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修了生論文

現状分析と経営戦略の妥当性についての考察

福岡校 (F-college) 池野 辰太郎

1.動機

 

私は、約1年前に修行先である西日本最大手の酒販店から帰郷し、現在、後継者という立場で在籍している。

帰郷後、会社の規模や地域性、様々なギャップと深刻な人手不足に直面した。そして酒税法の改正による不当廉売の規制、2018年3月、4月の4大ビールメーカーの値上げ等、目まぐるしい市場の変化の中で当社が勝ち抜く為に、どのような戦略をたてるべきか日々模索している。当社では、特定名称酒やワインに注力し差別化を図る事で、価格戦略から脱却する戦略をとっている。

しかし、人口減少が続く地方都市で、その様な差別化は、自ら市場を狭め、不必要な差別化となっていないかという疑問がある。また、現在の経営戦略が、内部環境や外部環境との整合性が取れており、妥当なものであるか、論理的裏付けがある検証をしたく、このテーマを選択した。

 

(注1) 特定名称酒とは酒税法により区分されている比較的高価な清酒を指す。

 

 

2.現状と経営戦略

 

2-1はじめに、当社の概要を以下に示す。

 

社名 有限会社 酒の一斗
本社所在地 長崎県佐世保市吉井町立石272-1
創業 昭和3年4月1日池野酒店創業
業種 酒類小売事業(店頭における酒類、飲料水、食品の販売)

業務用卸事業(飲食店、ホテル等への酒類の卸売り)

売上高 グループ全体約20億
従業員数 約70名

 

2-2 次に、グラフを用いて当社の大まかな現状を示す。

※2016年1店舗閉鎖後セブンイレブンに切替えている為、売上高推移表では除外する。

 

【事業部別売上高推移】

2015年 2016年 2017年
小売事業部 626,614,679円 516,941,674円 500,444,106円
業務用卸事業部 752,989,665円 752,667,709円 741,711,854円

 

 

・小売事業部は、16年4月に1店舗を閉店している(売上高からは除外)為、大幅に減少しており、その後も、大手ディスカウントストアや大手ドラックストアの出店の影響により、減少傾向にある。また、売上高の減少により仕入面での悪影響も出て来ている。

・業務用卸事業は、16年で微増したものの、17年で微減している。また17年は、6月の酒税法改正による値上げを行っているため、実質プラス2%程減少している。

 

【小売事業部主要部門売上高推移A】

 

【小売事業部主要部門売上高推移B】

 

・清酒は、閉店の影響で大量生産品は大幅に減少しているものの、特定名称酒はブームであることと当社が注力している部門でもあるため、増加傾向にある。

・清酒、ビール、焼酎乙類のナショナルブランドが多い部門は閉店の影響が堅調である。

 

【業務用卸事業部主要部門売上高推移A】

 

【業務用卸事業部主要部門売上高推移B】

 

・小売事業とおおよそ同じ推移をしているがワインは小売事業とは逆に増加傾向である。

・ウイスキーはビールからハイボールへの需要移行により小売よりも堅調に増加している。

 

【小売事業部売上高構成比】

 

【小売事業部粗利額構成比】

 

・ビール系の粗利率の低さと特定名称酒とワインの粗利率の高さが目立ち、ビール系の価格競争の激しさが読み取れる。

 

【業務用卸事業部売上高構成比】

 

【業務用卸事業部粗利額構成比】

 

・ビール系では価格競争を避けている為、小売事業程低粗利ではない。

・小売事業と比較して売上高、粗利額共に、特定名称酒のシェアが低い。

 

2-3次に現在の戦略を示す。

小売部門、業務用卸部門、共通するテーマは「価格から価値へ」であり、特定名称酒とワインを中心に付加価値と粗利率の高い商品をさらに豊富に揃え、専門性の高い接客、営業を行い差別化を図る。事業部別で見ると以下の通りである。

 

