益11,485千円、営業利益10,647千円、支払利息2,388千円、また販管費は112,811千円です。

これらの内容から下記の通り財務指標を算出します。

  • 流動比率→159.5%
  • 当座比率→129.9%
  • 自己資本比率→15.6%
  • 総資本経常利益率(ROA)→2.85%
  • 株主資本利益率 (ROE)→18.3%
  • 売上高経常利益率→2.14%
  • 売上高販管費率→21.0%
  • 総資本回転率→1.33%
  • 棚卸資産回転率→9.45%
  • 借入月商倍率→6.08倍
  • 売上高金利負担率→0.44%

上記のまとめとして、返済能力は高いとは言えず、自己資本比率も業歴の長さの割には低く、資産の有効活用も数字だけで見れば決してよくありません。借入月商倍率も6倍程度と銀行に依存しています。

しかしながら金利負担率が1%を切っているのは昨今の低金利のおかげでもありますが、私自身、今後金利上昇局面になれば、今のビジネスモデルを根本的に見直すつもりです。また、5月からの正社員登用の予定ですが、3人を雇うにあたって1年間で必要な人件費は諸費用合わせて、945万を見込んでいます。定期昇給も考えると、3年後には1,050万円を超えてきます。昨期の経常利益が1,150万円ほどですので、今のままでは会社は利益を生み出せなくなってしまいます。これの解決策としては、嘱託を含めた、3人のパート社員を順次正社員の成長に合わせて減らしていくことと、増員による残業時間の削減が見込めるので1年目は150万円、3年目には800万円の人件費削減を見込みます。差し引き250万円の差額が発生しますが、これを埋める為の利益捻出は今後の課題とします。

前述を考慮すると、研究結果としては財務面で設備投資は難しいものと判断できます。しかし経営戦略的にはどうしても必要ですので考察として、キャッシュフロー計算をして、返済余力がどの程度あるのかみていきます。

 

 

6.考察

 

倉庫建替えの設備投資についてですが、既存倉庫の解体から、工事期間中の仮設倉庫費用、老朽化した電気設備工事まで含めると概算で約9,000万円かかると予想しています。

以下に銀行借入の返済条件を示します。

 

・9,000万円のケース

 (単位:円) a案 b案 c案 d案 e案 f案
年間利子率 1.15% 1.15% 1.15% 1.20% 1.20% 1.20%
貸付期間 10年 15年 20年 10年 15年 20年
返済回数 120回 180回 240回 120回 180回 240回
月返済予定額 750,000 500,000 350,000 750,000 500,000 350,000
総利息 5,218,984 7,808,286 10,397,552 5,445,906 8,147,783 10,849,631
1年目支払額 10,058,717 7,077,276 5,586,557 10,104,750 7,124,113 5,633,798

 

今回の倉庫はこれまでのスレート葺ではなく、造りが丈夫なプレハブで考えているので、耐用年数は30年、毎年の減価償却は300万円です。

2018年12月に設備投資をした場合の次年度以降の返済余力を次のような計算で確認します。

  • (予想営業利益)-(新設倉庫原価償却)+(営業外収益)=(経常利益)
  • (経常利益)×(法人実効税率)=(実行税額)
  • (経常利益)×(実行税額)=(税引後利益)
  • (税引後利益)+(減価償却)= (返済財源)

下記に、返済期間10年間と20年間の予測の数字をそれぞれ表とグラフにします。

2020年までは直近の数字同様1000万円の営業利益がでると考えますが、翌年以降は景気の落ち込みも考慮した数字を出します。

 

(単位:万円)(※千円以下四捨五入) 返済財源 新設倉庫分
予想) 営業利益 経常利益 税率 税引後利益 減価償却加算 合計 返済金額

(10年1.15%)

返済金額

(20年1.2%)

2018 700 750 30% 525 995 1,520 83 46
2019 700 750 30% 525 841 1,366 1,034 558
2020 700 750 30% 525 739 1,264 1,020 552
2021 700 750 25% 412.5 720 1,133 1,007 547
2022 700 750 25% 337.5 617 9,540 993 541
2023 700 750 25% 337.5 522 8,595 980 536
2024 700 750 25% 337.5 480 8,179 966 531
2025 700 750 25% 337.5 466 8,036 952 525
2026 700 750 25% 337.5 466 8,036 939 520
2027 700 750 25% 337.5 466 8,035 926 514
2028 700 750 25% 337.5 461 7,987 837 509
2029 700 750 25% 337.5 455 7,929 0 504
2030 700 750 25% 337.5 455 7,924 0 498
2031 700 750 25% 337.5 451 7,887 0 493
2032 700 750 25% 337.5 443 7,810 0 487
2033 700 750 25% 337.5 431 7,682 0 482
2034 700 750 25% 337.5 431 7,682 0 477
2035 700 750 25% 337.5 431 7,682 0 471
2036 700 750 25% 337.5 431 7,682 0 466
2037 700 750 25% 337.5 364 7,013 0 460
2038 700 750 25% 337.5 359 6,960 0 417

 

※この表の返済金額は、実際の返済額と異なり、期首の借入残高を1年間365日の利息計算をしているため、誤差があります。

 

 

 

上記のグラフの形状からもわかるように、a案では返済5年目に返済金額が返済財源を超えてしまい資金繰りが行き詰ってしまいますが、f案では余力のある返済が可能となります。

しかし、財務指標におきかえてみたら実際どうなるのでしょうか。業界の市場規模の縮小も加味して、売上予測を5億円と仮定し、利息が1.2%で20年借りる時で見てみます。

 

 ※いずれも借入1年目 9,000万円を20年で返済する時
自己資本比率 12.70%
総資本回転率 1.01%
借入月商倍率 8.69倍
売上高金利負担率 1.13%

 

ただでさえ20%以上欲しい自己資本比率が15%以下になってしまい、総資本回転率は1%を下回る勢いです。借入月商倍率も9倍目前で無茶な投資に思えます。

しかし、金利負担率は1.13%と、他の指標に比べると安定した数字です。見方を変えれば、低金利の今こそ大掛かりの設備投資をすべきとも考えられます。

 

 

7.今後の取り組みと監査

 

老朽化による設備投資は企業が永続していく上で避けては通れないものです。業績が安定し、金融機関が積極的な今こそ多少の無理は承知で設備投資をしていくべきと結論付けます。ただし一歩誤れば、すぐさま財務危機に陥りかねないのは数字が物語っており、金融機関と密な経営計画を立て、年間計画との誤差を随時修正して、慌てることのない経営をしていきます。これまで、経営に関わる数字は社長一人で抱えていましたが、一人一人が数字に真剣に向き合うことで、常に緊張感を持った集団になれるよう、可能な限り情報開示をしていきます。

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