□小売事業

  • 特定名称酒、ワインを中心に付加価値と粗利率の高い商品の品揃えを強化する。
  • お酒の価値を高める様なナショナルブランドではない地元、地方食材の販売を強化する。
  • 社員教育に力を入れ、専門店ならではの質の高い接客、営業を行う。
  • 顧客を繋げ需要拡大の為、現在の「酒愛の会」や「ほろ酔い会」等のイベントを強化する。
  • ナショナルブランドの価格はエリア2、3番手を保つ。
  • 企業様向けのお中元、お歳暮等ギフト商品の販売強化を行い、更に地域密着度を高める。

 

□業務用卸事業

  • これまでの様な大規模展示会ではなく、お客様との密なコミュニケーションを図れるような小規模な展示、試飲会をこまめに行う。
  • 日本酒、ワインを中心に付加価値と粗利率の高い商品に注力し営業を行う。
  • 居酒屋チェーンやホテル等、大口顧客以外では、ビール系、ナショナルブランド商品での価格競争を避ける。
  • 配送員の営業スキルを向上させ、迅速かつ効率的なより良いサービスを提供する。

 

 

3.問い

 

現在の経営戦略は、妥当であるか?

 

 

4.検証方法

 

現状を把握し、外部環境分析として、ファイブフォース分析、PEST分析、内部環境分析としてSWOT分析を活用し多角的な視点を持ち検証する。

 

 

5.検証結果

 

□小売事業・外部環境

初めに、ファイブフォース分析を用いて、当社を取り巻く5つの脅威を分析する。

 

【ファイブフォース分析】

 

 

新規参入者

:大手ディスカウントストア、大手ドラックストア、コンビニ、通信販売

 

供給者の交渉力

:メーカー値上げや、政府主導の値上げには従わざるを得ない。

:リベートを含め、規模の経済による仕入値の違いが大きい。

 

顧客の交渉力

:スイッチングコストがかからない。

:情報差異が大きい。

 

代替品・サービス

:大手ディスカウントストア、大ドラックストア、コンビニ、通信販売

 

業界内の脅威

:若年層のアルコール離れや健康志向の高まりによる飲酒人口の減少。

:人材不足。

 

次に、PEST分析を用いて、政治的要因、経済的要因、社会的要因、技術的要因の4つの視点から業界を分析する。

 

【PEST分析】

 

Politics(政治的要因)

:2016年6月から施工された酒税法改正による不当廉売の規制。

:2017年4月から施工される酒税法改正によるビールの定義緩和。

:2020年から約5年間3段階に分け施工されるビール系酒税の統一。

 

Economy(経済的要因)

:酒類の国内消費は減少傾向である。

:緩やかながら物価は上昇傾向にある。

:大手企業を中心に賃金は上昇傾向にある、

:所得格差の拡大。

:日本酒の国際的評価の高まりによる輸出の拡大。

 

Society(社会的要因)

:2018年3月、4月からの4大ビールメーカーによる値上げ。

:地方都市の人口減少。

:若年層と健康志向の向上によるアルコール離れ。

:特定名称酒の国内需要の拡大。

:ビールの市場縮小に伴う酎ハイ市場の拡大。

:国産ワインの国際的評価の向上。

:ウイスキーの原酒不足と国産ウイスキー蒸溜所の増加。

:節約志向の高まりによる「外飲み」から「家飲み」への需要移行。

 

Technology(技術的要因)

:製造コストの低下に伴う類似商品の増加。

 

□小売事業・内部環境

次に、SWOT分析を用いて、当社の強みを活かし、どのように機会を捉え戦略をたてるのか、また、弱みがどのような脅威となるのか、どう対策をするのかを分析する。

 

【SWOT分析】

SWOT分析イメージ図

 

「Strength」

  1. 酒類においてエリア1の品揃え。
  2. 全店セラー完備でエリア1の品質管理。
  3. 長年の営業で得た常連顧客が多い。
  4. お歳暮や御中元等、ギフト企業様への個別の対応が出来る。
  5. スタッフの酒における専門知識が競合店よりは豊富。
  6. 各店が地元の商品に力を入れている為、地域密着度が高い。

 

「Opportunity」

  1. バイヤーの育成を強化し商品力に磨きをかけ、ペルソナの策定を活用した販売方法を行う。
  2. セラーの存在、必要性をアピール専門店らしさを強調する。
  3. 既存の顧客の情報を管理し、より良いサービスを提供し囲い込みをする。
  4. 法人様をターゲットにした広告や営業を強化する。
  5. 社内勉強会を活用し、従業員の知識を向上させ接客の向上を図る。
  6. 地元の食材の品揃えを強化し、地元商品の販売を伸ばす。

 

「Weakness」

  1. 価格競争に陥っている為、粗利率が低い。
  2. 経験の浅い従業員が多く、自発的に動ける従業員が少ない。
  3. 品揃えに注力するあまり、回転率の悪い在庫が多い。
  4. 転写性能が低く各店での業務が統一されていない為、効率が悪い作業がある。

 

「Threat」

  1. 低粗利の中、人件費の高騰が進むと利益の確保が困難になる。
  2. 上司の手が取られ、組織としての成長スピードが遅くなる。
  3. 在庫金額が増え、当座比率が低くなり、キャッシュフローが圧迫される。
  4. 社員の移動や新店出店の際に、作業効率が悪くなる。

 

「Weaknessの対応策」

  1. 価格競争商品と付加価値の高い商品を明確に分け、価格競争商品の開発と付加価値の高い商品の導入と販売方法を見直す。
  2. 従業員の定着率の低さを改善する為、労働環境と給与体制の見直しを行っている。
  3. 仕入の見直しを行う。また回転率の悪い商品は販売方法を素早く見直し回転率を上げる。
  4. 各店での共通作業のマニュアルの見直しを行い忠実に活用する。

 

次にVRIO分析を用いて、当社の経済価値、模倣困難性、組織の視点から分析する。

 

【VRIO分析】

Value(経済価値):エリア1の商品力である為、経済価値はあるといえる。

Rareness(希少性):各店の市場では酒の専門店はそれほど存在しない為、希少である。

Imitability(模倣可能性):希少価値の高い商品を多数揃えている為、模倣は困難である。

Organization(組織):転写性能が低く、経験の浅い社員が多く、将来を担う若い社員も少ないので弱いといえる。

 

□業務用卸事業・外部環境

【ファイブフォース分析】

 

新規参入者

:食品問屋、大手ディスカウントストア、大手ドラックストア、通信販売大手酒販店のM&Aによる地方市場参入。

 

供給者の交渉力

:メーカー値上げや、政府主導の値上げには従わざるを得ない。

:リベートも含め規模の経済による仕入値の違いが大きい。

 

顧客の交渉力

:スイッチングコストがかからない。

:情報差異が大きい。

:価格においては顧客の交渉力が強い。特に大手では堅調である。

 

代替品・サービス

:食品問屋、大手ディスカウントストア、大手ドラックストア、通信販売

 

業界内の脅威

:若年層のアルコール離れや健康志向の高まりによる飲酒人口の減少。

:人手不足(特に配送員)。

 

【PEST分析】

 

―小売事業部と同様―

 

□業務用卸事業・内部環境

【SWOT分析】

 

「Strength」

  1. 酒類においてエリア1の品揃え。
  2. 配送員の数がエリア1である。
  3. エリアにおいて価格優位性を持てる仕入れ値である。
  4. 複数の小売店舗がある為、商品供給においてお客様の要望に応え易い。
  5. 複数の小売店舗がある為、知名度が高い。
  6. ワインセラーの貸し出しサービスがある。

 

「Opportunity」

  1. バイヤーの育成を強化し更に商品力に磨きをかけ、営業、配送による広報を行う。また、商品力を活かした、展示会を行う。
  2. 配送員の数を最大限活かせる様、配送の効率化を図りよりスピーディーな配送を行う。
  3. 粗利率の低下に注意しつつ、価格優位性を活用しながらシェアの拡大を図る。
  4. よりスムーズな商品供給を行える様、各店間の在庫状況の確認をこまめに行う。
  5. 制服を作り、更に知名度を高める。
  6. ワインと一緒に積極的にアピールし新規獲得に繋げる。

 

「Weakness」

  1. 配送員の商品知識が乏しく営業力が弱い。
  2. 従業員の定着率が低い。
  3. 価格優位性を活かせていない。

 

「Threat」

  1. 新規顧客の獲得や、付加価値と粗利率の高い商品の販売が困難になる。
  2. 人手不足が慢性化し、組織として成長が出来なくなる。
  3. 新規顧客の獲得が困難になり、既存顧客の流出の可能性も高まりシェアが縮小して行く。

 

「Weaknessの対応策」

  1. 社内勉強会を活用し早急に商品知識の向上を図る。
  2. 原因として労働時間の長さがあった為、改善中。
  3. 過度な価格競争は避けながらも価格優位性は十分にアピールして行く。

 

【VRIO分析】

Value(経済価値):エリア1の商品力があるが、価格が安いとは言えない為、経済価値は高いが、小売業程は高くないといえる。

Rareness(希少性):競合が複数存在する為、希少性は低い。

Imitability(模倣可能性):希少価値の高い商品を多数揃えているが、小売事業程の競合他社との差はない為、小売事業よりは容易である。

Organization(組織):経験が浅い従業員が多く営業力が弱い。また若い社員が少ない為、将来を担う人材が不足している為、組織としては弱い。

 

 

6.考察

 

以上の検証結果から考察を行う。

 

□小売事業部

VRIO分析、SWOT分析の結果から、現在の戦略は、業界の動向や顧客ニーズとマッチしており、強みも活かせる戦略となっているため妥当であると考える。

しかし、売上、粗利額構成比からみると、ビール系の売上高は高いシェアを持つが粗利率が極端に低く、激しい価格競争に陥っている事と特定名称酒とワインの粗利率の高さが分かる。ビール系の価格競争から脱却しながら利益を伸ばすには、ビール系の粗利額を特定名称酒、ワインで補填出来る市場を創り出す必要がある。

また、ビール系の価格競争から脱却し販売量が低下する事で業務用卸事業部の仕入値にどの程度の影響が出るのか、特定名称酒やワインの販売にマイナスの影響が出ないか、ビールと特定名称酒、ワインの相関関係を調べる必要がある。

 

□業務用卸事業部

SWOT分析の強みを活かせていない部分がある為、戦略として不完全であると考える。売上、粗利額構成比からも、強みであるビールでの価格優位性を活かせておらず、特定名称酒やワインの販売も十分に出来ていないことが分かる。

現状、特定名称酒やワインを販売する専門的スキルが不足しているため、まずはビール系での価格優位性を最大限活かし当社のシェアを高めつつ専門スキルを習得し、その後、特定名称酒やワインの販売に繋げる戦略が望ましいと考える。

 

共通の考察としてVRIO分析の結果から、組織部分が弱く、戦略を忠実に実行する能力が不足しており、社員の定着率と専門スキルの向上を図る必要があることがわかった。この2つを並行して効率的に行う為に、まず、日常業務を行うノンコア業務チームと専門的スキルを要するコア業務チームに分け、ノンコア業務チームには基本的なスキルを徹底させ、コア業務チームには専門的スキルを向上させるような教育や社内勉強会を実施し、現場に負担をかけず、かつ効率的に組織を強化して行く戦略が望ましいと考える。

 

 

7.まとめ

 

今回の検証で、疑問が解消され、頭の中を整理することが出来た。このフレームワークを活用し、全社員に簡潔に説明し、社員全員で方向性の統一を行う。

さらに、社内でフレームワークを常用化し、各店舗でより効率的で尖った戦略をたてられるようにする。そして、F-Collegeで学んだことを最大限活かせる様、学習を続け自分のものとし、社内に還元して行く。

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